リビング

札幌市中央区の住宅街。周辺に小学校や高校が隣接する、比較的大きな道路に面した角地に、建築家の才善伊津美さんの自邸兼事務所は建っている。家の前を多くの人が行き交うこの土地での建築にあたり、才善さんは「個と地域、人と人とをつなげられる場所をつくりたい」との想いを膨らませた。

北側外観。左手の木製ドアがコミュニティルームへの入り口、右手が居住スペースの玄関となっている

そうして完成した建物は、「コミュニティルーム」としても使えるスペースを設けた事務所を併設。Room1(仕事場)とつながるようにレイアウトされたこの場所は、仕事の打ち合わせをはじめ、友人たちを招いての食事会や、親子で参加できるTシャツづくりのワークショップなどに活用されているという。  

コミュニティルームの入り口を正面から見る。リラックスして入ることができる、適度な開放感を生んでいる
コミュニティルームの入り口を正面から見る。リラックスして入ることができる、適度な開放感を生んでいる
コミュニティルームは、北東側に接する前面道路からも様子が伺える地域に開けたプランニング
コミュニティルームは、北東側に接する前面道路からも様子が伺える地域に開けたプランニング
1階コミュニティルームからRoom1方向を見たところ。左手の小さなシンク付きカウンターは、交流の場として機能する際に重宝するちょっとした仕掛け
1階コミュニティルームからRoom1方向を見たところ。左手の小さなシンク付きカウンターは、交流の場として機能する際に重宝するちょっとした仕掛け

自宅側の玄関を開けると、思いがけず目の前に和室が広がる。「うちの場合、和室を使うのは、茶道のお稽古や来客時。あとはストレッチや、なんとなくゴロゴロする時…。頻繁には使わないけれど、なくてはならない部屋でした」。そこで、家の中心でもあるこの場所に配置。リビングと和室を併設させるプランも多い中、才善さんは自身の暮らしを鑑み、あえてリビングから離れた場所に和室を配したことで、ご家族と来客の良い距離感が保てて、双方が使いやすい空間になったという。

2階は、LDKを中心としたプライベートな空間。吹き抜けの窓は山が見える位置に、リビングの窓はブラインドを開けていても、外からの視線が気にならない位置にと、LDKのプライベート感と開放感を高める工夫がなされている。夜にはハイサイドライト(高窓)から月を眺めることも。「くつろげる空間にしたかった」という才善さんの言葉どおり、月明かりと薪ストーブの炎と間接照明で、ゆったりとした「お酒が飲まさる(才善さん)」空間がつくり出された。

「犬を飼い始めたことで、近所の犬友さんたちが散歩帰りに立ち寄ってくれるようになり、少しずつ地域に開かれてきているかなと感じています」と才善さん。コミュニティの拠り所として、多くの人たちが「Session」する場になっていくことだろう。

住居スペースの玄関に入ると、正面に和室が開ける。何もない空間によって、視覚的な広がりを感じさせる効果も
住居スペースの玄関に入ると、正面に和室が開ける。何もない空間によって、視覚的な広がりを感じさせる効果も
2階のリビング・ダイニング。屋根なりに高さが増す天井とハイサイドライトが、くつろぎの空間を生む
2階のリビング・ダイニング。屋根なりに高さが増す天井とハイサイドライトが、くつろぎの空間を生む
黒を基調としてシックに仕上げた造作のキッチンは、使い勝手にもこだわった
黒を基調としてシックに仕上げた造作のキッチンは、使い勝手にもこだわった

1階のRoom1にあるトイレの扉は、鮮やかなピンク色で遊び心を表現
1階のRoom1にあるトイレの扉は、鮮やかなピンク色で遊び心を表現
2階トイレ前の手洗器の台座も鮮やかなグリーンで、空間が華やぐ
2階トイレ前の手洗器の台座も鮮やかなグリーンで、空間が華やぐ

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女性目線の「暮らし」を大事にした設計 〜才善 伊津美

リビングとつながる広いデッキは、建物の南東方向に開けた設計で、開放的かつ実用的なスペース
リビングとつながる広いデッキは、建物の南東方向に開けた設計で、開放的かつ実用的なスペース
自邸の設計にあたって私は、「くつろげる空間」「暖かさ」「使いやすさ」「災害に強いこと」の4つを大切にしました。

「くつろげる空間」。これを実現するためには、さまざまな配慮が必要です。特に人通りの多い道に面した住宅街での設計では「窓の位置」が大事。自然光をたっぷり採り込みながらも、プライバシーが保たれる窓の配置を考えました。また基本的には落ち着いた印象の色と素材を選び、間接照明や薪ストーブによる空間演出を組み合わせることで、家族みんなで「くつろげる空間」としています。

私はとにかく寒がりなので「冬暖かい」ことが必須。同時に、夏涼しく省エネな設計としました。暖房は、1階が床暖房、2階はパネルヒーターと薪ストーブですが、1階の床暖房とリビングのパネルヒーターだけで十分暖かく冬を過ごしています。薪ストーブは、補助暖房です。夏は、風の通り道を考えて設けた窓が効果を発揮。窓を生かした通風と1階の土間空間のおかげで、エアコン要らずです。

女性設計士としては「家事の負担を減らしたい!」との思いから、見栄えだけではなく住まいの「使いやすさ」にも重点を置いています。特に料理や掃除のしやすい生活空間のレイアウトを考え、効率よく家事ができる動線を工夫しました。また収納計画も大事。使いやすく、急な来客でもぱっとナチュラルに隠せる(!)収納を実践しました。

そして「災害に強いこと」。自邸の新築では構造計算を実施し、耐震性を確かめて設計しました。実際今回の北海道の地震では建物への被害はありませんでした。またオーダーメイドのキッチンには、非常時に備えて電気・ガス両方のコンロを設置してあったので、大停電時もガスで調理ができました。補助暖房になっている薪ストーブも、万が一の冬の停電時には心強い存在です。

新築してから犬を飼い始めたのですが、犬が同居することで、想像していた以上に建物に工夫が必要だと実感しています。今後は、犬や猫などのペットにやさしい家づくりもご提案していきたいと思っています。

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■建築DATA
札幌市中央区
家族構成/夫婦40代
構造規模/木造(在来工法)・2階建て
延床面積/191.80㎡(約58坪)
■工事期間 平成27年1月〜6月(約6ヵ月)
■設計/atelier Q、施工/マルミ工藤建設(株)