積雪寒冷地である北海道では、生活の中で使うエネルギーの半分以上を暖房に費やしています。昨今の電気代やガス代の高騰を目の当たりにして、暖房の熱源や設備の選択に悩んでいる人も多いのではないでしょうか。先々に後悔しないよう、まずは電気・ガス・灯油、それぞれの特徴や暖房機器の種類、目指す暮らしに適した使い方を知ることをおすすめします。


電気・ガス・灯油。熱源によって変わるメリットとデメリット

【電気】火災の心配がなく、災害時の復旧が迅速な電気

電気は、熱エネルギーを燃焼せずに生み出せるため、火災ややけどなどの心配がない安全性の高さが大きな特徴。近年は1の電気エネルギーに対し、2~3倍の熱エネルギーを生み出せるヒートポンプで省エネ性を高めた暖冷房エアコンやボイラーが普及し、暮らしにより身近な暖房エネルギーになりました。また、北海道の隅々まで送電網が張り巡らされているため、搬送や配管の必要がありません。そのため、インフラの整っていない地域でも採用しやすいのも大きな特徴です。

【プロパンガス(LPガス)と都市ガス】地域性を選ばないプロパンガス(LPガス)と配管で供給される都市ガス

ガスには、地中に埋設されたガス管によって供給される「都市ガス」と、家の敷地内に設置したボンベから供給される「プロパンガス」の2種類があります。供給所から直接ガス管を通じて住まいに供給される都市ガスは、ガス切れやボンベの設置場所の心配はありません。しかし、ガス管が既に設置されているエリア、主に都市部での利用に限られています。一方、プロパンガスは供給エリアや販売価格が限定されないため、選択の自由度が高いのが魅力です。立地条件によって、ボンベの容量も選ぶことができます。しかし、積雪寒冷地である北海道の場合、ボンベの冬の配達効率が下がり、運搬費に影響が出る場合もあります。

【石油】石油は北海道の暮らしに身近で頼れる存在

北海道は1次エネルギー総供給の半分以上を石油が占め、国内でも灯油依存度が高い地域といわれてきました。調達・運搬の容易さ、取り扱い・保存・備蓄のしやすさがその背景にあります。また、単価がほかのエネルギーに比べて経済的ということも長年、灯油需要を支えてきました。北海道の隅々に行き渡る灯油は、昔も今も雪国の暮らしには欠かせないエネルギーです。コンセント不要のポータブル式石油ストーブは、災害でライフラインが止まってしまったときにも使えるため、防災用品の一つとして常備する家庭も増えています。

【薪・ペレット】自然の温もりに心も和む、薪・ペレット等の持続可能エネルギー

おが粉や端材などを再利用した木質ペレットは、FF式ストーブと同じように手軽に扱えるのに、炎が眺められるのが魅力。大型ホームセンターなどで簡単に入手でき、室内の納戸などに保管できるのが、薪との大きな違いです。より本格的に炎のある暮らしを楽しみたいという人に根強い人気があるのが薪です。2009年に発表された東北大学の研究によると、薪ストーブ1台を使うことで、ハイブリッド車5台分、太陽光発電パネル36畳分のCO2削減ができるといわれています。木質ペレットや薪は、温室効果ガスとなるCO2 を増やさない再生可能エネルギーとして今後、さらに注目される熱源です。

北海道の暖房方式の種類は?セントラルヒーティングが主流?

【セントラルヒーティング】新築住宅の7~8割に採用

ガスや灯油、電気などを熱源にするボイラーでつくった温水を各部屋に設置したパネルヒーターに送り込み、住まい全体をまんべんなく暖める「セントラルヒーティング」。全館集中暖房、中央暖房とも呼ばれるこの暖房方式は、ヨーロッパ生まれ。ファンで暖かな空気を対流させる暖房とは異なり、パネルヒーターの輻射熱で壁や天井、床を温めるのが特徴です。

24時間運転することで建物全体が暖まり、ホコリが舞うこともなく衛生的な室内環境を保てます。少ないエネルギーで24時間連続してゆっくり暖め続けるため、エネルギー消費が少なく、省エネ効果も抜群。室内の温度差が招くヒートショックの心配もありません。

また、火災ややけどの危険性が低く、空気が乾燥しにくいのも特徴。熱源を選ばず、ボイラー更新時期に熱源の切り替えも可能なので、将来のエネルギー事情、環境変化にも柔軟に対応できます。ほかの暖房設と比べ設置費用はかかりますが、こうした利点から現在、北海道の新築戸建ての7~8割にセントラルヒーティングが採用されています。

