「心地よさ」の正体を探して。フィンランドとデンマークに学ぶ、人間中心の街と住まいのつくり方

公開日:2026.1.27 最終更新日時:2026.1.27

北海道と共通点の多い北欧の国フィンランド。現地滞在スタッフからの情報を交え、豊かなまちづくりのヒントを探ります。

世界的なパンデミックを経て、私たちの住まいへの価値観は大きく変化しました。家は単に寝る場所ではなく、仕事をし、家族と過ごし、自分を整える場所へとその役割を広げています。それに伴い、家単体の性能だけでなく、その外側に広がる「まち」とのつながりが、個人の幸福感に直結することが明らかになってきました。

北欧のフィンランドとデンマークは、この「内と外の連続性」において、世界の中でも進んだ哲学を持っています。彼らは、限られた資源や厳しい気候の中で、いかにして人間が人間らしく、豊かに暮らせるかを追求し続けてきました。Replanスタッフが現地で体験した「五感に響く風景」をベースに、次世代の都市設計と建築の在り方を考えてみましょう。

「人間を中心に置く」という確かな思想の共通項

ヒューマンスケールの街路がもたらす安心感

北欧の街を歩いてまず感じるのは、建物に「圧迫感」がないことです。ヘルシンキやコペンハーゲンの中心部では、建物の高さが人の目線の延長線上に心地よく収まるように設計されています。これは、都市計画の段階で「ヒューマンスケール(人間の尺度)」が厳格に守られているからです。

高層ビルが立ち並ぶ都市では、人は無意識に自分を小さく、無力に感じてしまいます。しかし、北欧の街路は、歩行者が主役です。1階部分には店舗やカフェの窓が並び、中の様子や人々の動きが緩やかに外へとにじみ出す。この「視線の抜け」と「にぎわいの可視化」が、歩くことそのものを楽しみに変え、街への帰属意識を高めます。これからのまちづくりを考えたとき、分譲地の開発や一戸建ての配置において、いかに「道行く人の視点」を設計に取り入れるかが、その土地の価値を左右する鍵となりそうです。

「歩きたくなる」魔法:計算された動線と街区の物語

北欧の都市には、車を優先せず、徒歩や自転車を優先する「歩行者中心主義」が浸透しています。特にデンマークのコペンハーゲンは、世界で最も自転車インフラが整った街の一つとして知られていますが、それは単なる環境保護のためだけではありません。「歩く、漕ぐ」という身体的な活動を日常に組み込むことで、人々が街の変化を五感で捉え、偶然の出会いを楽しむ機会を創出しているのです。

コペンハーゲンでは、1日に数万歩を歩くことが珍しくないといいます。それは、歩道が広く平坦であること、公共交通機関が発達していること、そして歩く先に必ず「魅力的なパブリックスペース」が配置されているからです。公園、広場、水辺。これらが点在し、それらをつなぐ道が美しい物語を持っている。この「回遊性」の設計は、日本の住宅街においても、コミュニティーを活性化させ、住人の満足度を高めるための極めて重要な視点です。

古き良きものと新しさの共存:歴史のレイヤー

北欧の街並みが美しいのは、単に新しいからではありません。むしろ、100年以上前の古い建物が、現代の最新の設備と融合し、現役で使われ続けているからです。彼らは「スクラップ&ビルド」ではなく、良いものを手入れしながら使い続ける「ストック型社会」を体現しています。

古いレンガの壁の中に、最先端のガラス建築が入り込む。そのコントラストが、街に深みと「時間の層(レイヤー)」を与えています。これは、新築物件においても「数十年後にどう見えるか」という経年変化を設計の前提に置く姿勢につながります。歴史的な背景を尊重しつつ、現代の機能を付加する。このバランス感覚こそが、愛着の持てる街をつくるための真髄です。住まい手にとっては、自分の家が街の歴史の一部になるという誇りを感じさせ、つくり手にとっては、時代を超えて残る仕事をするという覚悟を促します。

【フィンランド・ヘルシンキ】自然と共生するコンパクトシティ

「ちょうどいいサイズ感」の心地よさ

ヘルシンキは、首都でありながら非常にコンパクトにまとまった都市です。トラム(路面電車)が街中を走り、主要な施設が半径数キロ圏内に収まっています。この「コンパクトさ」は、忙しい現代人にとって大きなメリットとなります。移動時間が短縮されることで、家族との時間や趣味の時間が生まれ、心のゆとりが生まれるのです。

フィンランドの人々は、この物理的な距離の短さを利用して、都市の利便性と自然の静寂を自在に行き来します。中心部からトラムでわずか15分も行けば、深い森や美しい海辺にたどり着く。この「アーバン」と「ネイチャー」のシームレスな接続こそが、フィンランド流のウェルビーイングの基盤です。住宅設計においても、都市部にいながら自然を感じられる半屋外空間や、効率的な生活動線の確保がいかに重要かを教えてくれます。

