フィンランドの家づくりの祭典ハウジングフェア

公開日:2025.11.7 最終更新日時:2025.11.7

北海道と共通点の多い北欧の国フィンランド。現地滞在スタッフからの情報を交え、豊かなまちづくりのヒントを探ります。

フィンランドのまちづくりや暮らしを知ることで、これから北海道や日本が進む道のヒントを見つけていく連載。今回のテーマは「ハウジングフェア」です。聞き慣れない方も多いかもしれない、フィンランドのまちづくりの仕組みについて、お知らせしていきます。

ハウジングフェアとは?

フィンランドでは新築で戸建住宅を建てることは少なく、古い家を買ってリノベーションすることが多いため、日本のような常設の住宅展示場はありません。その一方、年に一度、戸建ての住宅を見ることができる「ハウジングフェア」という取り組みがあります。ハウジングフェアは、年に一度フィンランド各地で場所を変えながら開催されている大規模な住宅博覧会で、1966年に始まりました。

ハウジングフェアが開催される場所は、単なる展示用の会場ではなく実際に住むことを目的とした住宅地で、モデルハウスも人が暮らすことを前提に建てられます。公園等の周辺施設も同時に整備され、まちとしての機能がある程度備わった状態で公開されます。

フェアの一般公開は夏の約一か月のみで、20〜30棟のモデルハウスは開催終了時点で完売。ほとんどの住宅では、すでに住む家族が決まっており、開催後に「まち」としてすぐに動き始めるのです。

このフェアには建築会社だけでなく、自治体、不動産業者、交通インフラ企業、教育・医療など多様なプレイヤーが関わります。1都市で開催されるため、都市計画と住宅政策が一体化し、「住まい」だけでなく「暮らし」全体を体験・提案する内容となっているのです。特に家を探すユーザー、家を建てたいビルダー、エリア人口を増やしたい自治体の三者にとって大きなメリットがある施策だといえるでしょう。

会場にはインテリアやエクステリアなど住宅に関するブースもあり、新築だけでなく、リノベーションする人の参考にもなることから、国内から多くの人が訪れます。

これまでの開催都市の例

ヴオレス:2012年

フィンランド・タンペレ市の南端、自然豊かな森と湖に囲まれたエリアに位置するヴオレスは、2000年代後半に本格的に開発が始まり、2012年に全国規模のハウジングフェアが開催されたことで大きく注目を集めたニュータウン。ヴオレスはタンペレの人口増加に一役買っている成功事例として、開催から13年が経過した現在でも注目を集めています。

森と湖に囲まれたヴオレスは、「エコロジー」「スマートテクノロジー」「緑地との調和」を重視して設計されました。スマートゴミ回収システムや地中熱利用などのインフラを初期から導入し、持続可能なスマートシティの先駆けとなっています。

ハウジングフェア開催当時は約1,000〜1,500人だった人口が、2025年現在では約8,000人にまで増加。最終的には約14,000人規模の街になる見込み。住宅価格も10年間で20〜30%上昇し、資産価値の高さが街の魅力となっています。

コウヴォラ:2019年

2019年7月12日-8月11日、コウヴォラ市で50回目のハウジングフェアが開催されました。コウヴォラ市はヘルシンキから北西130kmにある、人口約8万人の町です。ここでのハウジングフェアは、ロシア軍駐屯地のレンガ建築などの歴史的建物と自然環境を生かしながら、埋め立て開発として良質な住宅地域へ転換を図るというテーマで行われました。

開催当時の様子をいくつかご紹介。さまざまなスタイルの戸建て住宅が立ち並び、数多くの人が訪れます。当時としては先進的な「準ゼロエネルギー住宅(NZEB: Nearly Zero Energy Building)」仕様の研究がなされており、特にエネルギー性能・ライフサイクルコスト・建設コスト・炭素排出量という観点で分析が行われていました。

ソフトの面はというと、展示されている住宅には必ずと言っていいほどサウナが併設されています。庭に置くことのできるサウナ小屋も展示されていました。インテリアやエクステリアの展示も数多く行われているので、住宅購入層でなくともさまざまなアイデアを手に入れることができます。

ハウジングフェア開催にようコウヴォラ市への直接的な好影響については、明言されている文献がありません。同時に、コウヴォラ市は依然として、人口減少や移出超過、地域経済の課題を抱えていると言われています。ハウジングフェアの開催は、求める効果の一つとして、開催地区が新しく高品質住宅地へ転換するという側面があると思われますが、実際にその転換がどれだけ進んでいるか知るためには、住民の定着率などの情報を注視する必要がありそうです。

2025年のハウジングフェアはオウルで開催

2025年の開催地であるオウル市は、ヘルシンキから北に車で6時間ほどかかるエリアに位置し、近年ではテクノロジーと教育の街として注目を集めている都市。今回のフェアでは、次世代型の省エネ住宅やコミュニティの在り方などがテーマになっており、デジタルとリアルが融合したまちづくりの先進事例になることが期待されています。

日本では少子化・人口減により、地方の住宅需要は年々減少。既存の住宅展示場やモデルハウスから集客するビジネスモデルだけでは限界が見えつつあります。そんな中、「街ができる前に暮らしを体感し、そのまま住む」というこのハウジングフェアのモデルは、これからのライフスタイル提案として、地域経済の救世主となるかもしれません。

最新のテクノロジーとこれからの暮らしにフィットした住宅と永続性のあるまちの提案。現地でどんな設計思想や住まい方が提案されたのか、次回の記事でご紹介します。

 

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