籐はラタンあるいはケインと呼ばれるヤシ科の蔓性植物で、その主な自生地はベトナムからオーストラリア北部に至る東南アジアである。茎には鋭いトゲがあり、そのトゲを木に絡ませ、熱帯ジャングルの中で200メートルを超える長さに成長する世界一長い植物だ。

成長が早いため5年以上を経たものは、古くから家具や日用品などに利活用されてきた。その種類は多く、200種以上が確認されている。それぞれの茎の太さに応じて使い分けられるが、太いものは大民、中位のものは中民、細いものは小民と呼ばれる。成長の早さから竹と似た使われ方がなされるが、竹との違いは茎が中空ではないことだ。その特徴を活かし、皮の部分「皮籐」と、芯の部分「芯籐」を製作する物の適材・適所に合わせて使われる。椅子などのシート部分は3次元曲面を構成することが多いが、そうした曲面を細かく編み上げることで極めて美しいフォルムを生み出す。

写真の作品は1952年に創業された山川ラタン社によって生産されていた。その後、経営破綻し一時的に廃盤となったが、山川ラタン社の社員によりYMK社が創設され、現在この作品はYMK長岡社で5人の熟練職人によって生産が続けられている。一方、山川ラタン社は再建され山川ラタン東京社として、ナナ・ディッツェルの作品などを販売している。

YMK長岡社のホームページによると製作プロセスが詳しく紹介されている。まず木取り、そして切断。歪みを工具でまっ直ぐにするため直し。そして正しいフレームに合わせた曲げ加工。整形(曲げや整形段階では蒸気熱を利用)。皮籐を使い各パーツを固定する組み立て。芯籐を竹ヒゴ状にしたもので編み込み、全体が出来上がった状能で籐のささくれ部分をバーナーで焼き、表面をなめらかにする仕上げ。これらの工程を経て出荷されるのだ。山川ラタン東京社ではインドネシアの工場で製造している。

今回紹介する作品は剣持勇がホテルニュージャパンの内装を手掛けた際、ラウンジ用にソファやスツールと共にデザインされたものだ。しかし、実際に使われていたのはバー・マーメイドであった。当時はその形状から「籐丸椅子」などと呼ばれていた。剣持は、欧米のデザインとは違う日本独自のモダニズムを、との考えから、ジャパニーズモダンと呼ばれるモダニズム運動を展開した。この考え方に賛同したのが渡辺力、柳宗理、長大作、水之江忠臣らであった。この活動から生まれた作品はニューヨーク近代美術館の永久展示作品となったり、ミラノトリエンナーレで受賞作となる作品を生み出したのである。

ホテルニュージャパンはかつて、千代田区永田町に1960年に建てられ、その場所柄、政治家や芸能人に利用された。しかし、1982年、宿泊客の火の不始末から大火災となり33人もの犠牲者を出し、その後ホテルは廃業となった。筆者も1969年に投宿したが、残念ながら剣持の内装デザインとは知らなかった。

ラウンジチェア C-3150
藤素材を巧みに操り、美しいプロポーションに仕上がっている
ラウンジチェア C-3160
体の大きい欧米人でもゆったり座れるようにワイドが広くなっている
剣持 勇(けんもち いさむ)
日本インダストリアルデザイナー協会を、渡辺力、柳宗理らと結成し、1955年剣持勇デザイン研究所を設立。日本のデザイン黎明期を支えた一人
ホテルニュージャパンのバーラウンジのためにデザインされた「ラウンジチェア C-3150」のシリーズのスツール

■ラウンジチェア C-3150
メーカー:ワイ・エム・ケー長岡

サイズ:幅810×奥行780×高さ720×座高380㎜
材質:本体/籐、座面/クッション、張地/ファブリック(アクリル70%、ウール30%)
価格:231,000円(税込)

<問い合わせ先>
メトロクス
https://metrocs.jp
03-5777-5866