電車通りに建つ築111年の蔵をリノベーション。既存の姿を生かした外観は、街並みにしっくりと馴染む

家づくりは函館の西部地区にある明治末期建築の蔵との出会いからはじまりました。1階に収納と趣味の写真ギャラリー、2階をワンルームの生活空間に改築するプラン。快適に住まえるよう、2階には断熱を施すとともに外光と通風を確保する窓が設けられました。それらの必要最低限の作業以外はご家族が地域の人の手も借りてセルフビルド。堅牢な構造を現しにしたワンルームの居住スペースは、まるで山小屋のよう。さらに少しずつ手を加え、現在進行形の住まいです。

◎家族構成/夫婦40代、子ども1人
◎構造規模/戸建て・築111年
◎設計・施工/(同)富樫雅行建築設計事務所

既存の構造を現しにした2階の居住空間。明るさを確保するため、富樫さんの提案で屋根に4つの天窓を設けた。また、再利用した蔵戸がレンガづくりの蔵にあったと聞いたYさんは「その雰囲気を残したい」と、中国のアンティークレンガをネットで注文。自ら壁に張って仕上げた。手間ひまかけて隅々まで知り尽くした住まいに、愛着もひとしお 下:はるばるスペインから運ばれてきたクッキングストーブに、Yさんは一目惚れ。調理と暖房を兼ねるこのストーブは、使ってみると思った以上に重宝しているそう

幅の広い既存の床板が、歴史ある建物ならではの存在感。壁と天井はウレタンの吹き付けで断熱を施し、DIYで珪藻土を塗って仕上げ、蔵らしさを感じさせる。リビングと寝室は、カーテンで緩やかに仕切れる設計に
壁や天井は、地域のDIYサポーターの手も借りながら、珪藻土をコテ塗り
床を再利用するため、お父さんがデッキブラシで磨いてオイルで仕上げた
もらい物の3枚格子戸を横にして繋ぎ合わせたお手製の蔵戸を備えた1階表通り側のスペース。ここは、アジアの旅が好きなYさんが撮りためた写真を飾るギャラリーに生まれ変わった。富樫さんとYさんは、今後の活用プランを密かに温めているよう
愛用の靴が整然と並ぶ収納棚は、外された既存の階段を再利用したもの
1階ストックスペースには、長年の釧路暮らしで登山に夢中になったYさん愛用のアウトドア用品がずらりと並ぶ。「夫はとにかくモノが好きで…。引っ越しを機に、これでもずいぶん断捨離してもらったんです」と、奥さんは笑う
着工前に急遽、キッチンストーブの採用を決定。そこでアイランド型のシステムキッチンから、業務用キッチンの壁付けに設計を変更することに。「結果、暮らしの中心はリビングではなくダイニング・キッチンに。これが動線が短くて、思いのほか便利なんですよ」とYさん。DIYしたモールテックスの素材感も、心地よく空間に馴染んでいる
 
長さが2.4mもあるとっておきの大テーブルの天板と、レンジフードまわりの壁は、Yさんと富樫さんがモールテックスでDIY
はるばるスペインから運ばれてきたクッキングストーブに、Yさんは一目惚れ。調理と暖房を兼ねるこのストーブは、使ってみると思った以上に重宝しているそう
2階にはトイレを併設したユーティリティを新設。出入り口のドアには、縁あって譲り受けた市内の蔵の戸を再利用した。造作洗面台はミシン台にタイル、ホウロウの洗面器を組み合わせたYさんの力作
建物の奥行きが、一般的な蔵の2倍という珍しいつくり。外壁は、既存のサイディングを洗浄して、DIYでウレタン塗装を3回重ねた。玄関や窓を設けたことで、家らしい佇まいになった
アプローチには、破格で購入した割れた大谷石を自ら敷き詰めた