【ストーブとファンヒーター】必要な場所だけ素早く暖められ、災害時にも使える

北海道の冬を古くから暖め続けてきたのが、灯油ストーブ。家全体を暖めるセントラルヒーティングとは対照的に、ストーブは設置された空間のみを集中的に暖めます。昔は煙突式が主流でしたが、現在は屋外のタンクから灯油が自動的に補充され、給排気管を通して排ガスを室外に放出するFF式が主流。

FF式ストーブには、燃焼によって暖めた空気を対流させる「温風タイプ」のファンヒーターと、輻射熱で床や壁、天井を暖める「輻射式」の2種類があります。近年、住宅性能の向上によって、FF式ストーブ1台で家全体の暖房を賄えるケースも。セントラルヒーティングに比べて設備費用が抑えられるというメリットもあります。

このほか、電源不要で持ち運びができるポータブル型は、灯油があれば採暖と煮炊きができることから、災害時の備えとして近年再注目されています。これらの暖房機器は暖まるスピードは速い一方、火災ややけど、一酸化炭素中毒などのリスクもあります。灯油は国際情勢の変化で価格変動が起きやすいことも、考慮しなくてはいけません。

【寒冷地用エアコン】高性能住宅と相性が良く、安全性と操作性に優れる

低炭素社会の実現に向け、住まいの省エネ化が求められる今、注目されているのがヒートポンプを採用した寒冷地用エアコン。かつて北海道ではエアコンは贅沢品といわれていましたが、ヒートポンプの採用や器機の性能向上と住まいの高断熱・高気密化が進んだことで、エアコンは北海道の暖房の選択肢の一つになりました。

ZEH住宅の普及とともに、太陽光パネルや蓄電池を採用した創エネの住まいも増えています。エアコンを主暖房にすることで、太陽光で発電した電気を無駄なく生かすことが可能です。

また、省エネ性だけではなく、10年間メンテナンスフリーの機種や1基の室外機で3台のエアコンを稼働させられる寒冷地用「マルチエアコン」なども登場。床下や壁、天井などに設置できるため、空間プランの制約がなくなることも大きな魅力です。1台の寒冷地用エアコンと換気設備を組み合わせた全館空調で、通年で健康的で快適な室内環境を実現している住宅も増えています。

【床暖房】足元から部屋全体へ。やわらかな温もりが素足に心地よい

電熱線ヒーターパネルや温水で床下から暖める「床暖房」は、足元から伝導熱でじんわりと温めていくため、足がヒヤッとすることがなく、冬も素足で過ごせるので快適。低めの温度設定でも、部屋全体がムラなく暖められます。また、掃除やメンテナンスの手間もわずかで、エアコンやファンヒーターのような温風が出ないので、空気の乾燥もありません。

小さなお子さんがいる場合でも高温にならないため、やけどの心配もありません。玄関やシューズクローゼットの土間に床暖房を設置しておけば、雪遊びで濡れた上着や靴も良く乾き、玄関まわりもポカポカに。

メリットの多い床暖房ですが、その分ストーブやエアコンに比べると初期費用や光熱費は割高。また、伝導熱と輻射熱で床と空間を暖めるため、部屋全体が暖まるまでに時間がかかります。窓まわりの断熱・気密性が低い場合は、窓から伝わる冷気流を防げないことも。温水式の場合は、不凍液の補充などの定期的なメンテナンスも必要になります。

【薪ストーブ】冬の暮らしに安らぎと楽しさをもたらす、温かさと頼もしさ

家の中にいるのに、陽射しに包まれているような心地よさを体感できるのが、薪ストーブの良さ。薪火が放つ熱は天井や床、壁に蓄積され、時間をかけて放出されます。このような熱の伝わり方を「輻射」と呼び、体が芯から温まるという特徴を持っています。

電気もガスも使わずに採暖ができ、機種によっては湯沸かしや調理も可能なことから、東北・北海道の震災を機に、ライフラインの一つとしても注目されるようになりました。ガラス越しに見える炎の美しさに惹かれて、採用を決めたという人も少なくありません。

冬の暮らしにさまざまな楽しみと安心をもたらす半面、定期的な煙突のメンテナンスや薪の準備が必要です。採用にあたっては、薪ストーブ本体や煙突の購入費用に加え、設置費用も別途用意しなくてはいけません。また、ストーブまわりを不燃材料で整える必要があり、新築のプランやコストにも大きく関わってきます。このため、時間と予算にゆとりをもって準備することが大切です。

