森内建設オフィス。モノトーンを基調とし、直線を生かしたシンプルな空間デザインが目を引く

工務店の仕事の幅を
もっと広げたい

「大工のせがれですから」と話し始めた森内建設代表の森内忠良さん。父の仕事と技術に敬意を抱きながらも、建築への興味が深まるにつれ、単に職人として技術を磨くよりも、工務店ができることの幅を広げたいと考えるようになったといいます。

森内さんは、大学で建築を学ぶもそれでは飽き足らず、本物に直に触れてみたいと日本を飛び出し、アメリカへ渡ります。シカゴを拠点に、お金と体力が続く限り長距離バスを乗り継いで街から街へ。クラシックからポストモダンまで、気になる建築を訪ね歩いた若き森内さんを最も魅了したのは、モダニズムの巨匠、ミース・ファン・デル・ローエやフランク・ロイド・ライトの作品でした。「講義や写真でしか知らなかった建築に向かい合い、内部に身を置いてみる。若くして得たこの体験は大きな財産です。今に至るまで、そのときに感じた心地よさの理由を求め、追いかけ続けているわけですから」。

デザインや機能性だけでは説明しきれない、心地よさの追求。これが森内さんの生涯の設計のテーマとなります。そして「若輩者なりにわかったのは、名作と言われる建築には、建築家の設計に対する哲学、住まうことへの美学が明確に貫かれていること」。そこに、工務店の仕事の幅を広げる鍵があると感じたといいます。

楽な暮らしと
美しい暮らし

大工ではできないこと。建築家が成すべきこと。それは「住まい手の生活を設計すること」だと森内さんはいいます。「例えば、リビングに浴室が隣接していたらすぐに入れて楽ですが、リビングというパブリックな空間が脱衣所になってしまう。同じく、リビングに寝ころべる小上がりがある家。これは楽です。しかし実際には、そこは雑然と座布団や衣類が散らかったスペースになりがちですし、空間が和なのか洋なのかもわからなくなってしまう。もっと小さな例では、玄関に靴が散乱しているよりは、スッキリと収められる収納スペースを設けることで、いつも気持ちよく家族やお客様を迎えることができます」。

凛とした生活、それだけでは疲れてしまうけれど、安楽に流れすぎるとかえって生活は快適さを失ってしまう。今よりも少しだけ美しく暮らすことで生活が豊かになる。こうした「気づき」をもたらす空間を、住まい手に提案していくこと。森内さんは、それが建築家の仕事だと考えています。

外壁や内装の色、開口、空間の配置と仕切り方、階段の形状と角度。すべてを安楽さと快適さのバランスに配慮して積み上げていきながら、それらを美しく一つの建築に収めるのがデザインの力であると、森内さんの設計法は明確です。

モダニズム建築に学び
北国の風土に根ざした住宅を

近年も海外の名作住宅を数多く訪ねている森内さん。ル・コルビュジエに代表されるモダニズムの精神は、無駄を省いたシンプルな空間や、外部との連続性など日本建築との親和性が高く、特に北欧の、自然や気候と調和した暮らしの中で生み出されたデザインには学ぶ点が多いといいます。「グンナール・アスプルンドやアルヴァ・アアルトの作品のように風土に根ざし、時を重ねるほどに新たな美しさをまとっていく住宅が理想です」。

今後は、仕事の場を街にまで広げていきたいとも。「空間提供という意味では、住宅も街も同じ。現況のインフラを活かしながら、街が少しでも元気に美しくなるような、人が集える場づくりを仕掛けていきたい」と話します。森内建設の社屋は青森市の中心商店街にありますが、オフィスの入り口は裏通り側。商店街側は貸しギャラリーとなっています。「オフィスの機能は表通りに面する必要はないですから。通りを行き交う人々の目を楽しませ、ちょっと立ち寄ってみようかなと思うような空間を提供する。パブリックエリアにある建築は、それにふさわしい『顔』を持つべきなのです」。

ちょっと知的で、美しい暮らしのための空間づくり。生活に、潤いや豊かさをもたらすための提案と仕掛け。住宅でも、街を舞台にしても、森内建設の哲学は一貫して変わらないようです。

(文/金澤 淳、 撮影/(有)スタジオクルー)

1階エントランスのホールは、待ち合いのスペースも兼ねる
2階に2つの打ち合わせスペース、3階には家具などの展示スペースを設けている
クライアントとの打ち合わせスペース。家具やインテリアにも森内さんのデザイン観が垣間見える
オフィスの1階の貸ギャラリーは商店街に面し、街の人たちの憩いの場として活用されている
築40年のビルをリノベーションしたオフィス。1階にはイタリアンレストランが入居

〈森内建設株式会社 社屋〉
青森県青森市
設計・施工/森内建設株式会社