福島県郡山市のWさん宅の、料理好きな奥さんこだわりのダイニング・キッチン。白を基調とした開放的な空間に、ボリュームのあるシャンデリアが映える
福島県郡山市のWさん宅の、料理好きな奥さんこだわりのダイニング・キッチン。白を基調とした開放的な空間に、ボリュームのあるシャンデリアが映える

古刹の持つ力に感銘を受け、
建築の道へと一意専心

「実家は福島県須賀川市で青果店を営んでいて、高校3年生の2学期までは家業を継ぐつもりでした」と穏やかな口調で語るのは、LITTLE NEST WORKS代表の阿武隈川哲郎さん。建築の道へと歩んだのは、ご両親の「自分の好きなことをしていいよ」というひと言と、京都・奈良への修学旅行での出会いがきっかけでした。「法隆寺や東大寺を見て、その空間の力に圧倒されました。千年以上の時を経てもこうして人に力を与えている。建築ってすごい!と感銘を受けたんです」。

この体験が契機となり、建築系の専門学校に進学。卒業後は建築設計事務所などでの勤務でスキルを磨きながら、一級建築士の資格取得のため、猛勉強の日々を過ごしました。「20代は必死に働き、必死に学び取る毎日。30歳で資格を取得しました。その間、幾つかの会社で働きましたが、それも建築に関するあらゆることを吸収したい、という思いからでした」。

32歳のとき、転機が訪れます。東日本大震災で、故郷の須賀川も多数の被害を受けたのです。「地元で地域貢献したいという気持ちがより強まりましたね」。そしてその2年後、須賀川で設計事務所を開業しました。

「デザイナー」ではなく
「建築屋のオヤジ」でありたい

独立後の初仕事は、開業前から手がけていた「三世代が憩う家」。家族みんながリビングに憩い、子どもの成長を見守ることのできる家を設計しました。お客様からは「家族の会話と笑顔が増えた」と喜んでもらえたといいます。「『NEST』は『赤ちゃんを身ごもったお母さんのお腹の中』といった意味で、お客様にとって、外部(社会)から守られた居心地のよい場所を提供したい、という想いを社名に込めました。それが達成できたのかなと手応えを感じましたね」。

家はお客様の大切な財産。それをつくらせてもらっているのだから、最も目指すべきは、お客様の理想を形にしながら、居心地のよい空間をつくること。だからこそ、敷地や周囲の環境を踏まえた上で、お互いに納得がいくまでコミュニケーションを取りながら、一緒につくり上げていく姿勢を阿武隈川さんは大切にしています。「私は自分を『デザイナー』だと思ったことはなくて、常に地域の『建築屋のオヤジ』でありたいと考えているんです。そのほうがお客様も気軽に要望を口にしやすく、良い家づくりができると思うんですよ」。意匠性は大切にしつつもデザインありきの家はつくらない。そんな確たる信念が、言葉の端々に滲みます。

住まい手の理想を追求した
その先に、デザインがある

今回撮影でお邪魔したWさん宅は、「愛猫と楽しく暮らせる開放的な家に」との要望を受けて設計。行き着いたのは、少し変わった形状をした2階リビングの住まいでした。「これまで手がけた家のデザインはどれも、お客様の想いを追求した『結果』に過ぎないんです」。デザインとは、あくまで+αのものと捉える阿武隈川さんは、デザイン優先でランニングコストやメンテナンス費用の負担が大きい家などは、住宅ローンを利用するお客様の重荷になってしまうと考えています。

「構造や性能も含めて本当に住みやすく、居心地がよい、お客様ファーストの家づくりをしていきたいんです。大それたデザインではなく自然体で」。そんな志が共感を呼び、「どれだけ待ってもいいからぜひお願いしたい」というお客様が確実に増えてきているといいます。

LITTLE NEST WORKSは、2018年4月に株式会社となり、社員2人体制で新たなスタートを切りました。「少数精鋭で建築バカが集う会社にしていきたいですね」とにこやかに話す阿武隈川さん。「数を追うよりも、一棟一棟を大切に。そして、お客様が帰宅したときに思わず『ムフフ…』と笑みがこぼれる家を共につくり上げていけたら、それが私たちにとっての『ムフフ…』です」。

(文/鎌田 ゆう子)

間接照明が照らす白い壁が印象的な玄関。1階は中央にトイレ、その左右にご夫婦の寝室を配したユニークな空間構成となっている
間接照明が照らす白い壁が印象的な玄関。1階は中央にトイレ、その左右にご夫婦の寝室を配したユニークな空間構成となっている
1階南面のフィックス窓と直線的な白い鉄骨階段は、猫たちが外の景色を楽しむのにうってつけの場所
1階南面のフィックス窓と直線的な白い鉄骨階段は、猫たちが外の景色を楽しむのにうってつけの場所

2階リビングの南面に設けた大きな窓は、外に広がる田園風景の季節の移ろいを絵画のように切り取ってみせる
2階リビングの南面に設けた大きな窓は、外に広がる田園風景の季節の移ろいを絵画のように切り取ってみせる
外観のフォルムは、プライバシーを確保しながら、敷地の特性を生かすことを考え抜いた末に生まれた
外観のフォルムは、プライバシーを確保しながら、敷地の特性を生かすことを考え抜いた末に生まれた
〈眺望を楽しみ穏やかに暮らす家〉
■福島県郡山市・Wさん宅/夫婦40代
■設計・施工/株式会社LITTLE NEST WORKS