すぎのいえ書房

公開日:2025.10.21 最終更新日時:2025.10.2

Replanが取材した、北海道・東北の素敵な住まいづくりの話をご紹介します。 (株)アトリエマルム / 福島県いわき市・Wさん宅 夫婦50代

この秋、いわき市南東部の住宅地に、小さな書店がオープンしました。 その名も「すぎのいえ書房」。 実はこの店舗は、築18年の家の車庫をリフォームしてつくられたもの。趣を増したスギ板の外壁や 庭の草木の成長に、歳月の流れを感じることができます。住人の新たな決断を優しく受け止め、ともに新しい一歩を踏み出したこの家を、再び訪ねました。

新築から18年の月日を重ねた「すぎのいえ」に
新たに生まれた「書店」という居場所

Wさんご夫妻が暮らす「すぎのいえ」は2007年に、アトリエマルムの佐藤 大さんの設計で建てられました。それから18年。久しぶりに同社を訪ねたWさんは、佐藤さんに「車庫で書店を開きたい」と告げます。

リノベーション前のWさんの家の外観
リノベーション前のWさんの家の外観

閑静な住宅地の中で、大きな三角屋根やスギ板の黒と植栽の緑のコントラストが目を引くファサード
全体の雰囲気はそのままに車庫を書店へリノベーション。閑静な住宅地の中で、ファサードの大きな三角屋根やスギ板の黒と植栽の緑のコントラストが目を引く

愛猫の死をきっかけにエッセイを出版したWさんは、改めて本が1冊ごとに個性を持って世界を広げてくれる存在であることに気づき、「本屋の仕事をしたいと思った」と話します。

とはいえ、あまり予算をかけずに最小限のリフォームにとどめたいという希望もあり、書棚などはWさんがDIY。佐藤さんは空間の使い方のアドバイスや、住宅とつながっていた吹き抜けや店舗入り口の扉の設置などを請け負いました。

趣きある佇まいに仕上がった店内には、たくさんの古本や新刊本のほか、Wさんのバイクやカメラなどのコレクションをディスプレイしています。

リノベーション前の車庫の様子
リノベーション前の車庫内の様子

車庫の扉のレールを活かし、新たに店舗の扉として、フレキシブルに開閉できる全面ガラスの3枚引き戸を組み込んだ
車庫の扉のレールを活かし、新たに店舗の扉として、フレキシブルに開閉できる全面ガラスの3枚引き戸を組み込んだ
店内はどこかノスタルジックで落ち着きがあり、開店したばかりとは思えない心地よさに満ちている
店内はどこかノスタルジックで落ち着きがあり、開店したばかりとは思えない心地よさに満ちている

「近所の方が散歩帰りに立ち寄るような店にしたい」と、テーブルと椅子を置いて、コーヒーなども提供。18年の歳月で生い茂った、店先のモッコウバラや店の奥に見える庭の木々が、新しい店にこなれた雰囲気と落ち着きをもたらします。

「18年前、私たち夫婦の趣味や暮らしぶりなどを佐藤さんに深く理解していただき、この家が完成しました。今回書店開業という大きな人生の転換が叶ったのも、この家で暮らしてきた日々と建物の包容力があったからこそだと思っています」とWさん。懐の深い住まいが、新たな挑戦の日々にも優しく寄り添っています。

Wさんが作業をするカウンターの壁には、かつて吹き抜けの床材だった格子のパネルを再利用した
Wさんが作業をするカウンターの壁には、かつて吹き抜けの床材だった格子のパネルを再利用した
コーヒーを入れるのも趣味のWさん。本格的なカフェメニューではなく、本を選ぶ間にほっとひと息つくお供として、コーヒーなどを提供している
コーヒーを入れるのも趣味のWさん。本格的なカフェメニューではなく、本を選ぶ間にほっとひと息つくお供として、コーヒーなどを提供している
「本にはそれぞれ個性があり、世界を広げてくれます。本と出合い、本を通して人と出会う。そんな場所にできたら」と、Wさんは新しい場づくりに期待を込めている
「本にはそれぞれ個性があり、世界を広げてくれます。本と出合い、本を通して人と出会う。そんな場所にできたら」と、Wさんは新しい場づくりに期待を込めている

設計者より

「車庫を書店にしたい」という話を聞いたとき、実はそれほど驚きませんでした。むしろ「Wさんならそういうこともあるかな」と感じました。そして久しぶりにこの家を訪ね、ご夫妻がこの家で丁寧に暮らし、良い具合に年月を重ねてきたことを目の当たりにして、嬉しく思いました。

庭から書店のほうを望む。新築後に植えた草木は、18年経って心地よい木陰をつくるまでに育った
庭から書店のほうを望む。新築後に植えた草木は、18年経って心地よい木陰をつくるまでに育った

もともと車庫は車やバイクの手入れをする目的で広さにゆとりを持って設計していて、Wさんの希望する小さなカフェスペースのある書店には十分な面積でした。

今回のリフォームでは、寝室から車庫が見えるようにと設けていた吹き抜けをふさぎ、カフェ用の水まわりを整え、店舗入り口の扉を新設するなど、部分的な工事にとどめました。書棚やテーブルなどほとんどの什器は、Wさんのセルフビルドです。完成してみると、書店であることが当たり前のような空間に思えるから不思議です。

雑誌を飾っている格子のパネルも、かつて吹き抜け部分に使っていた床材をリメイクしたもの
雑誌を飾っている格子のパネルも、かつて吹き抜け部分に使っていた床材をリメイクしたもの
書棚の周囲には、そこここにWさんのコレクション(非売品)が飾られていて、空間の世界観を形づくっている
書棚の周囲には、そこここにWさんのコレクション(非売品)が飾られていて、空間の世界観を形づくっている

住宅は竣工時が完成ではありません。自然素材は年々味わいを増し、施主が手を加えることで愛着も深まります。住む人によって家が育てられる部分も大きいのです。

長く暮らしているとWさんのように、新たな人生の舵を切ることもあるでしょう。愛情を持って育てた家は、そんなときにきっと住まい手に寄り添ってくれるはずです。

これから家づくりを考えている方は、ぜひ「今や将来のご自身やご家族の暮らし」をできるだけ具体的にイメージしてみることをご提案します。そうすることで、自分たちに合った住まいの姿がよりくっきりと見えてくるでしょう。

店内の奥のドアを開け放つと、Wさんご夫妻が時間をかけて丹精した緑豊かな庭とつながる。椅子に腰かけて本を試し読みしたり、Wさんと読書談義に花を咲かせたり、ゆったりとした時間が流れる
店内の奥のドアを開け放つと、Wさんご夫妻が時間をかけて丹精した緑豊かな庭とつながる。椅子に腰かけて本を試し読みしたり、Wさんと読書談義に花を咲かせたり、ゆったりとした時間が流れる

DATA
家族構成:夫婦50代
延床面積:183.74㎡(約55坪)
敷地面積:322.50㎡(約97坪)
竣  工:平成19年2月
設計・施工:(株)Atelier Malm
構造形式:在来工法

<主な外部仕上げ>
屋根:ガルバリウム鋼板瓦棒葺
外壁:スギ板木材保護塗料塗

<主な内部仕上げ>
天井:漆喰塗・スギ不燃羽目板
壁 :漆喰塗
床 :スギフローリング

すぎのいえ書房  https://suginoie-shobo.com

会社情報
社名 株式会社 Atelier Malm
URL https://malm.co.jp
Replan SUMAIナビ https://www.sumai-navi.jp/companies/d10143

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