土地探しから5年を経て完成したというこの家は、札幌市手稲区の山麓に位置し、遠景にはピンネシリから暑寒別岳、近景には四季折々の表情を見せる森など借景に恵まれている。周囲は力強く繁茂する雑木群で、聞けば冬には鹿が敷地内を闊歩するという。市街地からさほど遠くはない場所ながら、自然との共生が感じられる環境だ。

この地の雑木林の記憶を留めるイメージでデザインされた外観。45㎜幅の細い道南杉板で仕上げた外壁は、雨風や太陽の光にさらされて自然と表情が深くなる

「雑木が立ち並ぶ景色の中に住居のあるべき姿を模索し、この『森の素形』を見出しました」と髙野さんはいう。設計では、この地の記憶を建築に反映させ残すことをイメージ。住居の輪郭は、壁というよりもむしろ、大きな幹のような柱を家の前面にある崖の木々と呼応させるように立ち並べていった。高野さんは、大木群を模した柱の間に生まれた場を「間」と名付け、家の内外に散りばめた。

大きな幹のような木の柱が周囲の木々と呼応して、周りの環境に寄り添う
住宅の一部でもあるような「外の間」は、中庭のような空間として内と外をつなぐ

屋内に足を踏み入れると、広がるのは上下、左右に抜けのある大らかな空間。家全体に優しい光が満ちているのが印象的だ。木々のようにそびえ立つ大きな柱を縫うように、髙野さん家族は生活している。ひとつひとつの居住スペースは決して広くはないものの、吹き抜けや「外の間」とのつながりを感じさせる大きな開口部の効果で、変化に富んだ多面性のある住空間を実現している。

玄関は広く、窓の外や吹き抜けなど多方向へ視界が抜ける。折り紙のような鉄板の螺旋階段は、オブジェのような存在感
木、鉄、タイル、コンクリート、木毛セメント板といった異素材の組み合わせが、この家ならではの心地よさを生み出す
大きな窓の外に空と緑が広がるリビング。床レベルを地面と同じ高さにしたことで、庭の草花をより近くで愛でられる
森の空中を歩くような浮遊感のある2階の廊下。空を模したような銀盤の天井が、時間ごと季節ごとに移ろう外界の色彩を室内に映し出す
窓の外に緑の世界が広がる3畳の和室。低めの吊り天井で茶室のように親密な空間でありながら、豊かで開放感のある安息の場に

内と外との概念を曖昧にした「間」が連なるこの家は、いわゆる「nLDK」という住宅の常識から解き放たれた新たな感性を育む可能性を秘めている。髙野さんいわく「住宅とは、長い間ずっと飽きずに着られる衣服のようなもの」。日々刻々と移り変わる時間やめぐる季節ごとに、さまざまな表情を見せるこの「森の素形」は、髙野さんたち家族らしさをまとった住まいといえるだろう。

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 ここでの暮らしぶりと、自邸ならではの試み 〜髙野 現太 

自宅兼事務所として手稲山麓に建てた「森の素形」は、身体に訴えかけてくるようなスケールを採用しました。また窓を透明な壁として扱ったり、天井に鈍い反射性を付帯させることで空に近い環境を与え、外の景色も呼び寄せるなど、外部との連続性を強調しています。

実際に暮らしてみて感じるのは、小さな「間」を住宅の其処此処に散りばめたことで、人とそれぞれの「間」がお互いに寄り添うような親密な関係性を生んでいるということ。春夏の緑や秋の紅葉、冬の白銀を映しこむ天井の銀盤や、床から天井までの大きな開口は、私たち家族の意識をおのずと外へと導き、点在する「間」に佇んでは自然の美しさを感受しています。

子どもたちは長い廊下を駆け抜け、いつの間にやら「外の間」や庭で遊び、居間で折り紙をしていると思えば、大きなダイニングテーブルで母親と絵を描き、気づけば2階に移ってピアノを弾きながら声高に歌ったり…。家での暮らしを自在に楽しむ子どもたちの姿に、既成概念にとらわれない住宅建築の有り様を改めて考えさせられます。

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■建築DATA
札幌市手稲区
家族構成/夫婦30代、子ども2人 
構造規模/木造(軸組金物工法(J-耐震開口フレーム構造搭載))・2階建て
延床面積/124.04㎡(約37坪)
■工事期間 /平成28年9月〜平成29年3月(約6ヵ月)
■設計/一級建築士事務所GLA 髙野 現太 、施工/ミサワホーム北海道(株)