「家を持ちたい」と思ったとき、今どんな暮らしをしたいかをイメージしながらあれこれと計画を練る楽しみは家づくりの醍醐味です。しかし、その家で過ごす10年後、15年後の暮らしがどんなものになるか、イメージすることは少し難しいかもしれません。

注文住宅を建てたり、リノベーションをして長年住んでいる人の暮らしはどんなものなのか。新築時に思い描いていたとおりなのか、思わぬ変化が訪れているのか。築10年以上のお宅を訪問し、日々の暮らしぶりと年月を経て変わらないこと、変わったことを聞いてみました。これから家づくりを考える人に参考になるお話が、あふれています。


大手ハウスメーカーの規格住宅、RC造のデザイナー住宅と住み継いできたMさんご夫妻。「夫婦二人暮らしによりフィットする木の家で老後を過ごしたい」と3度目の新築を決意しました。そしてMさんの目に留まったのが、建築雑誌に紹介されていたTAO建築設計の住まい。「女性建築家ならではの細やかな気配りが期待できそう」と、所有していた50坪の変形敷地での新築を依頼しました。「要望は、ワンルーム感覚で暮らせる自然素材の家。細部はお任せしました」と、Mさんは当時を振り返ります。

災害時の保険として、新築時に補助暖房として薪ストーブを採用。昨年の大停電の時には、ストーブの存在が心強く感じたそう
災害時の保険として、新築時に補助暖房として薪ストーブを採用。停電の時には、ストーブの存在が心強く感じたそう
黒塀に囲まれた和モダンの外観。道南スギを用いた外構は、Mさんが3年に1度、2日がかりで塗り直しをしている
黒塀に囲まれた和モダンの外観。道南スギを用いた外構は、Mさんが3年に1度、2日がかりで塗り直しをしている
中庭テラスは、外からの視線を気にせずにくつろげるアウトドアリビング。シンボルツリーのヤマボウシは奥さんが剪定をしている
中庭テラスは、外からの視線を気にせずにくつろげるアウトドアリビング。シンボルツリーのヤマボウシは奥さんが剪定をしている

2007年暮れに完成した新居は、日当たりの良い南側に中庭を設えたコートハウス。平屋ベースで設計された室内は、回遊動線を採用しながら、ご夫妻の日常に必要な空間と設備を集約。車椅子での生活にも対応できるよう配慮されています。「102㎡の住まいは、二人暮らしには過不足のない大きさで、新築から12年(取材時)を経た今も、居心地の良さが変わりません」と、奥さんはにこやかに語ります。

中庭に面する室内は、外との一体感を楽しみながらのびやかな暮らしが楽しめる。リビングの革張りのソファは、旧宅で愛用していたクッション部分を生かし、フレームを新たに造作
中庭に面する室内は、外との一体感を楽しみながらのびやかな暮らしが楽しめる。リビングの革張りのソファは、旧宅で愛用していたクッション部分を生かし、フレームを新たに造作
シルバーの大型パネルヒーターを、リビングとダイニングの間仕切り代わりに採用。間接照明を設えたテレビ台収納は造作
シルバーの大型パネルヒーターを、リビングとダイニングの間仕切り代わりに採用。間接照明を設えたテレビ台収納は造作
2階からLDKを見下ろす。敷地形状に添うようにプランされたLDKは、くの字形。接道側はハイサイドライトのみを配し、中庭に大きく開いた
2階からLDKを見下ろす。敷地形状に添うようにプランされたLDKは、くの字形。接道側はハイサイドライトのみを配し、中庭に大きく開いた

その居心地の良い空間づくりの一端を担っているのが、住まいに用いられた自然素材の数々。木肌が優しいナラ無垢材の床に木製サッシ、調湿性に富んだキリ材の天井と珪藻土の壁、そして素材感豊かな札幌軟石の三和土とストーブ床…。数々の自然素材は竣工時の端正さを保ちながら、70代になったご夫妻の暮らしを温かく包み込んでいます。「私たちの目と手が十分に行き届く広さなので、日常のメンテナンスも苦になりません。今では、趣味のひとつとして楽しんでいます」と、Mさんは愉快そうに語ります。終の棲家はご夫妻の暮らしに磨かれながら、さらに趣あふれる空間へと育っていくに違いありません。

ロフトのような2階は、収納を兼ねた客間。一部に琉球畳を敷き、吹き抜けで主寝室とつながっている
ロフトのような2階は、収納を兼ねた客間。一部に琉球畳を敷き、吹き抜けで主寝室とつながっている
ロフト風の2階と寝室は吹き抜けでつながる。空気が自然に対流する開放的な造りは、結露防止の一助にもなっている
ロフト風の2階と寝室は吹き抜けでつながる。空気が自然に対流する開放的な造りは、結露防止の一助にもなっている


● Before・After

変わらないこと|中庭を中心にリビング・ダイニング、水まわり、寝室といった普段の生活要素を1階に、収納やゲストルームとして使用できる畳敷きの多目的なロフトスペースを2階に配した、二人暮らしにちょうどいサイズ。平屋のようにシンプルな動線で快適に長く暮らすことができる。

変わったこと|Mさんはこの家に住むようになって、水性ナチュラルワックスを使って床や家具、階段の踏み板を日常的に磨くようになった。旧宅から愛用している革張りクッションも専用クリーナーでメンテナンス。浴室も使うたびに、ヒバの壁を拭き上げる。年数を増すほどに味わいが深まる天然素材の魅力は、こうした日ごろのメンテナンスの積み重ねで、より一層増し、美しく引き立つ。

Mさんの手によって磨き込まれたナラの無垢床は、中庭の光を浴びて艶やかな表情を見せる
Mさんの手によって磨き込まれたナラの無垢床は、中庭の光を浴びて艶やかな表情を見せる

札幌市清田区・Mさん宅 家族構成/夫婦70代

建築データ

構造規模/木造(在来工法)・2階建て
延床面積/102.14㎡(約30坪)

<主な外部仕上げ> 屋根/ガルバリウム鋼板防水立平葺、外壁/ガルバリウム鋼板立平葺・スギ羽目板縦張、建具/玄関ドア:木製断熱ドア、窓:木製断熱サッシ
<主な内部仕上げ> 床/ナラフローリング、壁/珪藻土塗、天井/構造現し・キリ合板野地板+化粧垂木
<断熱仕様 外張断熱> 基礎・壁/押出法ポリスチレンフォーム(3種B)50㎜、床下/押出法ポリスチレンフォーム(3種B)30㎜、屋根/押出法ポリスチレンフォーム(3種B)50㎜+50㎜
<暖房方式> パネルヒーター・床暖房

工事期間

平成19年9月~12月(約4ヵ月)