進化する再開発エリア:カラサタマとへルットニエミ

ヘルシンキの注目すべき点は、古い港湾地区や工業地帯を、世界最先端のスマートシティへと変貌させている再開発のプロセスです。例えばカラサタマ地区では、「1日の中に1時間の余暇を生み出す」というコンセプトのもと、ゴミ収集システムの自動化や、シェアリングエコノミーの導入が進められています。

一方でへルットニエミのようなエリアでは、古い一戸建て住宅地と新しい集合住宅が共存し、多様な世代が混ざり合って暮らしています。ここで特筆すべきは、新しく建てられる住宅の質の高さです。フィンランドの集合住宅は、高い断熱性能はもちろん、各住戸にサウナが備わっていたり、共有部分に広々としたランドリールームやワークスペースが設けられていたりと、個のプライバシーとコミュニティーのバランスが絶妙に設計されています。単なる建て売りではない、エリア全体の価値を高める「コンセプト型開発」のモデルケースといえるでしょう。

デザインの日常化:ビンテージが息づく街

フィンランドにおいて、デザインは美術館に飾るものではなく、日々の生活を支える「道具」です。街を歩けば、アアルトの家具を配した図書館や、マリメッコのテキスタイルが彩るカフェが当たり前のように存在します。特に印象的なのは、街の至るところにあるビンテージショップやセカンドハンドショップです。

人々は新しいものを追い求めるのではなく、誰かが大切に使ってきたものに新しい価値を見出し、自分の暮らしに取り入れます。この「モノを大切にする文化」が、街全体の落ち着きと品位をつくり出しています。そこに学ぶべきは、単に流行のデザインを追うのではなく、10年後、20年後に「ビンテージ」として価値が出るような、素材感と普遍性を備えた住まいづくりの提案です。日常の中に自然とデザインが溶け込む、そんな美意識を育む空間こそが、住む人の人生を豊かにします。

【デンマーク・コペンハーゲン】素材が語る「成熟した街」の美学

レンガと水辺のスタイリッシュな景観

デンマークのコペンハーゲンを象徴するのは、重厚なレンガ造りの建物と、街を巡る運河の風景です。フィンランドが「木と光」のイメージなら、デンマークは「土と水」のイメージに近いかもしれません。古い倉庫街をリノベーションしたレストランや住宅が立ち並び、水面にはその美しい街並みが映り込んでいます。

デンマークの建築には、素材に対する深い敬意が感じられます。特にレンガは、その色合いや積み方によって、建物に独特の表情と温かみを与えます。運河沿いのパブリックスペースでは、人々が木製のデッキに座って日光浴を楽しみ、水辺が街の「リビングルーム」として機能しています。この「素材が持つ力」と「水辺の活用」は、日本の地域開発においても、その土地特有の素材を見直し、公共空間をいかに豊かにするかという視点に直結します。

素材の循環と再評価:リソース・ロウ(Resource Rows)

デンマークは今、サステナビリティ(持続可能性)をデザインの核心に据えています。その象徴的なプロジェクトが、コペンハーゲンの再開発地区にある「リソース・ロウ(Resource Rows)」です。これは、解体された古い建物から回収したレンガを、パネル状に再加工して新しい住宅の外壁として再利用したものです。

新品のレンガでは決して出せない、長い年月を経て刻まれた傷や色のムラが、建物に唯一無二のキャラクターを与える。これは日本の建築業界にとっても大きな示唆となります。古材や地域の廃材を、単なる「古いもの」としてではなく、豊かな表情を持つ「高級な素材」として再定義する。素材の循環をデザインの武器にする姿勢は、これからのまちづくりに求められる共通の創造性です。

水辺を活用した都市空間:アクティブな公共性

コペンハーゲンのまちづくりにおいて、運河や港などの「水辺」は、単なる景観ではありません。それは、人々が泳ぎ、カヤックを楽しみ、ビールを片手に語らう、アクティブな活動の場です。街の中に「誰でも自由にいられる場所」が豊富にあることが、人々の心の余裕を生んでいます。

水辺に面した住宅地では、プライベートなバルコニーと公共の遊歩道が緩やかにつながっており、住人は街の活気を感じながら暮らすことができます。この「私的空間と公的空間のグラデーション」のつくり方が非常に巧みです。日本の住宅設計においても、庭や縁側を介して地域とどうつながるか、あるいは近くの河川や公園を自分の庭のように感じられる工夫をどう施すか。デンマークの事例は、住まいの境界線を広げることの豊かさを教えてくれます。

