イヌエンジュが見守り続けるコートハウスの12年

公開日:2026.1.20 最終更新日時:2026.1.20

10年後、15年後のあなたの暮らしはどんなものになりそうですか?

「家を持ちたい」と思ったとき、今どんな暮らしをしたいかをイメージしながらあれこれと計画を練る楽しみは家づくりの醍醐味です。しかし、その家で過ごす10年後、15年後の暮らしがどんなものになるか、イメージすることは少し難しいかもしれません。

注文住宅を建てたり、リノベーションをして長年住んでいる人の暮らしはどんなものなのか。新築時に思い描いていたとおりなのか、思わぬ変化が訪れているのか。築10年以上のお宅を訪問し、日々の暮らしぶりと年月を経て変わらないこと、変わったことを聞いてみました。これから家づくりを考える人に参考になるお話が、あふれています。


札幌市手稲区の小高い丘に立つ、ATELIER O2の建築家・大杉 崇さんの自邸兼事務所。背後に森を抱き、中庭に立つ一本のイヌエンジュとともに12年の年月を刻んできました。時間とともに移ろう家族の暮らしと、敷地奥の豊かな森。その暮らしは子どもたちやイヌエンジュの成長に呼応しながら、変わらぬ心地よさを保っています。

2012年当時
2025年現在

大杉さんが緑と傾斜に魅せられたという雛壇状の敷地は、30年間手付かずで、1本のイヌエンジュの木に覆われていました。盛土された敷地と道路の約1.6メートルの高低差を生かし、内部は道路から裏山へ進むに従って徐々に森の枝の高さまで視線が上がるようにフロアレベルを構成。建物はガラス張りの屋内空間や屋外空間でつなぎながら4つのボリュームに分け、反時計回りでイヌエンジュを囲むコートハウスとなっています。移動するたびに中庭を通して家族の視線がつながり、気配を感じる暮らしです。  

イヌエンジュの木を囲むようにコの字型で反時計回りに空間が連続していく。経年変化で外壁の木は味わいを増している。当初はさまざまな植物の苗を買ってきていたが、枯れては植えを繰り返した後、今は残った植物が自然と育つようになった

大杉さんが目指したのは「明るすぎない家」。南と西に開かず、北側の開口からやわらかな光を招き入れました。夏の裏山の葉の光、冬は積雪の反射光といった自然がもたらす光を生かした空間は、「直射日光が入りすぎず、木漏れ日が床や階段に落ちる様子が美しいんです」と語ります。この光の計画とともに、トリプルガラス入りサッシを採用するなど、断熱性能も高めた住まいは温熱環境も12年間変わることなく快適。「北側に大きな開口を得ても、冬の暖かさには影響しないことが実証されました」と話します。イヌエンジュの葉や森の木々が日射熱による建物への影響を軽減し、大きな改修を要することなく、窓まわりやバルコニーの塗り直し程度のメンテナンスで健やかに在り続けています。  

リビングから階段を上がった先がダイニング・キッチン。北側に大きな開口を設け、森の緑を存分に室内に取り込んでいる
2012年当時

子どもたちが幼い頃は、夏はテント、冬はイグルーをつくって楽しんでいた庭も、今は春や秋にバーベキューを楽しむ大人の遊び場に。仕切れるように設計した子ども部屋は子どもたちの意向で、現在も一つの部屋のまま使い続けていたり、ダイニング脇の階段が勉強や遊び場といった子どもの成長に合わせた活動の場になるなど、想定外のこともありました。  

ダイニングから階段室越しにリビングを望む。外壁を室内に連続させた階段室が、内と外の境界を曖昧にし、空間の広がりを感じさせる

12年の歳月で、イヌエンジュは大きく太く成長。変わらぬ快適な暮らしと季節の移り変わりを見守り続けます。

当初は仕切る予定でドアと窓を2つずつ用意した子ども部屋は、仕切られることなく12年が経過。家具配置などで互いのエリアをゾーニングしながら快適に過ごしている

● Before・After

変わらないこと。|子ども部屋は「狭くなるからこのままでいい」という子どもたちの希望で、新築時のまま一つの空間として使われています。計画当初は客間を検討しましたが、利用は年に数回程度と判断し、寝床を移動して対応してきました。各部屋の使い方は大きく変わらず、子どもたちが独立した後も、快適な室内環境とともに今の暮らしがそのまま続いていきそうです。

2012年当時
2025年現在|玄関入ってすぐの階段室。コンクリートの土間が蓄熱するため、冬はほんのり暖かく、夏はひんやりと涼しい

変わったこと。|森側のバルコニーは快適な時期ほど虫が多く、当初は洗濯物を干す計画でしたが、室内干しに移行しています。近い将来、ガラスで囲んだり、花火を楽しめるよう屋上へのアクセスをつくるなどを検討中です。新築時はほっそりとしていたイヌエンジュの木は大きく太く成長。庭も子どもたちの遊び場から、バーベキューを楽しむ場所に変化しました。

2012年当時
2025年現在|敷地の裏に広がる森を切り取るピクチャーウィンドウが印象的なリビングは、光を程よく抑え、夏は涼しく、落ち着いた居心地をもたらす。冬は薪ストーブと1階の床下暖房で、室内を快適に暖めてくれる
コートハウスでありながら、周囲に対して固く閉じるのではなく、2階の建物の隙間や屋根の上からイヌエンジュがのぞくように計画した外観

DATA
札幌市手稲区・大杉さん宅
家族構成 夫婦50代・子ども2人
設計 ATELIER O2
施工 葉沢工務店

会社情報
社名 株式会社 ATELIER 02
URL http://atelier-02.com
Replan SUMAIナビ https://www.sumai-navi.jp/companies/d10059

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