北海道には毎年、たくさんの人たちがさまざまな想いを胸に移住してきます。東川町に今年家を建てたOさんご夫妻は2009年、Oさんの家具会社への転職を機に東京からやってきました。東川町は、道外からの移住先として特に人気の町です。

移住当初からOさんは、職場がある東神楽町ではなく、東川町で住まいを借りました。理由は「田んぼや山並みが広がる景色が、美しくて雰囲気がよくて気に入ったから」。移住して1年後にはお子さんが誕生。「周りに移住者が多くて、子育てを通して知り合いが増えていきました。おかげで寂しい思いをしないで済みました」と奥さんは当時を振り返ります。

目の前に田んぼが広がるロケーションに建つOさんのお住まい。美しい田園風景が、東川町の大きな魅力

Oさんご夫妻が土地探しを始めたのは、今から4年ほど前のことです。広い町で、土地探しには苦労しないのでは?と思えば、返ってきたのは「なかなか条件に合う土地って見つからないんです」という答え。

お子さんの通学区や日常生活の利便性を考えると良いエリアは限られ、さらに眺望や広さまで希望通りとなると、選択肢はさらに狭まるといいます。そのため土地探しの競争は激しく、「問い合わせたらすでに売約済み、というのを何回も経験しました」。

この土地に出会ったのは3年前。移住者の友人に教えてもらったのがきっかけでした。「町に暮らしながら探していても、いい条件の土地情報ってあまりなくて。家を建ててから移住してくる人も多いけど、移住前に好条件の土地を探して、納得できる家を建てるって、けっこうハードルが高い気が…」とOさんご夫妻は実感を漏らします。

もともとこの土地に生えていた紅葉の木を残せるよう家の配置を検討した
意識的に浮遊感を持たせたテラスからは、東川町ならではの眺望を満喫できる

家づくりを依頼したのは、町内に暮らす知人に紹介された旭川市の建築家、竹内隆介さんでした。周囲の眺望が決め手になった土地だったことから、竹内さんはそのロケーションを最大限に生かそうと慎重に検討し、いくつものプランを提案します。やりとりを続けること2年。ようやくプランがまとまり、今年の春に待望の新居が完成しました。

緑豊かな庭で談笑するOさんご家族と建築家の竹内さん。後ろに見えるのは、家と一緒につくった家族の憩いの場。BBQのときのベンチにしたり、お昼寝したり、多目的に使える

東京で生まれ育った奥さんは「ここに来て初めて田植えや稲刈りを目の当たりにした私にとっては、住宅地の一角にあるこの場所でも十分に自然豊か。山の中の一軒家のようなところにぽつんと住むのは難しいけど、せっかく東川町に住むなら、季節の移ろいを感じながら暮らしたかったので、希望が叶いました」と話します。

夏は緑に、冬は雪の景色に囲まれる。ソファやダイニングセットは、Oさんが勤務する匠工芸の家具で、家の雰囲気にしっくりと馴染んでいる
夏は緑に、冬は雪の景色に囲まれる。ソファやダイニングセットは、Oさんが勤務する匠工芸の家具で、家の雰囲気にしっくりと馴染んでいる

移住というと、地元の人たちとのご近所づきあいが難しいという話も聞きますが、奥さんは「そういう難しさは感じていないですね。近所には高齢の方も多いけど、仲良くしてもらっています」と笑顔。お子さんたちは毎朝、畑仕事中の近所の方々と挨拶を交わしながら通学しているといいます。

目の前に豊かな田園風景が広がる小学生の息子さんたちの部屋は、いずれ2室に仕切れるよう設計

「移住してきてよかった」とOさんが感じるのは、通勤中。東京では満員電車での通勤だったこともあり、車を運転しながら眺める美しい山並みや田畑の風景に、環境の良さを実感しています。新居のお気に入りポイントは「家の妻面のガラス」で、夜帰宅してくると目に入る三角形のガラス越しの明かりに、ほっとするのだとか。

家の両サイドの妻面にはめ込まれた三角形のガラスから漏れる家の明かりが、灯台のような存在に

これからの楽しみは庭づくりで「お花を丹精したい」とOさんは話します。さらに「ゆくゆくは敷地内の木に、家づくりでは諦めた『十勝岳が一望できる窓』のあるツリーハウスをつくたい!」とも。

東京から東川町へ移住して11年目。新しい家とともに、Oさんご家族はこれからますます深くこの町に根を下ろし、豊かな時間を紡いでいきます。

家族構成:夫婦40代、子ども2人
前居住地:東京都
住宅の設計・施工:トピカ 竹内 隆介