自然と合理性に与するフィンランド、持続可能な洗練のデンマーク

都市のトーン:合理的で爽やかなヘルシンキ vs 重厚でスタイリッシュなコペンハーゲン

両者を比較すると、その都市が持つ「トーン」の違いが鮮明になります。フィンランドのヘルシンキは、パステルカラーの建物や白い教会、そして広大な緑が印象的で、全体として「素朴かつ合理的で爽やか」な空気が流れています。デザインも機能性を重視したミニマリズムが主流で、自然環境との調和が最優先されます。

一方、デンマークのコペンハーゲンは、ダークトーンのレンガや石畳、そしてエッジの効いたモダン建築が混在し、「重厚でスタイリッシュ」な雰囲気を醸し出しています。歴史的な重みを大切にしながらも、大胆な現代建築を挿入するセンスは圧巻です。この「爽やかさ」と「重厚さ」の違いは、住まい手の好みだけでなく、その土地の風土や歴史的背景に根ざしています。

同じ北欧でも画一的な「北欧スタイル」があるわけではなく、都市さらにはエリアごとに現れる特色があります。エリアの歴史や風土に適したデザインをどう生かすか。新たなテイストをどうやって取り入れるか。まちのつくり手たちが考えなければならない側面ともいえるでしょう。

サステナビリティへのアプローチ:システムのフィンランド vs モノの循環のデンマーク

持続可能な社会へのアプローチも、両国で興味深い違いが見られます。フィンランドは、都市全体を一つの効率的なシステムとして捉える傾向が強いようです。カラサタマで見られるような、自動ゴミ収集システムやエネルギーの効率化など、インフラやITを活用した「スマートな持続可能性」を追求しています。

対してデンマークは、リソース・ロウの事例に象徴されるように、建材や家具といった「モノの循環」と「職人の技術」に焦点を当てています。古くなったものをどう美しく再生し、次世代に引き継ぐか。この「素材へのこだわり」は、手触り感やクラフトマンシップを大切にする日本の企業にとっても、非常に親和性の高い考え方です。システムによる効率化と、素材による愛着の醸成。これら両輪を組み合わせることが、日本版・サステナブル住宅のヒントになるかもしれません。

日本での「心地よい街・住まい」への応用

「ローカル感」の作り方:地域のアイデンティティを更新する

北欧の事例から私たちが学ぶべき最大の教訓は、彼らが決して「どこにでもある街」を作ろうとしていないことです。フィンランドはフィンランドの、デンマークはデンマークの歴史や素材を大切にし、それを現代の技術でアップデートしています。

日本のまちづくりにおいても、北欧の真似をするのではなく、その土地にある石、木、瓦、あるいは歴史的な背景をどう現代の住まいに活かすかが重要です。地域の工務店が、その土地ならではの素材や景観を再発見し、新しい価値として提案すること。それこそが、大手ハウスメーカーには真似できない、地域に根ざした「ローカル・アイデンティティ」の構築に繋がります。

住まい手の五感を刺激する:スペックを超えた設計

断熱性能や耐震性能といった数値化できる「スペック」は、住宅にとって不可欠な基礎です。しかし、北欧の街が教えてくれるのは、その先にある「五感の心地よさ」の重要性です。窓から見える街路樹の緑、レンガの壁に触れた時の温度、歩きたくなる歩道の質感。

これらは数値には表れませんが、住む人の幸福感を決定づける要素です。住まいのつくり手は、技術的なプロフェッショナルであると同時に、住まい手の五感をデザインする「暮らしの編集者」であるべきだということです。光の入り方、風の通り道、そして街との適度な距離感。これらを丁寧に設計に盛り込むことで、住まいは単なる箱から、人生を彩る舞台へと変わります。

一棟の家は街の風景の1ピース

大切なのは、地域で建てられる「一棟の家」は、それ単体で完結するものではなく、街の風景を構成する大切な1ピースであるという視点です。北欧の美しい街並みは、個々の建物が周囲との調和を意識し、公共への貢献を忘れないことで成り立っています。

自分たちが建てる家が、道行く人に安心感を与えているか、隣家の陽当たりを尊重しているか、街に美しい緑を添えているか。この「利他的な設計思想」こそが、結果としてその建物の資産価値を高め、ひいては街全体の魅力を向上させます。北欧の街に共通する「住む人への敬意」を、日本の家づくりの中核に据えること。それが、私たちが北欧から受け取るべき、最も価値あるバトンではないでしょうか。

 


私たちは、つい「家の中」のことばかりを考えてしまいがちです。しかし、本当の心地よさは、玄関のドアを開けたその先、街とのつながりの中にあります。北欧の人々が教えてくれた、ヒューマンスケールの街路、素材への愛着、そして自然との共生。これらのエッセンスを日本の風土に合わせて翻訳し、実装していくこと。その積み重ねが、いつか私たちの街を、世界で一番幸せな場所に変えていくはずです。

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