住宅の性能や間取りによって大きく変わる暖房効率

暖房の省エネ化は住まいの性能向上から

省エネ性やCO2 削減のために、多くの選択肢から選んだ熱源や設備で最大限にその効果を得るためには、断熱や気密をはじめとした住宅性能にもしっかりと目を向けることが大切です。加えて、換気や室内の空気の流れでも暖房効率は大きく変わってくるため、換気システムと空間設計のマッチングも大きなポイントになります。

省エネな住まいとは、単純にスペックを上げて年中均一な環境をつくりだすことではありません。我慢せずに快適な室内環境が維持できる性能を備えたうえで、季節の環境変化も感じられることが重要です。

それを実現する一つの方法として、自然の光や風を空間づくりに生かす「パッシブデザイン」という考え方があります。夏は長い庇がつくる陰、外の風が気持ちいい、冬は窓から差し込む陽射しが暖かい。そうした外部環境の変化、季節の移ろいを楽しめる住まいを実現することが居心地の良さを生み出し、結果的にランニングコストを下げることにもつながります。

北海道らしい住まいと暮らしを実現できる暖房選びとは?

家を建てるとき、誰もがこれからの暮らしを思い浮かべ、理想の空間を脳裏に描くことでしょう。例えば、豊かな緑や眺望に恵まれた土地ならば、季節で移ろう彩りの変化を感じられるよう、内と外とのつながりを大切にした住まいにしたい。また、昼はたくさんの自然光、夜には月明かりを招き入れるハイサイドライトを設えた吹き抜けを設け、開放的な空間で暮らしたい。そんな理想の北海道暮らしの実現には、暖房選びによる空間の豊かさが大きく影響します。

また、広い北海道ではエリアによって気温や積雪量が大きく異なります。自分が暮らすエリアの特性を知って、住宅と暖房の組み合わせを考えることも重要です。北海道で新築を検討中の人や、北海道への移住を考えている人も、間取りや空間デザインと一緒に暖房設備もじっくりと検討することをおすすめします。

共働き、リモートワークなど働き方も考慮に入れた暖房計画を

おうち時間が増えたことで、昨今、家族団らんの時間をもっと楽しめる暖房を取り入れたいと、薪ストーブに注目が集まっています。しかし、その一方で共働きのお宅が増え、平日の昼は家に誰もいないということが普通になりました。ただでさえ慌ただしい平日の夕刻、薪ストーブに火を入れなければいけないのは心身の大きな負担になるでしょう。

例えば、メイン暖房をセントラルヒーティングで賄いながら、薪ストーブの炎と温もりは暮らしの楽しみとしてプラスするといった方法もあります。セントラルヒーティングとの併用で、薪ストーブは冬の家族団らんを豊かに彩るツールのひとつに。休日に薪を準備する、火を入れる。そんな手間も、家族の時間を潤してくれるでしょう。

電気やガスを熱源とする暖房設備の進化もめざましく、スマートフォンで操作できる器機、タイマー設定で生活時間に合わせて稼働させられる器機など、多彩にそろっています。家族の毎日に便利でちょうどいい暖房設備を選ぶことも、忙しい毎日にゆとりと安心をもたらしてくれます。

家族の暮らしにジャストフィット!それぞれの「暖房の正解」を住宅事例で紹介

【シノザキ建築事務所】
自然の恵みを生かしきり機能性と美しさを両立させた家

「暖かく、庭と薪ストーブのある暮らしが楽しめる家を建てたい」と、Hさん夫妻はシノザキ建築事務所に新築を依頼。シノザキ建築事務所は、冬は薪ストーブなどの輻射熱、夏は床下の冷気を換気装置で家中に巡らせる「ラディアント・サーキュレーション・システム」の採用を提案しました。

2021年、クルミの無垢材、屋久島地杉、札幌軟石など、上質な自然素材をふんだんに用いた新居が完成。初めて迎えた冬は薪ストーブ1台で家の隅々まで暖か。「賃貸暮らしのときと比べて倍以上広いのに、厳冬期の光熱費は変わりません。夏もエアコン要らずの涼しさ。ラディアント・サーキュレーション・システムのすごさを体感できました」とHさんは話してくれました。

自然の恵みを生かしきり機能性と美しさを両立させた家
札幌市・Hさん宅 夫婦40・30代、子ども4人

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【創樹】
一緒につくり上げた唯一無二のデザインと高性能な北方型住宅

半平屋にしたいというHさんの希望を反映し、完成したのは開放的な吹き抜け空間が主役の住まいです。「私たちが最も重視したのは生活のしやすさ。将来的には1階だけで暮らせるよう、寝室は1階に。共働きのため、家事効率が上がる回遊動線を希望しました」と、奥さんは話します。

