福島県郡山市の郊外。古くからの住宅街に、ひときわ異彩を放つ3階建ての邸宅が立っている。三角屋根とアーチを組み合わせた塔のような建物が左右に張り出した、一見すると教会を思わせるような個性的なフォルムには、1980~90年代に流行したポストモダン建築の特徴が色濃く現れている。

サーモンピンク色の塗り壁だったリノベーション前のファサード
【Before】サーモンピンク色の塗り壁だったリノベーション前のファサード

側面と同じくサーモンピンクの塗り壁だったファサードは、全面に屋久島杉を貼ることでイメージ一新
全面に屋久島杉板を張って仕上げることでイメージを一新。屋久島杉は油分が多いため長持ちし、年月を経ると風合いが増すのが魅力だという

建築家、佐久間宏一さんの自邸であるこの建物は、今から25年前に新築し、このたびリノベーションを施した。もともとは、アメリカから建材や設備機器を輸入し、大工までもアメリカから呼び寄せて、憧れていたことをすべて詰め込んで建てた輸入住宅。当時のことについて佐久間さんは、「デザインは斬新で良かったものの、私もまだ若く、“暮らし”がまったくイメージできずにつくったものだから、実際に住んでみると住み心地は悪かったです」と苦笑する。

今回のリノベーションでは、建物の形や間取りはほぼそのままとし、夫婦が生活する2階を中心に改装がなされた。残せる部分にはなるべく手を加えず、家族の歴史や思い出を引き継いだ。佐久間さんが自宅リノベーションの醍醐味と考える「愛着を大切にするリノベーション」だ。

側面のサーモンピンクの塗り壁仕上げの外壁は25年前のまま。以前の面影をしっかりと残している
側面のサーモンピンク色の外壁は25年前のまま。以前の面影をしっかりと残している
玄関ポーチの大谷石やステンドグラス風の玄関ドアにも、25年の時間が宿る。この上部にアウトリビングが新設されたが、格子の隙間から陽光が差し込み、暗さはさほど気にならない
玄関ポーチの大谷石やステンドグラス風の玄関ドアにも、25年の時間が宿る。この上部にアウトドアリビングが新設されたが、格子の隙間から陽光が差し込み、暗さはさほど気にならない

追求したのは、新築時に欠けていた“憩う”という視点。「憩える空間にするためには、“自然素材”と“スケール”が大切だということを、長年にわたって建築の設計に携わる中で経験的に学びました。ですからその2つに徹底的にこだわりましたね」と佐久間さんは語る。

生活の中心となるダイニングは、白壁と艶のある床に囲まれたヨーロピアン風から、天然木をふんだんに使ったナチュラルな趣へと生まれ変わった。床には屋久島杉の無垢材、壁や天井にはレッドシダーを採用。タモやスギで造作した収納棚や飾り棚も相まって、暖かみと癒やし満載の空間へと仕上がっている。

【Before】ヨーロピアンテイストだったダイニング・キッチン

ダイニングは屋久島杉とレッドシダーに囲まれた木の香漂う空間。左手の窓からアウトリビングに出入りできる
ダイニングは屋久島杉とレッドシダーに囲まれた木の香が漂う空間。格子入りの長方形の連窓は大きな引き違い窓に入れ替え、その外にアウトドアリビングを設けた
天窓から光が注ぐキッチン。設備を入れ替え、造作の収納棚をレイアウトすることで、使い勝手や動線が向上した
天窓から光が注ぐキッチン。設備を入れ替え、造作の収納棚をレイアウトすることで、使い勝手や動線が向上した

新たに増設したアウトドアリビングもまた、木をたっぷり用いて設計されている。室内とは階段3段分の段差。室内とアウトドアリビングのどちら側から見ても視界を妨げない床高を模索して、この段差を見い出した。「配管の関係で床を全体的に20cmほど上げたため、その分天井高は低くなりましたが、アウトドアリビングの床を下げて目線を下に誘導することで、圧迫感を抑えています」。絶妙なスケール感と木の温もりあふれる素材感が、空間の居心地の良さにつながっている。

