すぎのいえ書房
Replanが取材した、北海道・東北の素敵な住まいづくりの話をご紹介します。 (株)アトリエマルム / 福島県いわき市・Wさん宅 夫婦50代
この秋、いわき市南東部の住宅地に、小さな書店がオープンしました。 その名も「すぎのいえ書房」。 実はこの店舗は、築18年の家の車庫をリフォームしてつくられたもの。趣を増したスギ板の外壁や 庭の草木の成長に、歳月の流れを感じることができます。住人の新たな決断を優しく受け止め、ともに新しい一歩を踏み出したこの家を、再び訪ねました。
新築から18年の月日を重ねた「すぎのいえ」に
新たに生まれた「書店」という居場所
Wさんご夫妻が暮らす「すぎのいえ」は2007年に、アトリエマルムの佐藤 大さんの設計で建てられました。それから18年。久しぶりに同社を訪ねたWさんは、佐藤さんに「車庫で書店を開きたい」と告げます。

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愛猫の死をきっかけにエッセイを出版したWさんは、改めて本が1冊ごとに個性を持って世界を広げてくれる存在であることに気づき、「本屋の仕事をしたいと思った」と話します。
とはいえ、あまり予算をかけずに最小限のリフォームにとどめたいという希望もあり、書棚などはWさんがDIY。佐藤さんは空間の使い方のアドバイスや、住宅とつながっていた吹き抜けや店舗入り口の扉の設置などを請け負いました。
趣きある佇まいに仕上がった店内には、たくさんの古本や新刊本のほか、Wさんのバイクやカメラなどのコレクションをディスプレイしています。

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「近所の方が散歩帰りに立ち寄るような店にしたい」と、テーブルと椅子を置いて、コーヒーなども提供。18年の歳月で生い茂った、店先のモッコウバラや店の奥に見える庭の木々が、新しい店にこなれた雰囲気と落ち着きをもたらします。
「18年前、私たち夫婦の趣味や暮らしぶりなどを佐藤さんに深く理解していただき、この家が完成しました。今回書店開業という大きな人生の転換が叶ったのも、この家で暮らしてきた日々と建物の包容力があったからこそだと思っています」とWさん。懐の深い住まいが、新たな挑戦の日々にも優しく寄り添っています。
設計者より
「車庫を書店にしたい」という話を聞いたとき、実はそれほど驚きませんでした。むしろ「Wさんならそういうこともあるかな」と感じました。そして久しぶりにこの家を訪ね、ご夫妻がこの家で丁寧に暮らし、良い具合に年月を重ねてきたことを目の当たりにして、嬉しく思いました。

もともと車庫は車やバイクの手入れをする目的で広さにゆとりを持って設計していて、Wさんの希望する小さなカフェスペースのある書店には十分な面積でした。
今回のリフォームでは、寝室から車庫が見えるようにと設けていた吹き抜けをふさぎ、カフェ用の水まわりを整え、店舗入り口の扉を新設するなど、部分的な工事にとどめました。書棚やテーブルなどほとんどの什器は、Wさんのセルフビルドです。完成してみると、書店であることが当たり前のような空間に思えるから不思議です。
住宅は竣工時が完成ではありません。自然素材は年々味わいを増し、施主が手を加えることで愛着も深まります。住む人によって家が育てられる部分も大きいのです。
長く暮らしているとWさんのように、新たな人生の舵を切ることもあるでしょう。愛情を持って育てた家は、そんなときにきっと住まい手に寄り添ってくれるはずです。
これから家づくりを考えている方は、ぜひ「今や将来のご自身やご家族の暮らし」をできるだけ具体的にイメージしてみることをご提案します。そうすることで、自分たちに合った住まいの姿がよりくっきりと見えてくるでしょう。

DATA
家族構成:夫婦50代
延床面積:183.74㎡(約55坪)
敷地面積:322.50㎡(約97坪)
竣 工:平成19年2月
設計・施工:(株)Atelier Malm
構造形式:在来工法<主な外部仕上げ>
屋根:ガルバリウム鋼板瓦棒葺
外壁:スギ板木材保護塗料塗<主な内部仕上げ>
天井:漆喰塗・スギ不燃羽目板
壁 :漆喰塗
床 :スギフローリングすぎのいえ書房 https://suginoie-shobo.com
- 会社情報
- 社名 株式会社 Atelier Malm
- URL https://malm.co.jp
- Replan SUMAIナビ https://www.sumai-navi.jp/companies/d10143

