仕事の都合により、20回にも及ぶ転勤を繰り返していたというBさんご夫妻。60代となり、「そろそろ定住地が欲しい」と選んだ場所は、大雪山の麓にある自然環境に恵まれた東川町でした。旭川出身のBさんにとって、東川町はかつて祖父母が住んでいた第二の故郷。趣味のスキーを通じてご夫妻が出会った思い出の地でもあります。現在も東京で勤務中だというBさんは、2週間に一度東川町に戻ってくるという日々を過ごしています。

玄関から、木の香りに誘われるように足を進めると、目の前に飛び込んでくるのは、高い吹き抜けのあるリビングの大空間。「私たちの家づくりは、このリビングから始まりました」とBさん。開放感あふれるリビングには、音楽を愛するBさんのこだわりが詰まっているのです。

「玄関とキッチンをつなげて、買い物から帰って来たらすぐに冷蔵庫に向かえるように動線を考えてくれたので楽ですね」と奥さん
玄関ホールには白塗装で仕上げた収納が設けられている。奥の寝室は10畳の広さ
「アイランド型キッチンは、広くて使いやすくお気に入りです」。収納を考えられた造作の食器棚とカウンターなど、奥さんへの配慮が行き届いたキッチンスペース
連窓の向こうに広がる緑。その奥には忠別川が流れている。冬は薪をくべながら火のある暮らしを楽しむ

中央に置かれた椅子で、音楽を楽しむことを想定し、壁や天井などに設置するスピーカーがすべて同じ距離になるよう自ら図面を描いたBさん。ヨーロッパの音楽堂のような響きを求め、依頼したのが芦野組でした。「音の響きを考え、天井や壁、床の材質も徹底的に追求したいと思っていたので、自然素材の扱いを得意とする芦野組さんにお願いしました」。

Bさんにとっての家づくりとは、すなわち至極の音づくり。「芦野組としても、音楽堂をテーマにした家づくりは初めてでした」と芦野専務。「構造上、可能な限りの広さと高さを実現させました。音響の奥深さを学ぶことができて、ありがたかったです。やりがいに満ちた仕事で楽しかったとBさんとの家づくりを振り返ります。

音の響きを考え、天井と壁の一部はリブ形状仕上げに。開放感と木のぬくもりが同居する空間となった

「天井はリブ形状仕上げにしてもらい、壁の一部も同じものを使用しました。これは音の反響を適度に抑えるために最適なつくりなんです」とBさん。正面のステージは、ゴムマットの上に硬いレンガを敷き詰めた2層構造。硬いレンガはスピーカーの動きをスムーズにし、ゴムマットは余計な共鳴を抑える効果があるとのこと。漆喰の塗り壁にも「吸音率を高めるため、漆喰に大量の藁を混ぜ合わせ、柔らかく仕上げました」とひと工夫。こうして、Bさんの綿密な計算と、それを実現する芦野組の確かな技術によって「音楽堂の響きをもつリビング」が完成しました。

考え抜かれた音響環境の中、Bさんはジャズやクラシック、映画を楽しんでいる

「家の裏手には忠別川が流れ、2階の洋室からは大雪山が望めます。カヌーやスキーは夫婦共通の趣味でもあるので、豊かな自然に囲まれて、のびのびと暮らしています」と奥さん。「音響に関しての知識はさっぱりですけど」と付け足して笑うその表情は、充実に満ちていました。

書斎を設けた2階のロフト風フリースペース。「山小屋に憧れていたので、それらしい雰囲気がお気に入りです」と奥さん。カヌー仲間が寝袋を並べて眠ることもあるそう
周囲の緑に溶け込む木の外壁。「おばあちゃんの木の家にまた行きたい、って孫が言ってくれました」と奥さん。除雪の手間が軽くなるカーポートも嬉しい
裏手には広いウッドデッキ。ハンモックに揺られながら緑を楽しむなど贅沢なひと時が楽しめる。「庭づくりも勉強中です」とBさん

設計・施工:(株)芦野組
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