合理性とプライスレスな価値を兼ね備えた暖房[薪ストーブ暖房編]
家づくりの最前線で活躍するプロを訪ね、これからの家づくりにあらかじめ知っておきたい考え方や基礎知識をうかがう取材シリーズ。
目次
今回ご登場いただくのは北海道屈指の積雪寒冷地、旭川市を拠点に家づくりに取り組む(株)芦野組・常務取締役の芦野優作さん。同社が勧めている薪ストーブを主暖房に用いた家づくりについて、環境性・コスト・豊かさなどの観点から語っていただきました。

常務取締役
芦野 優作さん 旭川市生まれ。2006年芦野組に入社。2008年から1年間はカナダのビルダーで大工として寒冷地での家づくりを、帰国後2年間は設計会社で働きながらCADを学ぶ。現在は芦野組で自然の力を生かした暖かな家づくりに取り組んでいる
自然の力を生かし、化石燃料に依存しない住まいを実現
大工の創業者が1952年に興した芦野組は、伝統的な大工の手仕事を用いて、上川の厳しい自然環境から暮らしを守る住宅性能を追求してきました。また、健康的な室内環境をつくる珪藻土・塗料・クロス類、ウッドマイレージの少ない道産木材をできる限り多く用い、住まう人と環境に優しい家づくりを行っています。伝統的な大工の手仕事と自然素材を用いた住まいは、バリアフリーやアレルギー対策も万全です。


2022年以降は、建築設備のコストアップやエネルギー源の価格高騰、住まいのゼロカーボン化に対応できるよう、化石燃料に依存しない家づくりにも積極的に取り組んできました。降雪量が多い上川は、太陽光発電パネルの設置には不向きな土地。そこで、これまでの実績と経験を生かしながら、太陽光発電を備えなくても、国のZEH基準をクリアできる高断熱・高気密の住まいを実現しました。
住宅性能の目覚ましい進化を背景に、私たちは主暖房を従来のガスセントラルから薪ストーブに替えた家づくりをご提案しています。今、世界的に重大な環境問題となっている地球温暖化の原因の一つになっているのが、暖房などに使っている化石燃料の燃焼によって排出されるCO₂。薪を燃やしてもCO₂は発生しますが、森の木々が成長するときに吸収する量と実は同じです。CO₂を増やすことも減らすこともない薪は、地球環境への配慮にもつながる古くて新しい再生可能エネルギーなのです。
省エネ性抜群なのに家中が暖かで快適。小さな平屋にも最適
薪ストーブを主暖房にすることで、優れた住宅性能との相乗効果が期待でき、高騰し続ける暖房費の削減にもつながります。住まいのエネルギー源をガスに集約した場合、冬のランニングコストは月平均で約3万円。それに対し、薪ストーブを主暖房にした場合はエアコンやガスボイラーを併用しても1万円台で賄うことができます。
また、第1種換気システムで回収した空気の熱を床下コンクリートに蓄える試みが功を奏し、エネルギーがさらに有効に活用できるようになりました。厳冬期も薪ストーブ1台で家中の隅々まで心地よい暖かさで満たされます。窓の性能もアップしているため、窓下の結露防止のパネルヒーターも不要。間取りや家具配置の自由度も上がります。空間が無駄なく使えるので、近年人気の26坪前後のコンパクトな平屋には薪ストーブが最適です。
ほかの暖房機器に比べ、薪ストーブは設置工事も器機のつくりも非常にシンプルなので、イニシャルコストや設備費も圧縮できます。薪ストーブ自体の性能も格段に向上し、燃焼効率が高くなったことでメンテナンスの手間も軽減され、扱いやすくなっています。なお、高気密な住まいで薪ストーブを焚くと、24時間換気システムの影響を受けてストーブの煙が室内に逆流することがまれにあります。芦野組ではこれまで数多くの薪ストーブ設置を行った経験から、24時間換気の影響を受けないように、標準仕様として加圧式給気口を設置しています。
長い冬の暮らしを豊かに頼もしく支える一生もののパートナー
薪ストーブの機種も近年、暖炉感覚で使えるスタイリッシュなものから、オーブン・グリル料理も楽しめるクッキングストーブまで多様化しています。長年薪ストーブを扱ってきて、私たちがおすすめしているのは、炎がよく見えて煮炊きもしやすい天板の大きなタイプ。また、主暖房として採用する場合は、住まいの大きさに合うカロリー数の見極めも大切です。
2018年9月、北海道胆振東部地震の際に起きた大規模停電の際には、電気に頼らない薪ストーブが煮炊きの熱源として、夜の明かりとして大活躍しました。家族が集まってガラス越しに炎を眺めることで会話が弾み、不安な気持ちも慰められたのではないでしょうか。この震災を機に、芦野組でも万が一の備えとして薪ストーブを新築時に採用するケースが増えました。
薪ストーブには、遠赤外線による輻射熱が生み出す優しい暖かさ以外にも、くべた薪がはぜる音や炎の美しさ、胃袋も心も満たす温かなストーブ料理など、たくさんの冬の楽しみがあり、暮らしに豊かさを与えてくれます。薪の準備や日ごろの手入れなど少しの手間も、いつしか生活の一部になるでしょう。平均すると130万円ほどの初期費用はかかりますが、一生ものの薪ストーブの価値はプライスレスです。
私たちは親子、孫の世代まで暮らせる普遍的な住まいをつくりたいと常に考えています。「機能」「デザイン」「性能」に加え、自然の力を生かしながら旭川の気候風土と調和する「人と環境に優しい住まいづくり」をこれからも追求し続けます。
Case.1 美瑛町・Sさん宅
もともと薪ストーブに憧れがあったSさん。何度か芦野組にオープンハウスを見学され、炎のある暮らしの心地よさを実感し、新居にも薪ストーブを導入されました。暮らしの中心となるのは大きな吹き抜けのあるLDK。広い土間リビングの一角では薪ストーブの炎がゆらめいています。「吹き抜けを通して2階まで暖かさが届き、家の中が常に心地よくて快適。心配もあったけれど、薪ストーブを主暖房にしてもまったく問題ありません」と、憧れの薪ストーブライフを楽しまれています。
Case.2 旭川市・Yさん宅


