建築と家具の曖昧な関係。「無駄」が育む暮らしの余韻|写真家・佐々木育弥さん
住まいを彩る家具・インテリアとその暮らし
目次
単に「明るく快適」なだけではない。意図的につくられた光と影、視界から徹底して排除されたノイズ、そして建築の一部として設計された家具の配置。建築士の視点と写真家の感性、家具や古物、アートへの深い造詣が溶け合う住空間には、住まい手の審美眼が隅々まで貫かれています。
空間の「ノイズ」を削ぎ落とし、暮らしに陰影を描く
今回訪問したのは、大学で建築を学び、設計事務所での実務経験もありながら、今は北海道を拠点に写真家として全国で活躍している佐々木育弥さんの自邸です。室内に足を踏み入れると、そこにはギャラリーのような静謐さと生活空間としての温もりが同居する住空間が広がっていました。

「ただ明るいだけではなく、間接照明や窓からの陽の入り方による陰影があることで、暮らしに余裕というか『余韻』が生まれると思うんです」と語る佐々木さん。家づくりにおいて徹底したのは、「空間が平坦に見えないようにすること」でした。
そのために意識したことの一つが「ノイズの排除」です。
配線やスイッチプレートはできるだけ視界に入らないように位置などを工夫。照明の引っ掛けシーリングの根元さえも見えないように取り付けました。視覚的な雑音=ノイズを消し去ることで、光の当たり方や窓からの景色、さらには家具やアートといった、本来住空間の主役となるべき要素を際立たせるためです。


「物は横から光が当たることで立体感が生まれます。写真撮影時のライティングと同じで、正面から光を当てると面白みが消えてしまう。光と影のコントラストが感じられる空間づくりを大事にしました」。
家具を受け入れるための「建築」という器
佐々木さんは自邸の建築にあたり、設計段階から手持ちの家具を空間の一部として組み込んで考えていました。「大物の家具をどこに置くかは、自分で展開図に描き込んでいました。『ここにこの家具を置きたいから、照明のスイッチを20㎜ずらしてほしい』といった細かい調整まで自分でやりましたね…」。
特筆すべきは、壁の厚みを利用した「家具的な建築」の設計です。「言ってしまえば『無駄』なんだけど、それが結果として室内空間の豊かさにつながるとも思うんですよね」と、佐々木さんは話します。

リビングの壁面には、アートや古物をディスプレイするために奥行きの深いニッチを設けました。植物などをディスプレイした窓台のスペースも、あえて壁に厚みを持たせたことで生まれた余白です。「好きなガラスの置物や植物が、窓の光を背景にシルエットとして美しく見えるように。棚を壁の中に収めれば、それは壁の一部となり空間のノイズを減らすことにつながります」。


何かを飾るために棚を後付けするのではなく、あらかじめ建築に物を置ける場所を組み込むことで、空間を整理する。考え抜かれた設計デザインが、すっきりとした美しさを生んでいます。
ウィンドウトリートメントをなくし
外の景色をインテリアの一部に
佐々木さん宅には、カーテンやブラインドといったウィンドウトリートメントが見当たりません。これは、敷地を生かしたコの字型の配棟計画によって、外部からの視線を遮りつつ、内側に開かれた空間を実現したからこそ可能となりました。

「もともと新築にあたっては『カーテンのない生活』をイメージしていました。ここは緑豊かな土地なので、日々移り変わる窓の外の景色をインテリア的な存在として取り込みたかったんです」。窓枠のない大きな窓ガラスが絵画のように外の風景を切り取り、暮らしの中で常に自然の気配を感じさせてくれます。
ルーツがつながる名作家具と、揺るぎない審美眼
リビングに並ぶのは、ハンス・J・ウェグナーやボーエ・モーエンセンといったデンマークの巨匠たちがデザインした家具。これらは単なるコレクションではなく、お互いに影響を受け合ったデザイナー同士の「ルーツ」がつながるものとしても選ばれています。「ウェグナーとモーエンセンは親友同士。同じルーツを持つ家具を置くことで、素材感やトーンが自然と響き合います」。

質の高さに圧倒されるコレクションの数々ですが、デザイン性はもちろん、道具としての機能性も検討されています。例えば、リビングの壁から伸びるコルビュジエの「マルセイユランプ」は、ソファの位置に合わせて向きを変えられる可変性があります。
佐々木さんは「暮らしとともに家具の配置や置くものは変わっていくと思うので、その変化に柔軟に対応して楽しめるように考えてあります」と話します。

佐々木さんのこだわりは、室内に置く本や音楽のジャケット一冊にまで及びます。「ジャケットのデザインが空間の基準に合わなければ、手元に置きたくない(笑)」という、その徹底した姿勢が、一貫性のある美しい住空間の世界観をつくり上げています。
owner’s select items
item①
ボーエ・モーエンセン「2シーターソファ」
ハンス・ウェグナー「デイベッドソファ」

リビングの空間デザインの核は、モーエンセンの2シーターソファとウェグナーのデイベッド。可動式ネックレストが機能美を湛えるソファ、籐編みの背もたれをスライドさせるとベッドへと姿を変えるデイベッドは、いずれも10年ほど前にインターネットで見つけたビンテージ品です。




良きライバルであり親友でもあったデンマークの近代家具を代表する二人の巨匠。テーブルもウェグナーで揃えたこの空間には、家具が紡ぐ歴史や文脈を愛でる佐々木さんの哲学が宿っています。
item②
古道具屋で出会った
ビンテージの和食器棚

7年ほど前に当時は札幌市内にあった古道具店「交点」で出会ったという和食器棚。深い茶の塗装でリメイクが施され、内部まで同色で設えられた潔さに佐々木さんは惹かれたといいます。
日常使いの器をたっぷりと受け入れる確かな収納力を備えつつ、経年による木の質感やたたずまいは、北欧の名作たちとも共鳴。国や出自は違えど、時を重ねたものだけが持つ文脈や存在感が、暮らしの中に違和感なくなじんでいます。

item③
ル・コルビジェがデザインした
「ランプ・ド・マルセイユ」

近代建築の巨匠ル・コルビュジエが、マルセイユの集合住宅のために設計した「ランプ・ド・マルセイユ」。上下を照らす直接光と間接光を併せ持つ、機能的な造形が特徴です。現在主流のミニサイズではなく、佐々木さんは数年前にオリジナルのスケールを購入。
一段下がった高天井のリビングだからこそ、そのダイナミックな造形も圧迫感を与えることなく、空間に溶け込んでいます。自在に動くアームは、家具の配置を頻繁に変えるという佐々木さんの自由な暮らしに最適です。
item④
「SAC WORKS」でしつらえた
オーダーメイドのサイドボード

玄関土間に置かれた靴箱として使っているサイドボードは、札幌市にある家具ブランド「SAC WORKS」でしつらえたオーダー家具。シューズクローゼットのように用途を限定した場所をつくるのではなく、靴箱すらも魅力的な「見せる家具」としました。
繊細な手仕事が光る蛇腹扉は、省スペースとスムーズな開閉を実現。棚の上のコレクションに外の光が射し込み、空間に陰影が生まれるよう側面の壁に縦長の小窓を設けたのも、佐々木さんらしいこだわりです。



大切な家族の歴史と暮らしの楽しみを詰め込んだミニマルな田園の家











