十勝の歴史ある製材工場を引き継ぐ

十勝の厳しい気候と向き合いながら、創業より70年以上にわたって苗木づくりを手がけている大坂林業。10年ほど前から機械化を進め、温度管理されたハウスで育てる「コンテナ苗」を積極的に導入して大量生産を可能に。現在は造林用の苗木を中心に、年間200万本以上の針葉樹や広葉樹の苗を丹精込めて育てています。

苗畑の仕事は春から夏にかけてが忙しく、冬はシーズンオフ。木を生業とする同社の特徴を冬期間でも生かせる仕事として2014年には薪販売の会員制サービス「とかちファイヤーウッド」を立ち上げました。

それと時を同じくして、小規模の森林を維持しながら必要な広葉樹を必要な分だけ伐り出す自伐型林業にも着手。また事業体として造林保育を手がけ、「苗木を植え、育て、伐り、使い、また植える」という森の循環を担っています。

その大坂林業は今、「製材工場の設立」という新たな展開に向けて準備を進めています。「これから先を見据えて木の循環に欠かせない製材についても学びたいと考え、帯広にある老舗製材所の大正木材さんを見学で訪れたのがきっかけでした」と、同社の代表取締役、松村幹了さんはその経緯を話します。

大正木材は70年近い歴史があり、十勝管内で唯一、広葉樹の大径木(成人の胸の高さにある幹の直径が70cm以上の木)を取り扱える設備と技術を持つ製材工場。持ち込まれた木材を希望したサイズに挽いてくれるなど、地元の工務店からも頼られる存在でした。「それが見学時に、経営者の大山幸太郎さんが80歳を迎えるのを機に閉業すると聞かされたんです」。

松村さんが訪れた帯広の老舗製材所「大正木材」の工場
十勝管内で唯一、広葉樹の大径木を取り扱える設備と技術を有する
十勝管内で唯一、広葉樹の大径木を取り扱える設備と技術を有する

製材は、山から伐り出された木を利用するための重要な出口のひとつで、森の循環に欠かせない存在です。松村さんは「地域の林業に不可欠なパーツが欠けてしまってはならない」と一晩熟考した末に、大正木材を引き継ぐことを決意しました。

大正木材は、2021年9月に営業を終了しましたが、工場と製材の機械類はそのまま大坂林業が受け継ぎました。工場は現在、古い建物ならではの木組みの美しさを生かしたリノベーションの最中。同時に大坂林業のスタッフが大山さんから技術指導を受けながら、2023年6月の開業を目指して体制を整えています。

古い建物ならではの工場の美しい木組み。現在、この構造を生かしたリノベーションに着手している

熟練技術と経験の継承で広がる、広葉樹の可能性

松村さんが広葉樹の大径木の製材に注目したのは、ナラ材をはじめとする地域の広葉樹が、たとえ太く立派な材であっても、その扱いの難しさから多くがパルプ材のチップに加工され、本来の価値を生かし切れていない現状を改善したいとの思いからでした。

広葉樹の利用の幅を広げていくために不可欠なのが、製材における「木取り」の技術です。木取りとは、原木を製材する際に、木目や材質などを目利きしながらどの部分をどう生かすかを考えて効率良く製材すること。木は生き物で、一つとして同じものがないだけに、人の目と経験が物を言う職人技術です。

大正木材の代表、大山幸太郎さん。長年培ってきた技術と経験で木の素性を見抜き、木取りを見極めて製材している

林業は、時間をかけた大きな循環で成り立つ産業。苗を育てて植え、木を伐って製材し使うところまで数々のプロセスへの関わりの中で見えてくる世界があります。仕事を通じて実感できるその広がりに面白さや魅力を感じた若い社員が数多く活躍しているのも、大坂林業の特徴。同社が大正木材を引き継ぐことは、大山さんの技術と経験という無形の価値を若い世代へと継承することを意味します。

「林業はオートメーション化が難しい産業です。高齢化が進んで人材が不足する今、私たちが大山さんの熟練技術をできる限り引き継ぎ、地域の広葉樹の使い方の可能性を広げていければ」と松村さんは意欲的に語ります。

土場に置かれた広葉樹を見ながら談笑する大正木材の大山さん(右)と、大坂林業の松村さん(左)

家や暮らしに「北海道の広葉樹」という
特別な価値を届けるために

自伐型林業や薪販売など、地域の広葉樹の利活用に多角的なアプローチを続けている同社では、パルプ材のチップにするには惜しい広葉樹の大径木を、住宅や家具、木工品に使ってもらえるように製材し、提供していこうと考えています。

「例えば、伐採地や伐り出し方、製材過程などを記録し、その木の出自を明確にして販売できれば、その木の背景が見え愛着も生まれるでしょう。工務店さんや家具屋さん、木工作家さんなどつくり手はもちろん、その木の物語に魅力を感じてくれるお客さんと、全員にとっての付加価値につながるかもしれません。」と松村さんは話します。

大坂林業では近い将来、十勝の森で育った広葉樹の大径木を、住宅のほか、家具や木工品に使ってもらえるように製材し、提供することを目指している

大正木材は、地域の工務店からの細かいオーダーに応じられる数少ない製材所でもありました。「長年培われた大切な技術を途絶えさせてはならないという使命感はもちろんのこと、そうした地域に根付いた顧客との深い関係性も、製材所の引き継ぎを決めた動機の一つでした」。広葉樹の建材を持続的に提供できる体制を整えることでより多くのニーズに応え、「地材地消」が実現できると、松村さんは期待を膨らませます。

「木を植えて森を育てることと使うことのバランスを大切にしながら、地域の森の循環の一端を担っていきたい」と松村さん。地域の森林環境を守りながら、北海道の広葉樹の利用価値を高めていく。そのための新たな一歩を踏み出しています。

 

松村さんと大山さんは、地域の持続的な林業と環境づくりを目指して手を携え、新たな一歩を踏み出した

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