福島県いわき市に、県内初のドイツパッシブハウス研究所の認定(申請中)を目指したパッシブハウスが完成しました。手がけたのは、いわき市を拠点に100年家づくりに携わっている後田工務所。環境先進国ドイツ流のパッシブハウスを、高温多湿な日本の気候にどのようにフィットさせ、心地よい暮らしの場をつくるのか。その魅力に迫ります。

温暖ないわきの地からパッシブハウスを発信

「快適な住空間と省エネ性を、高いレベルで実現したい」という想いのもと、10年以上も前から高断熱・高気密の家づくりに専念してきた後田工務所。そんな同社が今回手がけたのは、パッシブハウス・ジャパンの監修により世界で最も厳しいといわれるドイツパッシブハウス研究所の認定を目指した、福島県初となるドイツ基準のパッシブハウスです。

金属とレッドシダーのサイディングを組み合わせたスタイリッシュな外観。後田さんはデザイン畑の出身だけあり、内外の意匠センスも申し分ない
金属とレッドシダーのサイディングを組み合わせたスタイリッシュな外観。後田さんはデザイン畑の出身だけあり、内外の意匠センスも申し分ない

実はこのお宅は、同社代表の後田哲男さんの自邸です。「以前から性能の限界に挑戦してみたいという思いがありました。今回、母と同居するための二世帯住宅を建てることになり、それならばまず自分の家でどこまでできるか試してみようと思ったんです」と、チャレンジに至った経緯を語ります。

パッシブハウスの第一の意義は、地球温暖化の原因となるCO2の排出量を削減すること。そのため、高性能な断熱材や複層窓、熱ロスの少ない換気システムなどを駆使しつつ、自然の力も最大限に利用した、設備に頼らない省エネな家であることが求められます。「パッシブハウス認定の燃費基準は非常に厳しいんです。ですが、ここいわきは東北の中では最も温暖な、関東寄りの気候エリア。基準をクリアしやすい環境なのが幸いしました」。

いわき市を含む断熱区分5〜6地域は比較的人口が多く、その分CO2排出量も増加しがちです。「CO2排出量の多い地域からパッシブハウスを」。このいわきの地でパッシブハウスに取り組む意味を、後田さんはその点に見出しています。

広く設けられた玄関ホールは、1階で暮らすお母さんとのコミュ二ケーションを生み出すコモンスペースとなっている
広く設けられた玄関ホールは、1階で暮らすお母さんとのコミュ二ケーションを生み出すコモンスペースとなっている
1階にはお母さんの生活スペースを配置。北欧デザインのインテリアが心地よい

環境に配慮した家は、心地よさもプレミアム

後田工務所が手がけたパッシブハウスは、ダブル断熱やトリプルガラスなどで高断熱・高気密を追求し、超ハイレベルなUA値、C値を実現。さらに熱交換換気とエアコンのダクトを組み合わせることで、1本のダクトで全館換気兼全館冷暖房を叶えています。驚くことに、設置しているエアコンは18帖用のもの1台のみ。居住スペース約60坪の二世帯住宅という大きな家にもかかわらず、真夏の光熱費は13,000円ほどだったそうです。

後田さんご夫妻とお子さん2人が暮らす2階は、造作家具で目隠ししつつも、パッシブハウスの利点を生かして間仕切りのないワンフロアに
後田さんご夫妻とお子さん2人が暮らす2階は、壁面収納で目隠ししつつも、パッシブハウスの利点を生かした仕切り壁のないワンフロアに
壁面全体を使って設けた収納棚は、LDKとの間仕切りも兼ねている
2階ホールの壁面収納は、たくさんの本を置いたり雑貨をディスプレイしたり、工夫次第で多様な使い方が可能。LDKとの間仕切りも兼ねている
ホールにレイアウトされたお子さんの勉強スペース。奥には主寝室とつながる大空間のウォークインクローゼットが
ホールにレイアウトされたお子さんの勉強スペース。写真正面扉の先には主寝室とつながる大空間のウォークインクローゼットが

