2階子ども室と寝室。構造用の面材や合板を用い、梁も現しに。虚飾を廃した空間設計が目を惹く

住宅建築の面白さに目覚め
海外放浪などを経て独立

自らが設計した自邸兼事務所「スキップするトンネルハウス」が「日本エコハウス大賞2016」グランプリを受賞し、一躍脚光を浴びた設計島建築事務所の三浦正博さん。ここに至るまでの彼の経歴は非常にユニーク。

「高校時代は山岳部に所属していたためか、環境保全に興味がありました。大学では心理学を学び、卒業後は旅を仕事にしたいという想いからインポートバイヤーを目指したこともあります」。住宅建築の面白さに目覚めたのはインテリアスクール時代。「建築の中で一番密度が濃いのは住宅。どこまでも思いを込めることができる」と感じ、自社設計も行う新潟の工務店に入社して実務を3年間経験しました。

三浦さんを語るうえでは、海外との関わりも外せません。大学時代に欧州や北アフリカを放浪。工務店退職後には1年半の間アジア・アフリカを旅しました。「各地であらゆる建物を見て回る中、惹かれたのはアフリカの土くれでできたようなバナキュラー(土着的)な建築。自分もこんな生命力にあふれた家をつくりたいと思いました」。

帰国後、故郷の秋田で独立。のちに仙台に事務所を移転したものの、つくりたい家と求められる家との乖離に疲れ、またしても海外へ。モロッコで世界遺産フェズ旧市街の保存、調査に2年間従事しました。

自然素材+高断熱・高気密で
地球環境に優しい家づくりを

実務から離れている間に設計欲求が湧き上がり、2006年、帰国して事務所を再開。まず手がけたのが、築百年にもなる一軒家のリノベーションでした。自邸兼事務所として活用したこの家は、自然素材をふんだんに使った三浦テイスト満載の家であり、なおかつ、見た目のカッコよさや便利さばかりを追求する現代の住宅に抵抗を試みた家でもありました。

「必要最小限の家でも力強く心豊かに暮らしているアフリカの人たちを見習いたいと思ってつくった家です。ところが必要最小限なだけに冬はとても寒く、薪ストーブだけでは足りず、石油ストーブも焚いて暮らすようになる始末。これでは環境に優しい家とは言えません。そのため高断熱・高気密なエコ住宅へシフトすることになったんです」。

自分のつくりたい家がはっきりと明確になった三浦さん。現在は「素の家」をコンセプトに家づくりを行っています。素の家の『素』とは、自然素材の『素』であり、素足の『素』。「山登りをしていた体験から、自然への敬意が人一倍強いんです。ですから目指すのは、年月が経てば土に還る自然素材を使い、少ないエネルギーで冬でも素足で過ごせる高性能な家。つまり地球や自然環境に対してローインパクトな住まいです」。

目に見えないものまで統合し
包み込むのが真のデザイン

もう一つの『素』が、素顔の『素』です。「デザインと言うと、見た目のカッコよさやきれいさという意味でしか使われていない気がするんです。でも私は、生活に必要な機能はもとより、光、風、空気などの目に見えないものまで包み込むのが真のデザインだと思っています。そして、家はよそ行きの場所ではなく、自分らしく素直にのびのびと暮らせる場所。そんな『素顔の家』をデザインしていきたいんです」。

2年前に完成した自邸「スキップするトンネルハウス」は、その思いの丈を詰め込んだ一軒です。土地の形状を生かした4層スキップの2階建てで、南面と北面の間口いっぱいに開口部を設けた、あたかも南北に抜けるトンネルのようなつくり。南面の窓からは冬場でも太陽光が奥までたっぷりと届き、スレート床や土壁などの自然素材に蓄熱される仕組みです。「虚飾を排し、無駄なエネルギーを使わない、まさに『足るを知る家』。これからもこうした環境に優しい家を手がけていきたいですね」。

そんな三浦さんには大きな夢があります。「海外では現地の人にお世話になったので、いつか恩返しがしたいんです。屋根のある家を必要としている地域や人に、屋根を架ける仕事ができたら、そう考えています」。

(文/鎌田 ゆう子)

土間ダイニング上部の吹き抜けが、明るく風通しの良い開放的な空間を生み出す
スキップフロアのリビングからの眺め。縦の空間を活用したデザインにより、家の中全体に緩やかなつながりがもたらされている
造作の棚やボルダリングのホールドが設けられた室内は、まるでアスレチックのよう。お子さんの格好の遊び場だ            
〈スキップするトンネルハウス〉
■宮城県仙台市・自邸/夫婦40代・30代、子ども2人
■設計/設計島建築事務所
■施工/分離発注方式
正面から見ると小柄なフォルムだが、奥行きはたっぷり。夏場は南北の窓を開け放てば、川から心地よい風が吹き抜ける