秋田県県南部、米どころとして知られる仙北市。雪にすっぽりと覆われた田んぼの向こうには秋田駒ヶ岳をはじめとする奥羽山脈の山並みが、ゆったりと連なっています。「この風景を目線の高さで見られる暮らしがしたかったし、妻にもキッチンで家事をしながら景色を楽しんでほしいと思いました」。大きな窓越しに陽射しが注ぐリビングで、Mさんはそう話します。

2階に設けたLDKは仕切りをなくして開放感と広さを追求
2階に設けたLDKは仕切りをなくして開放感と広さを追求
奥羽山脈を見渡せるリビングの窓下に設けたベンチは、ソフトダウンの棚板の収納スペースに。使い勝手に考慮した造作家具のよさ
奥羽山脈を見渡せるリビングの窓下に設けたベンチは、下が収納スペースになっている。使い勝手に考慮した造作家具のよさ

最上の眺めを確保するためにMさんが希望したのは、2階にLDKを置くプラン。家づくりのパートナーに選んだのは自由設計と高い住宅性能で知られる地元の工務店、仲野谷工務所でした。

大きな片流れ屋根が印象的な総2階建て。90㎝の軒を支える補強材は「方杖」と呼ばれ、角館の蔵などにも見られる
大きな片流れ屋根が印象的な総2階建て。90㎝の軒を支える補強材は「方杖」と呼ばれ、角館の蔵などにも見られる

静かな田園風景の中に建つ純白の片流れ屋根の家。外観こそシンプルですが「家の中はあえて複雑な構造にした」という言葉どおり、Mさん宅は1階から個性的です。玄関ドアを開けるとまず目に入るのは、黒いタイル敷きの土間に囲まれた和室。気軽に腰を下ろせる小上がりスタイルとし、さまざまな来客を迎え入れるオープンなゲストルームとして利用されています。一方、玄関の左奥には約4帖ほどの広さの趣味室が。釣りやテニス、スキーなど多彩な趣味を持つMさんの願いで実現した、まさに男の隠れ家。明るく開放的な和室との対比がとてもユニークです。

1階エントランスにはL字形の土間に囲まれたゲスト用和室がある。南と東に開口部があるため明るく開放的な空間
1階エントランスにはL字形の土間に囲まれたゲスト用和室がある。南と東に開口部があるため明るく開放的な空間
Mさんのコレクションが詰まった玄関脇の趣味室。土間と地続きのため靴のままで利用でき、スキーや釣り竿の手入れもしやすい
Mさんのコレクションが詰まった玄関脇の趣味室。土間と地続きのため靴のままで利用でき、スキーや釣り竿の手入れもしやすい
2階へ上がる階段脇にコンパクトな洗面コーナーを設置。この1階の右手奥には主寝室や子ども部屋がある
2階へ上がる階段脇にコンパクトな洗面コーナーを設置。この1階の右手奥には主寝室や子ども部屋がある

階段を上がった2階は、さらに楽しい工夫が施されています。奥羽山脈を見渡すリビング・ダイニングは、窓の大きさに加え屋根勾配を生かすことで、吹き抜けのような開放感を演出しています。キッチンカウンターも窓の方向を向き、家事中でも目線を上げれば雄大な風景が広がります。さらにキッチン背後には壁を設け、カウンター付きパントリーと物干しスペースを配置。リビングの奥にも小さな畳スペースがあり、広いLDKを囲むようにコンパクトな空間が並ぶメリハリのあるレイアウトになっています。

「この風景を見たくて2階リビングにしました」という奥羽山脈が窓の向こうに広がる
「この風景を見たくて2階リビングにしました」という奥羽山脈が窓の向こうに広がる
「素材感で最後まで悩んだ」というキッチンはステンレスを選択。モノトーンのタイルや色合いに一目惚れしたという床とのバランスもいい
「素材感で最後まで悩んだ」というキッチンはステンレスを選択。モノトーンのタイルや色合いに一目惚れしたという床とのバランスもいい
キッチンの裏には収納棚を付けたパントリーが。L字形となっており、窓側には物干しスペースがある。子どもたちの格好の遊び場
キッチンの裏には収納棚を付けたパントリーが。L字形となっており、窓側には物干しスペースがある。子どもたちの格好の遊び場

設計・施工を手がけた仲野谷工務所の仲野谷勝洋社長は「構造とスペックを守ることで、意匠やレイアウトは自由に楽しんでもらえる」ときっぱり。超高断熱・高気密仕様とトリプルガラスの採用、全ての柱に4寸角(120㎜)を採用するなど、寒さの厳しい仙北地域で快適かつ安心して暮らせる家づくりに取り組んできた自負があるからこその自由設計なのです。

リビングの奥にはコンパクトな和室。遊び心ある壁紙を使用したことで、和室とはいえモダンな空間に
リビングの奥にはコンパクトな和室。遊び心ある壁紙を使用したことで、和室とはいえモダンな空間に
Mさん宅の暮らしの中心は2階。洗濯や着替えなどがスムーズに行えるように、リビングの横に大容量のウォークインクローゼットを設けた
Mさん宅の暮らしの中心は2階。洗濯や着替えなどがスムーズに行えるように、リビングの横に大容量のウォークインクローゼットを設けた
洗面コーナーはLDKと区別するため白い床材を選択。木の風合いを生かした洗面カウンターやタイルなどMさんご夫妻が厳選した素材が随所に
洗面コーナーはLDKと区別するため白い床材を選択。木の風合いを生かした洗面カウンターやタイルなどMさんご夫妻が厳選した素材が随所に

Mさんも同社のそんな家づくりに感嘆し、「素材や什器も自由に選べ、造作家具もつくるなんてハウスメーカーじゃ考えられない」と話します。気になることはその都度打ち合わせをし、施工中も大工とコミュニケーションを取れるのも地元の工務店だからこそ。「建築士に頼むと『建築士の家』になる。僕たちのイメージで建てたいという願いを、仲野谷さんで叶えられた」とMさん。誰のものでもない、自分たちの住まいを実現しました。