その燃費の良さもさることながら、一番の魅力は五感で体感できる空気のプレミアム感。ひと夏を暮らしたご家族も「室内の温度が常に適温で一定。風もなく、音もしないので快適です」「いつも熱交換されたフレッシュな空気が部屋に満ちていて、高原にいるような涼しさを感じました」と、その心地よさにすっかり魅了されたご様子です。

南面の大開口が居心地の良さを高める2階LDK。ダイニングテーブルやリビングのソファ、一段床を下げたピットリビングなど、多彩なくつろぎのスペースを提示
南面の大開口が居心地の良さを高める2階子世帯のLDK。ダイニングテーブルやリビングのソファ、一段床を下げたピットリビングなど、多彩なくつろぎのスペースを提示
2階リビング。ソファ背面の壁にあしらわれた表情豊かな板材が、上質感の中にインダストリアルな趣を添える
コの字型にレイアウトした対面式のキッチンは、インテリア性と機能性を両立させたデザインが魅力

「環境負荷の軽減を目指したパッシブハウスは、低燃費で家計に優しいだけではありません。安定した温熱環境や空気の健やかさが生み出す心地よさにも大きな価値があることを、この家を通してお伝えしたいですね」と後田さん。事前予約にて見学が可能なので、興味のある人は足を運んでみてはいかがでしょうか。

Drawing —

Housing Performance —
■断熱性能:UA値:0.22W/㎡K

■気密性能:C値:0.1c㎡/㎡

Data —
■構造規模:木造(在来工法)・2階建て

■延床面積:240.76㎡(約72坪)(車庫含む)
■主な仕上げ:
<外部> 屋根/ガルバリウム鋼板縦ハゼ葺、外壁/木製サイディング・金属製サイディング、建具/玄関ドア:高断熱ドア、窓:木製サッシ・樹脂サッシ
<内部> 床/無垢フローリング・塩ビタイル、壁/AEP塗装・珪藻土塗、天井/クロス・スギ板張
■断熱仕様:<充填断熱+付加断熱>
床下/A種スタイロフォーム3種b100㎜、床下/セルローズファイバーブローイング240㎜、壁/フェノールフォーム1種60㎜+80㎜、天井/セルローズファイバーブローイング300㎜
■暖房方式:エアコン
■エコ設備:太陽光発電、太陽熱温水器

 

後田工務所が考える
ドイツ基準のパッシブハウス

建物自体の性能を徹底的に高め、自然の力を利用するときは利用し、防ぐときは防ぐ。設備や機器に頼るのではなく、少ないエネルギーで心地よい暮らしを実現する。エアコン1台で夏は涼しく、冬は暖かく。環境にも住む人にも家計にも優しい住まい。それが、後田工務所の考えるドイツ基準のパッシブハウスです。

 

①高断熱・高気密

省エネ&快適な暮らしの大前提となるのが断熱性能。夏は冷気を、冬は暖気を室内から逃がさない高断熱・高気密が基本です。

②熱交換換気

給排気+冷暖房同時型を推し進めることにより、ダクトやエアコンの数を減らし、いつでも新鮮な空気環境と快適な温熱環境を実現します。

③庇の角度・外付けブラインド

パッシブハウスの一番の肝は日射熱のコントロールにあり。日射角度を計算した庇と外付けブラインドで夏の日射しを遮ります。

④高性能な窓

窓は熱を逃がしやすい場所。それだけに高い性能を持つサッシやガラスの採用により、窓の断熱・気密性を高めることが大切です。

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都市部の土地不足やミニマルな暮らしへの欲求の高まりなどを受けて、コンパクトな家の需要も増えています。一方で、コンパクトというと「小さい」「狭い」「窮屈」というマイナスイメージを持つ人も多くいるのではないでしょうか。

そこで今回は、延床面積がそれぞれ29坪、29坪、26坪という「コンパクト」なお宅を訪問。コンパクトな家は狭いのか、空間が小さいことにはどんなメリット・デメリットがあるのか、充実したコンパクト空間にするためのコツは何なのか、その実態を探ってきました。

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