神奈川県茅ヶ崎市で3代にわたり造園業、鳶職、建設業と事業を継承してきた松尾建設株式会社。3代目にあたる代表の青木隆一さんは「建築家との家づくり」をベースに、地域の人々の暮らし方や将来の希望に寄り添い、注文住宅を手がけています。建築家の菊池佳晴さんが設計し、松尾建設がつくり上げた住まいを訪問し、その想いをお聞きしました。


コラボレーションで生まれた「大磯の家」

松尾建設が年間で手がける1518棟の注文住宅はすべて建築家の設計。工務店がプロデューサーとなり、土地探しや資金計画から相談に乗り、建築家や長年の付き合いの職人たちとの縁をつなげる役割を担っています。「菊池さんとは今回初めてタッグを組みましたが、以前から菊池さんの家づくりへの考え方や素材の生かし方に共感していました。ご縁があって一緒にプロジェクトを進めることになって、何か新しいことができるのではないかとワクワクしました」。

異なる二つの天井高が交差するLDK。リビングに腰を下ろすと洞窟の中にいるような安心感と心地よさに包まれる
異なる二つの天井高が交差するLDK。リビングに腰を下ろすと洞窟の中にいるような安心感と心地よさに包まれる

大磯エリアの海を望む高台に完成したのは、一見すると閉鎖的な外観が目を引く全面スギ板張りの住まい。一歩室内に足を踏み入れると、静かで落ち着いた空気に包まれます。広い土間玄関かららせん階段を上ると、東側の大開口から海を望めるLDKに思わず息を呑むと同時に、天井高を低く抑えたダイニングと、吹き抜けで採光を確保したキッチンのメリハリが目を引きます。視線が海の方へ自然と向く開放感と、家族だけの静かな時間を演出する設えが、大磯らしい暮らしへ導いてくれるようです。

屋久島の地スギを全面に張った外壁が目を引く住まい。通りに面しているところは一切開口を設けず、住宅街での周囲の視線を遮り安心感を与える
屋久島の地スギを全面に張った外壁が目を引く住まい。通りに面しているところは一切開口を設けず、住宅街での周囲の視線を遮り安心感を与える
室内から天井続きのバルコニーに面した大開口。躯体の断熱性を高め、性能の高い木製サッシを採用することで、夏の暑さや冬の寒さに影響されず外の景観とつながることができる
室内から天井続きのバルコニーに面した大開口。躯体の断熱性を高め、性能の高い木製サッシを採用することで、夏の暑さや冬の寒さに影響されず外の景観とつながることができる
ダイニングの天井高を1,950mmと低く抑えることで視線が自然と窓の外へ誘導される。景色を室内に取り込む工夫がカーテン不要の暮らしを実現
ダイニングの天井高を1,950㎜と低く抑えることで視線が自然と窓の外へ誘導される。景色を室内に取り込む工夫がカーテン不要の暮らしを実現

「楽しみのある家にしたい」という青木さんの言葉どおり、アウトドアの趣味の場としてもセカンドリビングとしても活用できる土間玄関や、サウナを設置予定の屋上デッキ、外付けブラインドを設置したバルコニーなど、さまざまな楽しみの仕掛けが散りばめられています。

バルコニーの外側に設置された外付けブラインドを下げることで、夏の日射を遮り、バルコニーでの居住性も確保できる
バルコニーの外側に設置された外付けブラインドを下げることで、夏の日射を遮り、バルコニーでの居住性も確保できる
1階から屋上までを貫くらせん階段。鉄骨ながらやわらかなフォルムと優しいグレーのトーンが上り下りを楽しく彩る
1階から屋上までを貫くらせん階段。鉄骨ながらやわらかなフォルムと優しいグレーのトーンが上り下りを楽しく彩る

施主と建築家と工務店三者の良いバランスを

大磯の家は、南西にあたる道路側には一切開口を設けず、外観は閉鎖的な雰囲気となっている一方、すべての居室の窓から外の緑が眺められ、テラスやバルコニーへもアプローチできるよう計画されているため、室内では閉塞感を感じることはありません。また、主な家具や照明などは菊池さんからの提案でセレクトし、空間とマッチした上質な居心地を演出しています。

