国際貿易港として栄え、観光エリアとしても賑わう福島県いわき市の小名浜港。そこから内陸に向かって徒歩10分ほどのところに、鉄筋コンクリート造の3階建てが立っています。この1・2階にあるのが、同市出身の戸田宗輝さんがオーナーの店「ALAYA」です。カフェがあるのは2階。階段を上り、フランスのアンティークドアを開けると、そこには意外なほど天井が高く、表情豊かなコンクリートが目を引くラフな趣の大空間が広がります。

戸田さんは、東京で12年間アパレルの仕事を経験した後、いわき市にUターンしました。「前職に就いて10年過ぎたあたりから、自分で何か始めてみたいという気持ちが高まってきて。いわきならまだまだ伸びしろがあるし、面白いことができるんじゃないかと思ったんです」と当時を振り返ります。

インターネットで見つけたこの建物は、築約50年。以前は縫製工場で、ここ30年ほどは使用されていませんでした。「当初は何をやるか漠然としていました。でもこの物件に巡り合って、幼い頃にこの辺りを歩いた記憶が自然と蘇ってきて…。人が自然と集まって、ほっと落ち着けるようなカフェがやりたいとピンと来たんです」。

建物に魅力と縁を感じた戸田さんは、まず1階部分を借りて自らの手でリノベーションし、2018年から古着屋兼カフェを始めました。

拠点を設けた戸田さんは、2階のカフェづくりに取りかかります。リノベーションにあたって設計を依頼した東京の高田博章建築設計に、戸田さんは「あまりきれいに仕上げすぎないでほしい」と要望したといいます。それはコストを抑えるのと同時に「この地に50年立ち続け、東日本大震災で浸水被害にもあった、この建物の記憶を受け継ぎたい」という想いもあったからでした。

カフェ空間を見渡すと、壁も天井も、既存の内装仕上げ材をすべて剥がして現れたコンクリートの躯体をそのまま生かしています。表面には50年前の建設時に書き込まれた工事現場の指示や鉄筋の跡が見え、当時の人の気配と時間の流れを感じさせます。

100年以上前にカナダで製材されたという貴重で重厚感のあるカウンターを支える土台の一部には、既存の間仕切り壁を解体して出た廃棄物のコンクリートが使われています。これもまた、戸田さんの想いをアイデアとして形にしたもの。建物の記憶を視覚化するとともに、資源の再利用とコストダウンにもつながっています。

1階のリノベーションと同様に、戸田さんはできる限り自身の手を動かして2階のカフェづくりに取り組みました。ダイナミックな木の壁は、ヒノキの角材をカットして仲間に協力してもらいながら、一つひとつ手作業で張って仕上げたもの。その数、何と4000枚! 木目とランダムな厚みの違いが壁に陰影を生んで、コンクリートの空間に魅力を添えています。また、テーブルや一部の扉も、市内にある製材所から譲り受けた古材や端材でDIYしています。

「リノベーションで全体的に心がけたのは、つくり込みすぎないこと。最初からお金をかけて全部整えてしまうのは、自分としてはつまらない。後から手を加えて、さらにお客さんが居心地良く過ごせる空間にしていく楽しみを残しておきたいと思ったんです」。つくって終わりではなく、進化し続けていく。それがお店のコンセプトであり、戸田さんにとっての楽しみでもあります。

食事の提供や自家製パンの販売を行う2階のカフェと、戸田さんがカウンターでドリンクの提供もする1階の古着&雑貨ショップという2つのフロアからなるALAYA。「『どんな店なんだろう?』とワクワクした気持ちで来店してほしい」という考えから、あえてわかりやすい看板は出さず、SNSなどでのPRもほとんどしていません。それにもかかわらず評判は口コミで広まり、今では地元はもちろん、郡山や仙台からもお客さんが足を運ぶといいます。

「地元の人からは、近くに素敵なお店があって嬉しいとよく言っていただきます。昔ここが縫製工場だった頃に働いていたという方が来店されて、懐かしがっておられたのも印象深いです」。一人静かにコーヒーを楽しむ人、友達や家族と楽しげに会話をしながらランチを楽しむ人…。来た人たちは皆、思い思いにひとときを過ごしています。

戸田さんは今後、1階・2階ともさらに店舗スペースを拡大し、ギャラリーや本屋、ワークスペースなどを展開する構想を温めているといいます。その根底にあるのは「街をつくりたい」という想いです。「ここを拠点に、オリジナリティーあふれる店を市内に点在させて、街に人の流れを生み出していきたいですね」と戸田さん。古い建物のリノベーションで生まれたこのカフェは、未来の暮らしや街づくりへとつながる起点になっていくことを予感させます。


Idea.1 コンクリートと木の絶妙なバランス

無機質なコンクリートの躯体の中に、有機質の木を内装やカウンター、家具などでバランスよく取り入れることで、ラフな中にも温もりのある空間を実現。厨房をコの字に囲む全長12mのカウンターには、100年ほど前にカナダで製材されたという貴重で分厚いレッドシダーの板が使われています。

Idea.2 ビンテージ&DIYの家具・建具

イギリスの老舗家具メーカー・アーコール社のビンテージチェアや、入り口のアンティークドアをはじめ、店内の家具や建具には戸田さんが集めたこだわりの品々が使われています。それらとラフな素材感の空間に合うよう、戸田さん自らがDIYしたテーブルやドアがこのカフェならではの居心地の良さを高めています。

Idea.3 お客さんとスタッフの双方に配慮した動線

ALAYAでは、食事の受け取りと片付けがセルフサービス。お客さんがコの字型のカウンターをスムーズに巡れるよう動線が設計されています。一方、スタッフは厨房内で動きが完結。スタッフがホールを歩き回る必要をなくすことで、お客さんがゆったりとくつろいでカフェ時間を楽しめる環境をつくり出しています。

 おすすめMENU 

ランチセット

いわき市湯本の名店「ゴッホ」のカレーやハンバーガーなどからチョイス可。写真は野菜カレー。セットドリンクには人気のクラフトコーラ「伊良コーラ」も楽しめます。

ハンバーガー

奥の厨房で焼き上げた自家製バンズに、パテ、タマネギ、トマト、辛子マヨネーズを組み合わせたシンプルスタイル。タマネギのシャキシャキ感がアクセントに。

ブレンドコーヒー

戸田さんが東京時代に慣れ親しんだ「G☆Pコーヒーロースター」の豆を使用。深煎りで提供しており、しっかりとした苦みとすっきりとした後味が魅力です。

 

ALAYA

所在地:福島県いわき市小名浜上明神町4-2 1・2階
営業時間:1階 平日14:00~22:00、土日12:00~22:00
     2階 11:00~20:00(LO.19:30)
定休日:不定休
URL:https://www.alayaweb.jp