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「日常にしたい『特別』があるコーヒースタンド」OBROS COFFEE

飲食店やホテル、カフェに学ぶ、家づくりや暮らしに役立つアイデア。お店に行く楽しみがひとつふえるかも?
2021.7.15

郡山市内のかつての中心部だった街中にあるOBROS COFFEEは、店主の荻野夢紘さんが、焙煎士である弟の稚季さんと営むコーヒースタンドです。高校3年生のときにコーヒーに興味を持った荻野さんは、稚季さんと将来お店を持つことを視野に地元のコーヒーチェーン店などでしばらく勤務した後、東京で働きながらバリスタのトレーニングを受けます。そのときに出会ったのがスペシャルティコーヒーでした。

スペシャルティコーヒーとは、生産者から消費者に届くまでのプロセスの透明性が高く、適正な品質管理がされたコーヒー豆を用いて適切に抽出され、果実としてのコーヒー豆の風味や産地ごとの特徴が的確に表現されたコーヒーのこと(詳しくは日本スペシャルティコーヒー協会のホームページ参照)。

荻野さんは「それまでに飲んでいたコーヒーで感じたことのなかった果実味が衝撃的で…。トレーニングの担当の先生がたまたまバリスタの世界大会の審査員を務める方だったことで、世界のスタンダードを知ることができました」と話します。

スペシャルティコーヒーの世界基準を体感した荻野さんは、その多彩な味わいの魅力を伝えるために、あえて浅煎りのみを提供するコーヒースタンドのオープンを決めます。「角地」「公園の近く」「大きな通りには面していない」「駐車場はあるけれど窓の外には見えない」。この4つを主な条件に生まれ育った郡山市で土地を探し、かつて郵便局だった建物を借り受けることにしました。

当時はまだ20代前半。わからないことだらけの中でお店づくりを全面的にバックアップしてくれたのが、福島県に本社を置き、今は東京や海外に活躍の場を広げる(株)ADX代表の安齋好太郎さんでした。「安齋さんは建築家であり経営者。店舗の設計に入る前に、どうやったらお客さんに来てもらいやすいかなど、経営のことから一緒に考えてアドバイスしてくれて、店舗の設計デザインは、その経営ビジョンに基づいて進みました」。

1階部分の壁をなくしてガラス張りの小屋を建てるというのが、安齋さんからの提案でした。農作物を想起させるビニールハウスで、コーヒーという自然の恵みを味わう。そのようなイメージでデザインされた空間です。

リノベーションでは既存のコンクリート土間はそのまま活用し、古い柱や梁などの骨組みを意匠として現しに。その大きな空間の中に、このために型を取って製作した木のフレームで組んだショーケースのような小屋が配置されています。この建物が郵便局だった頃の局長でもあった大家さんの厚意で、賃貸ながら、大胆なリノベーションを実現しました。

コの字型のカウンターは客席との距離が近く、手元が見えやすい設計になっています。これは「豆が手元に届くまでのプロセスや情報の透明性を重視するスペシャルティコーヒーを提供するなら、コーヒーをいれる過程もお客さんに見てほしい」と考えた荻野さんの希望によるもの。このつくりにしたことで、ご自身も所作を意識するようになり、動作が変わったといいます。

店内から外に目を移すと、透明な壁の向こうに広がるのは住宅街の日常。すぐそばの交差点を、車や人や自転車が絶え間なく行き交います。目線を上に転じれば、天井のガラス越しに職人の手仕事の跡が残る風合い豊かな古い木組みが透けて見え、今と過去の両方を感じさせる風景のコントラストが、不思議な居心地の良さを感じさせます。

開店から今年で5年。初めは知人やコーヒーにこだわりがあるお客さんが多かったものの、次第にお店の存在や、提供しているスペシャルティコーヒーの味わいが知られるようになりました。今では老若男女を問わず、郡山市内外から幅広い世代のお客さんが足を運ぶそうです。

公園へ行く途中や昼食後の一杯のためにコーヒーをテイクアウトしてくれたり、ここでコーヒーを飲むのが日課のご近所さんが増えたり…。地域の暮らしの一部として受け入れられるお店を目指していた荻野さんにとって、今まさにOBROS COFFEEは思い描いていたとおりの存在になりつつあります。

「常連さんの最高齢は80代で、近くの焼き鳥屋のおじいさん。毎日来てくれます。お客さんの中には、この店が近いという理由で住む場所を決めた方もいて…。そうやって少しでも地元の方々の生活に関われていることが嬉しいですね」と目を細める荻野さん。地域に開き、暮らしにとけ込んだ街角のコーヒースタンドには、今日もこのスペシャルなコーヒーと空間を愛する人々が訪れ、笑顔が交わされています。


Idea.1 街並みと光を心地よく中へとり込む設計

ビニールハウスをイメージしてデザインされたガラス張りの店内は、天井を建物に覆われているものの、通りに面した2方向に大きく開いているため閉塞感はありません。天井面のガラスに光が反射する効果もあって、とても明るい印象です。荻野さんが立つカウンターの中は、店の外の街並みが一望できる特等席。

Idea.2 素材を生かした空間デザイン

既存のものを生かした建物の構造材やコンクリート土間に対して、新しく建てたガラス張りの小屋は新しい建材でつくられています。ただし主に用いたのは、ガラスや木、金属といった自然由来の素材。素質が同じものを適材適所にデザインすることで、古さと新しさが心地よく調和した個性のある空間が生まれます。

Idea.3 目的に合わせたスムーズな動線計画

設計の際に荻野さんが希望したのは「お客さんが立ち寄りやすいこと」と「お客さんとの距離が近いこと」でした。そこで出入り口を6ヵ所に。これはコロナ禍の換気対策でも大いに役立っているそうです。カウンターはお客さんから荻野さんの手元がよく見える距離感。目の前でドリップされた新鮮なコーヒーを、一番おいしい状態で味わうことができます。目的に合わせたスムーズな動線計画が、お店とお客さんの良い関係を育んでいます。

  おすすめMENU  

ハンドドリップコーヒー

果実としての上質なコーヒー豆が本来持つフレッシュさや酸味や甘さを味わってもらいたいと、コーヒーは浅煎りでのみ提供。

カフェラテとあんバターサンド

ホットのカフェラテはミルキーでほっとする味わい。あんバターサンドは外がカリッとしたプレッツェル生地に甘さひかえめのあずきとバターが絶妙な組み合わせ。

ラ・メセタ農園のコーヒー豆

弟の稚季さんが焙煎したコーヒー豆も販売。コロンビアのラ・メセタ農園の豆は、果実味や黒糖のような甘さとふくよかさが特徴です。

 

OBROS COFFEE

所在地:福島県郡山市細沼町1-30
営業時間:11:00~17:30
定休日:木曜
URL:https://obroscoffee.jp