天井高を抑えて落ち着いた雰囲気の寝室。外に対して閉じながらも、テラスを通じて外の自然とつながることができる
天井高を抑えて落ち着いた雰囲気の寝室。外に対して閉じながらも、テラスを通じて外の自然とつながることができる
寝室や収納などのプライベートゾーンがまとめられた1階は、モノトーンで静かな雰囲気。漆喰クロスのグレーに各部屋の窓からの光がやわらかく交差する
寝室や収納などのプライベートゾーンがまとめられた1階は、モノトーンで静かな雰囲気。漆喰クロスのグレーに各部屋の窓からの光がやわらかく交差する

「私たちが住宅を手がけている茅ヶ崎でも、住宅街では視線や採光のコントロールが必要になります。セオリーどおりの窓の付け方、プランが暮らしに沿っているとは限らないので、お施主さんへのヒアリングを重ねて導き出した、快適性と暮らしの楽しみを大切にしています」と青木さん。その思いを実現するために、お施主さんと建築家、工務店の三者のフラットな関係は欠かせないといいます。

松尾建設株式会社
代表取締役 青木隆一さん
松尾建設株式会社 代表取締役 青木隆一さん

「設計という面で建築家はプロフェッショナル。お施主さんと建築家と工務店の三者がそれぞれの立場での力を発揮することで、住む人にとって心地よい、将来的にも安心できる住まいができると考えています」と、青木さんは建築家と家づくりする理由を語ります。お互いに刺激を与え合い、「松尾建設らしい」と言われる住まいが茅ヶ崎に増える未来を目指しています。


設計者より
菊池佳晴建築設計事務所 菊池佳晴さん

最初に敷地を見たときから、眺望も良く自然も豊かな環境で、何か面白いことができそうだという予感がありました。ショールームとして活用するということだったので、松尾建設さんが造園業からスタートしたこと、茅ヶ崎という人と海とのつながりが強い場所柄などを考え、自然を住まいに取り込み、日々の遊びや楽しみがにじむような空間をつくりたいと考えました。

広い土間スペースの玄関ホール。サーフボードなど趣味の道具を持ち込んだり、ソファを置いて第2のリビングとして過ごすこともできる多様性のある空間となっている
広い土間スペースの玄関ホール。サーフボードなど趣味の道具を持ち込んだり、ソファを置いて第2のリビングとして過ごすこともできる多様性のある空間となっている

海を見せるストーリーとして、階を上るにつれて見えてくる仕掛けとなっています。外に向けて閉じているところから、1階でほのかに外を感じさせ、2階に上がると大開口を通じて木々の向こうに海が望めます。さらに、屋上デッキに出ると眼下いっぱいに海を含めた景色が広がるので、この場所ならではの楽しみ方ができます。

屋上デッキには今後サウナを設置する予定。整いベンチを設えて「楽しみ」をさらに深める工夫も
屋上デッキには今後サウナを設置する予定。ととのいベンチを設えて「楽しみ」をさらに深める工夫も

また、ダイニングの天井高を1950㎜とかなり低く抑えて、窓の外へ視線を誘導させ、椅子に座ったときの心地よさを重視しています。一方で、立っている時間が長いキッチン側は天井を高くすることで、圧迫感のないように配慮しました。室内の各所で天井高や色のトーン、心地が変わるので、シーンに合わせて居場所を選べる楽しみもあります。

スペースを有効に活用できる壁付けのキッチン。天板のモールテックスが連続してリビングのソファベンチ、テレビボードを形成し、シンプルな空間のアクセントとなっている
スペースを有効に活用できる壁付けのキッチン。天板のモールテックスが連続してリビングのソファベンチ、テレビボードを形成し、シンプルな空間のアクセントとなっている

松尾建設さんは新しいことにチャレンジする心意気や、ポジティブな推進力を持った会社です。吸収して成長していこうとする姿に、私も刺激を受けましたし、これからがとても楽しみです。

あえて細く張った板張り外壁の繊細な雰囲気と、アプローチの植栽が四季を通じて住まいに彩りを添える
あえて細く張った板張り外壁の繊細な雰囲気と、アプローチの植栽が四季を通じて住まいに彩りを添える

大磯の家 スライドムービー


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家づくりを始める際に重要となるのがパートナー選び。自分に合ったパートナーにたどり着くためには、まず、どのような選択肢があるかを知ることが重要です。

大きな住宅展示場にモデルハウスを持ち、多数のメディアで大々的に広告している大手ハウスメーカーに比べ、地域の「工務店」は、興味はあってもなかなかその実情を把握しにくいのが現状です。

そこで今回は、それぞれに特徴や強みの異なる工務店との家づくりをご紹介。工務店をパートナーに選んで建てた実例と住まい手の声を通じ、その魅力を紐解きます。

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