夫婦で一緒にプランニングしたというダイニング・キッチン。無駄をそぎ落とした、シンプルながらも使い勝手の良い空間だ

北海道で得た経験を糧に
快適なエコ・ハウスを志す

学生時代はサッカー部に所属し、活発に走り回る一方で、一人静かに絵を描いたり工作をする時間も大好きだったという大塚陽さん。「将来は漠然とモノを形にする仕事がしたいと思っていました」と語ります。生まれ育った岩手の里山的な自然とは違う、北海道の原始的で雄大な自然に憧れ、旭川の大学へ進学。建築全般について学び、卒業後は函館の設計事務所に職を得ました。

勤務先で北海道の気候風土に合う住宅の設計をメインに担当するうちに、大塚さんはあることを感じるようになります。それは「北海道と東北の家の住宅性能の差」でした。「当時、北海道では当然とされていた断熱・気密の考え方は、東北ではまだ一般的ではありませんでした。北海道の家は冬でも暖かくて快適なのに、大船渡の実家に帰ると家の中の寒暖差のせいで体調を崩すとこともよくありましたね」。そんな経験から、「体に負担のない快適なエコ住宅を提供したい、それを技術者としての最低限のベースにしよう」と思うようになったと言います。

こうした志を抱き、東北に戻り2009年に盛岡で独立した大塚さん。初めて「オオツカヨウ建築設計」の名で設計した家が、見事「エコ・ハウスコンテストいわて」の大賞を受賞しました。

“人に優しい設計”を追求し
精査し整理してそぎ落とす

大塚さんに大きな影響を与えたのが、憧れの建築家・東孝光氏との出会いです。「若いころ、東さんに運良くお会いできたことがあるんです。駆け出しの自分にも一人間として接してくれた人間性に深く感動しました。お客様と接する時、自分も東さんのようでありたいと常に思っているんです」。そして、その時に掛けられた、「人に優しい設計をしなさい」という言葉。それが今も建築のデザインの指針になっているそうです。

大塚さんの住宅デザインは、まずクライアントの話をとことん聞くことから始まります。「最初は『あれもしたい』『これも欲しい』と最大限の希望を伝えてくれますが、その中には一時の思いつきや暮らしにそぐわないものも多いんです。それが、じっくりと話を聞くうちに不要なものとして省かれていくんですね。

『デザイン』という言葉には、もともとラテン語で『問題解決のために整理して表現する』といった意味があります。まさにその通り、ヒアリングをしっかりと行うことで、お客様の考えが整理され、お互いに納得のいくデザインに昇華することができると思っています。それがつまりは、住む人に優しいデザインということになるのではないでしょうか」。

普遍的で寛容なデザインから
美しさと心地よさが生まれる

家とは長く住み続けるもの。そして長く住む中で、家族構成や暮らし方、好みなどは変化していくものです。だからこそ、デザインは普遍的で寛容な計画にした方が良い、というのが大塚さんの考え。「普遍的な家とは、厳格であるとか、歴史的な意匠を取り入れるという意味ではありません。家族が長い間、暮らしの質を高めていくことができる確かな器、そう捉えています」。

そんな大塚さんが得意とするのが、テーマのあるデザインです。例えば、薪ストーブをテーマに、そこに家族がどう集うか。あるいは、大好きな家具をテーマに、どう家族の暮らしを当てはめていくか、といった具合に。「先の話にも通じますが、私のデザインは引き算していくデザイン。暮らしに盛り込みたい内容をプラスしていくのは簡単ですが、それだと焦点が定まらず、美しさも心地よさも感じられません。ですが、暮らしを良く見つめ、テーマをひとつに絞り、無駄をそぎ落としたデザインは、暮らしの変化にも寛容なうえ、美しく心地よいリズムを奏でるものなんです」。

性能もデザインも人に優しく、シンプルながらもきらりと光る家。「これからもそんな住まいを設計していきたいですね」と大塚さんは抱負を語ってくれました。

(文/鎌田 ゆう子)

土間からの眺め。天井と高さを合わせた造作の障子で空間をすっきりと演出
高性能なサッシを取り入れることで、デザインの自由度がアップし、大開口が可能に。内と外とのつながりが生まれた
黒く塗装したスギ板を張った外壁がモダン。夏には庭の木々の緑が黒壁に映え
低くどっしりとした外観。大塚さんの設計する家は周囲の環境に溶け込むよう、高さを抑えたものが多い
〈ヒラヤノイエ〉
■岩手県盛岡市・自邸/夫婦40代、子ども1人
■設計/オオツカヨウ建築設計
■施工/有限会社岩井沢工務所