Yさん宅は、木をふんだんに用いて設えた開放的な空間が印象的な住まい。その中心には、ご夫妻が「体の芯から温まる薪火の魅力に惹かれ、どうしても採用したかった」という、薪ストーブが設置されています。地域柄、薪が手に入りやすいことも薪ストーブ採用の決め手だったといいます。薪ストーブのある土間はリビングも兼ね、ご夫妻のお気に入りのくつろぎスペース。寒い季節は窓から射し込む光と薪火の熱がコンクリートタイルに蓄熱され、まるでサンルームのよう。省エネ基準をクリアする住宅性能を備えているので、旧居(2LDK)と比べて光熱費も安くなったそうです。
Case.3 旭川市・Mさん宅
最後の赴任になった旭川の環境が気に入り、家を建てようと決めたMさん。以前は冬場の住居の寒さに、奥さんが体調を崩すこともあったことから、高い断熱性能をベースに、ご夫妻の憧れだった薪ストーブを暖房に採用した住まいを希望されました。新居は、ダイニング・キッチンを軸とした回遊動線が使いやすいコンパクトな平屋。12月以降の厳冬期も、朝起きてから数本薪を焚けば、夕方まで家全体がじんわり暖かいです。床暖房とパネルヒーターも備えており、薪ストーブの火がつくまでの間も寒さを感じることはありません。
- 株式会社芦野組
- 私たちが大切にしているのは、「ほっとくつろげる家」であること。そのために、いろいろなところにこだわります。例えば、無垢材や珪藻土など自然素材による仕上げは、見た目や肌触りに温かみが感じられ、くつろげます。また、家族の気配が感じられる間仕切りの少ない家も、安心感が増し、くつろげます。照明、収納、空気の流れ……どんなものにもひとつ手を加え、薪ストーブを主暖房に取り入れた快適に使いやすく心地よい住まいづくりを進めたいと考えています。
- 対応エリア
- 道北、旭川市、留萌市、士別市、名寄市、富良野市、道北その他

