「本を売る場所」から「まちの居場所」へ。地域課題を解決する、体験型拠点の描き方

公開日:2026.4.13 最終更新日時:2026.4.13

各地域で魅力的な「まち」を目指す取り組みを紹介。まちの魅力向上をエリアの価値向上につなげるヒントをひも解きます。

「本を売る場所」から「まちの居場所」へ。私たちが慣れ親しんできた「TSUTAYA」という空間は、今、その役割を大きく変えようとしています。人々の営みや地域のにぎわいをどう描くのか。その動向に多くの関心が寄せられています。

今回は、数々の「蔦屋書店」の立ち上げや、佐賀県武雄市での図書館プロジェクト、福岡市でのスタートアップ支援など、常に「場」を通じてまちの熱量を高めてきた、カルチュア・エクスペリエンス株式会社 代表取締役社長(兼 カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社 執行役員)の鎌浦 慎一郎さんにお話をうかがいました。


売り場を「家のような居心地」を提案する場所へ

1998年の入社以来、一貫してTSUTAYAの店舗づくりに携わってきたCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社)の大きな転換点は、2011年の「代官山 蔦屋書店」の開業でした。デジタル化が進み、書店の存在意義が揺らぐ中でCCCが掲げたのは、意外にも「ライフスタイルの提案」という原点回帰でした。

代官山 蔦屋書店

鎌浦さんは、当時の想いをこう振り返ります。「本を購入するだけでなく、くつろぐ場所がほしいという人に向けて、家のような居心地のなかで、自分の『好き』が見つかる場所をつくりたいと考えたんです」。

代官山 蔦屋書店では、従来の「料理」や「旅行」といった事務的な分類を捨て、人の営みに直結する「食・暮らし」や「車・バイク」といったライフスタイル別のカテゴリーで空間を再構成しました。例えば、「食」ジャンルではレシピ本の陳列ではなく、その土地の文化や歴史、道具までを横断的に体感できる設計です。

代官山 蔦屋書店

併せて象徴となったのが、各ジャンルに精通した「コンシェルジュ」の導入でした。単なる店員ではなく、食や旅、車といった特定の文化を深く愛するプロを公募。生活者と同じ目線でライフスタイルを提案する。その徹底したこだわりが、代官山という街に新たな呼吸をもたらしました。

代官山 蔦屋書店

建設会社が「運営」を担う、茨城県常総市の新しい形

現在、鎌浦さんが注力しているのは、TSUTAYAというプラットフォームを活用した「地域におけるにぎわいづくり」です。その象徴的な事例が、茨城県常総市での取り組みです。

驚くべきは、大手ゼネコンの戸田建設が自ら「TSUTAYA BOOKSTORE」の運営を担っている点にあります。戸田建設は農業が主産業である地域の課題に向き合い、農業6次産業化による「食・農・健康」をテーマとした地域創生の一環として施設全体を開発・運営。隣接する農園のイチゴを使ったスイーツの提供や、子ども向けの屋内施設などを一体で整備し、地域連携を図っています。

茨城県常総市のTSUTAYA BOOKSTORE

「そのまちに住みたいと思ってもらえるような、店舗やにぎわいをつくることが、私たちの仕事です」と語る鎌浦さん。

建物というハードをつくる建設会社が、自らソフト(運営)を担うことで、まちのコミュニティ拠点としての役割をより主体的に果たしています。これは、地域に根ざす工務店にとっても、大きな示唆を含んでいます。

時代に合わせて「拠点の定義」を更新し続ける

CCCのまちづくりへの視点は、時代や場所に合わせて柔軟に形を変えます。2026年3月に誕生した「軽井沢T-SITE」は、「旅・暮らし・ワークスタイル」を融合させた滞在型拠点へと進化しました。

軽井沢T-SITE

仕事や読書ができるSHARE LOUNGEや、サウナ付き温浴施設など、今の軽井沢に求められる要素を詰め込んでいます。「アウトプットの形が『TSUTAYA』である必要はないんです。大切なのは、そのまちの今の課題にどれだけ寄り添えるかなんです」

この柔軟な姿勢こそが、地域の熱量を高める鍵となります。北海道の「函館 蔦屋書店」でも、月に100回以上のイベントを通じて「誰かに会いに行く場所」という価値を創出。デジタル時代だからこそ、リアルな体験が持つ重みが、人々のウェルビーイングに直結しているのです。

函館 蔦屋書店
函館 蔦屋書店

「まちづくり」の当事者になるために

最後に、地域で活動する工務店の皆さんへのヒントとして、鎌浦さんは「徹底的なマーケティング」と「コミットメント」を挙げました。

武雄市のプロジェクトでは、スタッフが開館前から1年間そのまちに住み込み、地元の温泉や酒場を巡って市民と交流を深めたといいます。「自分たちがそのまちの当事者になることが何より大切なんです」という言葉には、単なる外部者としての関わりではない、覚悟の重みが宿っています。

武雄市図書館

また、自社だけで完結させず、専門家を巻き込む力も不可欠です。「市民の要望を聞き、自分たちでできないことは、プロフェッショナルなパートナーとともに取り組む。そこで『志』をずらさず、妥協しない。それが結果として、まちに愛される場所づくりにつながります」

家を建てることの先にある「豊かな暮らしの風景」を描くために、まずは自分たちが一番楽しみ、まちの声に耳を澄ませること。鎌浦さんの挑戦は、私たちが暮らす地域の可能性を改めて教えてくれました。

取材協力 カルチュア・エクスペリエンス株式会社
/写真提供 カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社
(取材・文:Replan編集部)


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