いごこちの科学 NEXT ハウス

さらなる省エネ・省CO2が住宅の重要なテーマとなる寒冷地。 本企画は、独自の視点から住宅性能研究の最前線を開いている、東京大学の気鋭の研究者・前 真之准教授に、「いごこちの科学」をテーマに、住まいの快適性能について解き明かしていただきます。 シーズン1に続く第2弾として2015年からは、それまでの連載の発展形「いごこちの科学 NEXT ハウス」としてリニューアル。
「北海道・寒冷地の住宅実例から考える室内環境について」をテーマに、断熱、開口部、蓄熱など、さまざまな視点から寒冷地における室内環境の改善ポイントを解説しています。東京大学大学院工学系研究科 建築学専攻・准教授 前 真之 (まえ・まさゆき)東京大学大学院工学系研究科
建築学専攻・准教授
前 真之 (まえ・まさゆき)


この連載で繰り返し取り上げてきた、住まいの電気代。健康・快適な生活を守りつつ、電気代をリーズナブルな金額に抑えるには、住宅の断熱強化や設備の高効率化が欠かせません。実は今年になって、窓の断熱改修や給湯機の更新に、史上空前の大規模な補助が始まっています。家の寒さと電気代が気になる人は、この大チャンスを逃さず、今すぐ行動を起こしましょう!

最近の電気代はどうなった?

先の冬は、暖房にかかる電気・ガス・石油といったエネルギー価格の高騰が、連日報道されました。寒い冬に暖房を我慢するのは、単に不快なだけでなく、ヒートショックなどの健康被害にもつながりかねません。この連載でも、電気代の値上がりは繰り返し取り上げてきましたが、最近の電気代はどうなっているのでしょうか?

規制料金と自由料金を復習

図1に、3人家族で平均的な、ひと月に351kWh電気を使うガス併用住宅における東京電力の電気代推移を示しました。

図1 東京電力管内における電気代の推移
東京電力の資料をもとに筆者作成

連載36回目でお話ししたように、石炭・天然ガスなど輸入燃料の価格変動を反映した「燃料費調整」により、電気料金は自動的に変動します。この燃料費調整は「規制料金プラン」では上限がある一方で、「自由料金プラン」では上限なしという違いがありました。

1月に電気代はピークに 断熱への関心高まる

昨今の燃料高騰と円安に伴う燃料費調整額の上昇で、電気代は高騰。特に自由料金プランでは先の1月に15,284円と、直近の最安値である2021年1月の8,734円の倍近くも高くなってしまいました。  

図2に、検索サイトで、電気代や関連するトピックがどれだけ検索されたかを示しました。

図2 電気代や省エネに関する検索数の推移(検索数の最大を100とした場合)
GoogleTrendのデータをもとに筆者作成

「電気代」の検索数はもともと、「冷房」や「暖房」が必要な夏や冬に増える傾向がありますが、電気代が急上昇し始めた2022年夏から検索数が顕著に増加。電気代がピークに達した先の1月には昨年冬の3倍以上も検索されており、関心の高まりが如実です。併せて、「断熱」の検索数も今までになく高まっており、多くの人が暖房費削減の対策を熱心に探したことがうかがえます。

電気代が下がると無関心に

しかし、2023年2月から激変緩和措置による電気代補助が始まり、燃料価格上昇や円安も一服。さらに5月から再エネ賦課金の引き下げも重なった結果、電気代は急落します。図1で分かるように、直近では2021年とほぼ同レベルにまで低下しているのです。  

電気代が低下する中で、暖房が必要な冬も終わり、最近ではエネルギーコストの話を聞くことがめっきり少なくなりました。図2でも、2月以降の検索数がはっきり急減しています。結局、電気代が安くなれば多くの人は省エネへの関心を失ってしまうのです。

国が電気代値上げを認可

もちろん、電気代の心配が少なくなることはいいことです。問題は、電気代が今後も安いままなのか、ということです。燃料価格の動向はまったく不透明ですし、最近では再び円安基調に戻っています。さらに、5月16日には政府が電力会社からの値上げ申請を認可。この値上げ申請は異例の長期間をかけて慎重に審査されていましたが、ついに多くの電力会社で6月から値上げが始まります。特に、これまで燃料費調整の上限があり割安だった規制料金プランは、大幅な値上げが行われることになります。

目先の電気代に惑わされずしっかりとした対策を

そもそも今の電気代は、激変緩和措置として政府から1kWhあたり7円もの補助が行われていますが、現状では9月から補助額が半減される予定です。前回述べたように、その原資のほとんどは国債。今の世代が少し楽をするために、次世代に大借金を残していいものでしょうか。いずれにしろ、世界が脱炭素に向けて資金の流れを変えている中、化石燃料由来のエネルギー価格は長期的に高騰すると予想されます。目先の電気代に右往左往することなく、効果が持続する「本物の省エネ」への取り組みを継続する努力が今一番求められています。

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