ダイニングとアウトドアリビングとで、視界を邪魔しない床高を模索。ガラス面の大きなサッシが、室内にもたっぷりと光をとり込む
大開口とその先に続くアウトリビングが、夫婦の憩いの空間に広がりと開放感を生み出している
大開口とその先に続く半外空間が、夫婦の憩いの空間に広がりと開放感を生み出している。アウトドアリビングの屋根は透明のガラス張りで、夜には星空を眺めながらくつろげる
アウトリビングは居心地の良さを求め、床の高さだけでなく、ガラスの天井の勾配や床の木幅まで考慮し尽くされている
居心地の良さを追求したアウトドアリビングは、外階段からも出入りできる設計。床の高さのほか、ガラスの天井の勾配や床の木幅まで綿密に考慮されている
間接照明のやわらかな光が照らすダイニング。以前より天井が低くなったものの、それがかえって心地よさにつながっている
以前は階段を上がるとすぐにダイニングが広がっていたが、造作の収納棚でワンクッションを置き、ダイニングのくつろぎ感を高めた
以前は階段を上がるとすぐにダイニングが広がっていたが、造作の収納棚であえて間仕切ることで視線を遮り、ダイニングのくつろぎ感を高めた

家族が集う「TVルーム」でありながら、ベランダへの通路としての役割も大きく、落ち着いてくつろぐのが難しい空間になっていたリビングも、今回のリノベーションで大きな変貌を遂げた。

畳敷きの小上がりを設け、それに合わせて窓のスケールも再検討。掃き出し窓をサイズダウンして腰窓に入れ替え、意匠的に畳と合う障子戸を採用した。さらに五感で癒やしを感じられる薪ストーブも設置し、今、佐久間さんが思い描く“憩い”に必要なエッセンスを結集した空間に仕上げた。

【Before】ベランダへの通路を兼ねてしまい、くつろぎにくくなっていたリビング

リビングは畳敷きの小上がりや障子戸で憩える和の空間に。薪ストーブの揺らめく炎が心地よさを増幅させている
畳敷きの小上がりに合わせて設けられた引き込み窓が、茶室のにじり口を彷彿させる。既存の丸窓もアクセントに
小上がりに高さを合わせた引き込み窓が、茶室のにじり口を彷彿とさせる
屋久島杉で造作した本棚に収まるCDやDVD、ロッキングチェアなど、好きなものたちに囲まれた憩いのリビング
壁面のCDやDVDを収める本棚や、ロッキングチェアなどを屋久島杉で製作。好きなものに囲まれ、リラックスして過ごすのにふさわしい空間に生まれ変わった

「25年前の自分の家づくりでは、斬新さやデザイン性、利便性が優先されていました。でも、薪ストーブが最たる例ですが、手がかかってこそ得られる幸せもあるんですよね」。今はこの家で暮らして初めて、家で憩う実感を噛み締めているという佐久間さん。「唯一の欠点は、お酒が進みすぎること」と笑いながらも、リノベーションを経て、これからの設計への確かな手応えを感じている。

水まわりも装い新たにリフォーム。ケヤキの一枚板を使った造作洗面台が味わい深い
水まわりも装い新たにリフォーム。ケヤキの一枚板を使った造作洗面台が味わい深い
トイレは位置を変更し、将来のことを考えてスペースを広めに確保した。配管の都合で斜めになったレッドシダーの壁が空間のアクセントに
トイレは位置を変更し、将来に備えてスペースを広めに確保した

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25年目のリノベーション-「デザイン」から「建築」へ 〜佐久間 宏一

今回の自邸リノベーションを通して、25年前の自分がいかに見た目や効率にばかり捉われていたかを改めて痛感することとなりました。そのことを最初に意識したのは、京都に歴史のある茶室を見に行ったときのこと。初めは建築手法や装飾にしか目が行かず、「古くて狭いし、居心地が悪そう」と感じました。

しかし、ひとたびそこに座ってみると、古色蒼然とした趣や天井の低さが逆に心地よいことを発見したのです。それまでは「新しくて広くて天井の高い空間こそ快適」と思っていた自分には、目から鱗でした。

もう一つのきっかけが、東日本大震災です。津波で流された家や倒壊した家を目の当たりにして、家を失うことが、長い時間をかけて紡いできた家族の思い出や歴史の喪失であることを強く感じたのです。

建物は、時間によって深みを増し、「文化」になるということ。それこそが「建築」であるということ。25年前の自分が追い求めていたのは、時間とともに消費されていく「デザイン」でしかなかったということ。そこに気づいたとき、“憩う”という視点が生まれ、それが自邸リノベーションのテーマともなりました。

今回のリノベーションでは、「デザイン」だった建物を「建築」へと昇華することができたのではないかと自負しています。その意味で、自分自身の成長も感じられ、得難い経験となりました。今後も“素材”と“スケール”、そして“憩う”という視点を大切に、心豊かな暮らしを提案していきたいと考えています。

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■建築DATA
福島県郡山市
家族構成/夫婦 
築年数/25年
リノベーション面積/109.93㎡(約33坪)
増築面積/7.25㎡(約2坪)
■工事期間/約7ヵ月
■設計/(株)エア・コーポレーション 佐久間 宏一
■施工/(株)エア・コーポレーション