東京でフレンチビストロを営んでいたSさんご夫妻が、家族で東川町に移住したのは2023年のこと。きっかけはワイン好きのSさんが、道内のブドウ収穫にボランティアで参加したことでした。
「東京にいた頃は店と家の往復に毎日3時間近くかかっていました。対して北海道の人たちは通勤距離が短くて、帰宅後にすぐ家族との時間を過ごすことができます。時間はお金に換えられません。自然の中で、時間を有意義に使いたいと思いました」と、移住の動機を振り返ります。
東川町への移住を決め、新店舗の計画を進め始めたSさん。土地の選定や建物のプランニングよりも先に決まっていたのが、新店舗に薪ストーブの「アイアンドッグNº06」を導入することでした。
東京時代から密かに憧れを抱いていたという薪ストーブ。インテリアとしての存在感だけではなく、「レストランの流れの中に薪ストーブがあって、自然に料理ができるようにしたい」と考え、店舗の設計・施工を依頼していた旭川の住宅会社アーケンに相談しました。
本格的な調理ができるという店舗の機能の一つを担うには、耐久性の優れた鋳物性が良いだろうという見立てから、「Sさんの希望に最も適う機種は、アイアンドッグNº06です」と勧められたと話します。
「アイアンドッグNº06」は、燃焼室の横に大容量のオーブンを備えた本格クッキングストーブで、焼く・蒸す・煮込む・揚げる・茹でるといったほぼすべての調理が可能。「犬」をイメージした曲線を描く長い4本の脚は「アイアンドッグNº02」と同じデザインで、無骨さと愛嬌を併せ持つ人気モデルの一つです。
アーケンからの紹介で、Sさんが訪れたのは旭川の薪ストーブ会社「コロポックル」のショールーム。「当初、イメージしていたのはHWAM(ワム)のような曲線を描くスタイリッシュな薪ストーブでした。対して、アーケンさんに見立てていただいたNº06は無骨で四角いフォルム。想定外のセレクトではありました」と話します。
以来、Sさんはプライベートで北海道に来るたびに、コロポックルに立ち寄ります。「最初は無骨過ぎると思っていましたが、鋳物の質感やドイツらしいデザインは、炎を最大限に生かすために緻密に設計された機能美だと感じるようになりました」と、次第にNº06に愛着が湧いてきたそう。
コロポックルの橋口さんは、「見た目のディテールはNº02と同じ。Nº02を基本に、大容量のオーブンを備え、広々としたストーブトップを実現したクッキングストーブには、鋳物のプロフェッショナルであるブルナー社ならではの技術が光っています」と胸を張ります。
2024年4月にオープンしたSさんのお店「東川PERICAN」は、宿泊機能を備えたオーベルジュ。1階にあるレストランに入ると4人家族のSさんご一家に見立てた4本のシラカバのウエルカムツリーが出迎え、さらに進むと「いつか自分で育てたブドウでワインをつくりたい」と始めたブドウ畑と広大な田園風景を背景に、アイアンドッグNº06が炎を宿しています。
「店内の中央に置いている薪ストーブはお客様の視線を集めます。細かい温度設定はできませんが、パンを焼いたり、ストーブトップに置いたゴトクの上でシチューなどを煮込んだりして、お客様に提供しています」とSさん。
ランチ営業後にSさんご夫妻が食べる賄い料理は薪ストーブを活用し、繊細な温度設定を必要するお客様提供用の料理は厨房で調理し、素材そのものの味を楽しむものや、瞬間的な加熱が必要な料理には薪ストーブを使っています。
「パチパチという薪の爆ぜる音とともにパンを焼くと、お客様は視覚も聴覚も楽しめます」と、お店におけるこの薪ストーブの付加価値は唯一無二。「火を入れない夏場は、薪ストーブのインテリア性を活かして、料理の中継点として活用しようと考えています」とSさん。Nº06の雰囲気に合わせて、アイアンの脚のテーブルを造作して薪ストーブと横並びに配置し、そこに料理を並べてサーブすることを計画しています。
暖房機能と調理機能の2つの大きな魅力を併せ持ち、五感を豊かに楽しませる「アイアンドッグNº06」。Sさんの料理と、揺らめく炎、東川町の大自然が織りなす空間が、かけがえのないひとときを提供しています。