暖房には北方型住宅の基準を満たす高断熱・高気密の性能を生かし、寒冷地用エアコン1台で全館暖冷房空調を実現するYUCACOシステムを採用。その暖かさを体感したHさんは「光熱費も思ったより抑えられそうです」と話します。「創樹と一緒に家をつくり上げたことで、こうしたい!と伝えたことはすべて叶えられ大満足です」と、ご夫妻は笑顔で語ってくれました。

一緒につくり上げた唯一無二のデザインと高性能な北方型住宅
旭川市・Hさん宅 夫婦30代、子ども2人

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【芦野組】
主役は薪ストーブ。炎と木の温もりに包まれた居心地のいい住まい

玄関土間からそのままつながるLDK、頭上には屋根なりのリブ天井まで延びる高い吹き抜け。Yさんの住まいは、木を生かした開放的な空間が印象的です。その中心には、ご夫妻が「体の芯から温まる薪火にひかれ、どうしても採用したかった」という、ドブレの薪ストーブが設置されています。

芦野組は、薪ストーブの熱が家全体に行き渡るよう、建具を最小限にした空間プランを提案。さらに、補助暖房として寒冷地用エアコン、土間にはガスセントラルの床暖房も設置しました。省エネ基準をクリアする高い住宅性能を備えた新居は、2LDKの旧居と比べ、光熱費が安く感じられるといいます。「本格的に薪ストーブが稼働したら、どのくらい光熱費が違ってくるのか期待しています」。

主役は薪ストーブ。炎と木の温もりに包まれた居心地のいい住まい
旭川市・Yさん宅 夫婦30代

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【キクザワ】
機能もデザインも手を抜かない遊び心満点のZEH住宅

札幌転勤を機に「落ち着いた生活をしたい」と、北広島市に宅地を購入したSさんご夫妻。以前から、暖房や給湯など住まいで消費するエネルギーを太陽光発電で賄うZEHに興味を持っていたSさんは、既にZEHに積極的に取り組んでいたキクザワに、新築を依頼しました。「光熱費は抑えたいけれど、機能だけに特化せず、デザイン性も大切にしたい」という希望も、キクザワは最適な形で実現。冬の暮らしの楽しみとして提案された薪ストーブも、補助暖房として採用しました。

入居後「太陽光発電の売電が上回り、光熱費の収支がプラスになる月も多かったんです」。そう語るSさんは、太陽の恵みを生かした快適な日々の暮らしに加え、光熱費の節約も楽しみになりました。

機能もデザインも手を抜かない遊び心満点のZEH住宅
北広島市・Sさん宅 夫婦30代、子ども2人

▶︎事例の詳細はこちらから「機能もデザインも手を抜かない遊び心満点のZEH住宅」

北海道の暖房がさらによく分かるこの記事にも注目!

最適な組み合わせを見つけよう!薪ストーブと温水パネルヒーターで快適な冬を

冬の暮らしをより快活にする暖房計画のポイントや薪ストーブとパネルヒーターの組み合わせの利点などにフォーカス。ピーエス株式会社の企画開発・営業リーダーの弘田七重さんに、空気環境・温熱環境のプロとしての立場からお話しいただいています。
 
▶︎記事はこちらから「最適な組み合わせを見つけよう!薪ストーブと温水パネルヒーターで快適な冬を」

前真之のいごこちの科学 vol.017/採暖をもう一度科学する

「北海道・寒冷地の住宅実例から考える室内環境について」をテーマに、断熱、開口部、蓄熱など、さまざまな視点から寒冷地における室内環境の改善ポイントを、独自の視点から住宅性能研究の最前線を開いている、東京大学の気鋭の研究者・前 真之准教授に解説していだきました。
 
▶︎記事はこちらから「前真之のいごこちの科学 vol.017/採暖をもう一度科学する」


 
電気、都市ガス、プロパンガス、灯油とさまざまな熱源によって支えられている北海道の冬の暮らし。「暖房」とひと口にいっても、地域性や暮らし方によって熱源や設備選びの条件は変わります。また、設備によっては後から施工するとコストが高くなる場合もあります。新築時の初期費用や設備のスペックにとらわれ過ぎず、入居後のメンテナンスや耐用年数、設備更新など、長期的な視野でトータルコストを考えることも大切です。望む暮らし方にジャストフィットする「暖房の正解」を見つけるためにも、家づくりと一緒に検討してみてください。

(文/Replan編集部)