外から見たダイニング

地域の人々が「神社山」と親しみを込めて呼ぶ里山の木立が迫る住宅街の一角。スチール製の螺旋階段を上がっていくと、モダンなオープンキッチンが目に飛び込んできた。粋人の隠れ家のようにも見える建物の正体は、建築家の日野桂子さんの仕事場を兼ねた自邸だ。

希望した敷地条件は、山に面した、あまり都心から離れない場所。街からの距離も遠くなく冬の坂道の勾配もさほど大変でない場所として、札幌市内の中央区円山西町の神社山に面した土地を限定で探したという。

ところがようやく見つけた土地は土砂災害特別警戒区域に指定されていて、法規上、万が一の災害に耐えうる構造でなければ新築できない。それでも「目の前に立ちふさがる壁をどうクリアするか考えるだけで、ワクワクしました」と日野さんはいう。構造設計家と知恵を絞ってデザインした建物は、鳥居型RC構造の架構で地上3mにふわりと浮くようにしつらえたワンフロアの住まいだった。

神社山の隠れ鳥居の家外観
4本の鉄筋コンクリートの柱に支えられ、地上3mに浮かぶような個性的な外観が目を引く
玄関まわり
左:玄関の壁面に設けられた靴置場は、ガラスと灯りを用いたオブジェのような設え、右:打ち合わせコーナーは玄関のすぐ左手に配置。空間のオンとオフが巧みな動線設計で分離されている
打ち合わせスペース
温水パイピングを施した柱暖房を採用した室内は、やわらかな暖かさで満たされている

想定していた2階建てからの変更を余儀なくされ、本当に必要なモノだけを凝縮しなければならなくなり、改めて自分の暮らしにとって大切なものを自問自答した日野さん。見出したのは「誰かのために料理をし、好きなお酒を選んで、にぎやかに食卓を囲む。そんな空間と時間が、次の仕事に向かう元気の源だ」という答えだった。   

そして生まれた延床28坪の空間の中心に据えたのは、神社山の四季を身近に感じ、友人とゆるやかな時間を共にするかけがえのない場所としてつくりあげたダイニング・キッチン。ダイナミックな開口を設けた造作キッチンには、料理や食べることが大好きな日野さんらしい細やかな仕掛けも随所に施されている。「ここで土地の二十四節気を体感することで、戸建て暮らしならではの醍醐味をたくさん味わえると思います。その楽しさ、豊かさをこれから家をつくるお客様に提案していきたいですね」。 

ダイニング
建築地とともに山の斜面の土地も購入したのは、大きな窓から山側の四季の移り変わりを楽しむため。大きなダイニングテーブルと一体となったアイランドキッチンは、日々の食事の場や仕事の打ち合わせ場所としても使われる
キッチンカウンター
キッチンの左手奥に冷蔵庫や調理家電を収納できるパントリーを設置。扉を閉じると白い壁になり、スタイリッシュな空間を労せず保てる
キッチンとダイニングの間の段差
造作収納の端は、気分を替えて仕事をしたい時のためにデスク仕様に

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建築家の自邸ならではの試み 〜日野 桂子

寝室

この住宅は柱と梁の架構が神社の鳥居のかたちをしているので、「神社山の隠れ鳥居の家」と名付けました。柱と梁は鉄筋コンクリート造、床・壁・天井は木造という混構造です。ここは土砂災害警戒区域なので、3mほどの高床式にして、新たな災害対策住宅としての試みも兼ねてこの構造を採用しました。

暖房は床暖房に加え、4本のコンクリートの柱の中に温水パイピングを施して、柱暖房としました。ここで暮らして2年が経ちましたが、体と平行に熱放射があることで質の良い暖かさを実感できています。

コンクリートの大きな鳥居をくぐって、浮かんでいる螺旋階段を昇り、建物内に入っていく。そんなイメージがこの住宅の象徴となり、大好きなダイニング・キッチンを中心とした空間とともに育っていけばと願っています。 

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■建築DATA
札幌市中央区
家族構成/本人40代、スタッフ1人 
構造規模/RC造(RCラーメン構造+木造)・2階建て
延床面積/93.21㎡(約28坪)
■工事期間 平成28年6月〜11月(約6ヵ月)
■設計/ヒノデザインアソシエイツ 、施工/新栄工建(株)
 構造設計/(株)山脇克彦建築構造設計