「不動産価値ゼロ」からの再生。シャッター通りを奇跡の商店街へ変えた覚悟と戦略【沼垂テラス商店街】

公開日:2026.2.2 最終更新日時:2026.2.2

各地域で魅力的な「まち」を目指す取り組みを紹介。まちの魅力向上をエリアの価値向上につなげるヒントをひも解きます。

かつて市場として栄えたものの、時代の流れとともに活気を失い、一時は「シャッター通り」と呼ばれた場所がありました。新潟市中央区にある「沼垂(ぬったり)テラス商店街」です。

昭和レトロな長屋が並ぶこの場所は、今や新潟県内外から多くの人が訪れる人気のスポットへと変貌を遂げました。なぜ、さびついたシャッター通りは蘇ったのか。その背景には、建物の「ハード面の再生」だけでなく、地域の誇りを取り戻すための泥臭い交渉と、ある一人のリーダーの覚悟がありました。

この再生プロジェクトの中心人物である株式会社テラスオフィス代表の田村さんに、その舞台裏と、地域工務店やまちづくりに関わる人々へのヒントをうかがいました。

活気が消えた故郷への危機感

かつては野菜や魚の卸売市場としてにぎわっていたこのエリア。しかし、田村さんが大学卒業後に実家である飲食店を継ぐために戻ってきた頃には、その景色は一変していました。「戻ってきたら、自分の実家である飲食店も来客が減り、苦しんでいました。自分が小中学校の頃にあった街の活力が全然なくなっているなと、ひしひしと肌で感じました」。

50年以上が経過した建物は、手入れもされず錆が目立ち、まさにバラック建てのような状態。周囲の活気がなければ自分の商売も成り立たないと痛感した田村さんは、まちづくりを学ぶグループに参加し、自ら動くことを決意します。

誰かがやるのを待つのではなく、自ら「買い取る」という決断

当初、田村さんは既存の組合を通じて若い出店者を誘致しようと試みました。しかし、高齢化した組合員や所有者との間では、新しい挑戦に対する管理の不安や権利関係のハードルが高く、話がスムーズに進みません。

そこで田村さんが下した決断は、周囲を驚かせるものでした。「長屋の建物をすべて買い取り、自社で再生・管理する」という選択です。「建物の価値的にはもうゼロで、融資も付きづらい。でも、組合の方たちも高齢化して管理ができないとなる中で、最終的には買い取った方がいいという判断になりました」。

金融機関からは「入居するテナントのリストの提出を」と迫られ、分厚い事業計画書を作成して融資を取り付けました。田村さんは自己資金も投入し、リスクを背負ってプロジェクトをスタートさせます。この「一社で所有する」という形をとったことで、合意形成のスピードが格段に上がり、結果としてスピーディーな決断とエリア全体のコンセプト統一が可能になりました。

「雨漏りだけ直す」引き算のリノベーション

工務店やリノベーションに関わる方にとって興味深いのが、その改修手法です。田村さんは建物を買い取った際、まず屋根の雨漏りを全面的に修繕しました。しかし、内装に関してはあえてつくり込まず、テナントの自由度を優先しました。

そのきっかけとなったのが、初期に入居した家具と染物の店「ISANA」です。彼らは自分たちの手でDIYを行い、見事な空間をつくり上げました。「ISANAさんが建物の古さを生かして、リノベーションをほぼDIYで全部やったんです。それがすごくハマったというか、フラッグシップになりました。皆さんが『ここの雰囲気と造り、いいなあ』と感じて、後に続くお店がそのスタイルを参考にするようになりました」。

つくり込みすぎず、借り手が愛着を持って手を加えられる余白を残す。1店舗あたり10〜15坪という小規模なサイズ感も、個人で開業したい若い世代のニーズに合致しました。結果として、買い取りからわずか1年後にはすべてのスペースが埋まることになります。

「イベント」で人の流れと街の価値を変える

ハード面の整備と並行して力を入れたのが、ソフト面での仕掛けです。田村さんは当初3店舗がオープンした段階で、マルシェ形式のイベントを開催しました。「イベントをやってみたら、思いのほかたくさんの人が来てくださったんです。ただ、車通りが多くて危険を感じたので、翌年には警察や役所に掛け合って通行止めの許可を取り、歩行者天国にしました」。

この「朝市(あさいち)」や「冬市」といった定期的なイベントは、今では多くの来場者を集める名物となっています。イベントで賑わう様子を見た人々が「この場所なら自分も店を出したい」と感じ、新たな出店希望者が現れるという好循環が生まれました。

田村さんは、道路使用許可を取るために市役所と警察署の間を何度も往復し、「どっちが先に許可を出すんだ」というお役所特有の壁も、粘り強い交渉で突破しました。

地域の「誇り」を取り戻すために

現在、田村さんは商店街の枠を超え、周辺地域の空き家や空き店舗を活用して、年に1店舗のペースで新しい店を誘致する活動を続けています。

インタビューの最後、田村さんはこれからまちづくりに取り組む人々へ向けて、次のように語ってくれました。「自分の家族に、自分たちが住んでいるところがすごくいいところだっていうふうな自信を持ってもらいたいなと思うんです。まちづくりをやる人は、まずは自分の街のことを好きになるというか、そこにプライドを持っているんだと思います。外から来た人に『ここはいいところだよ』と胸を張って言えるようにできたらいいんじゃないかなと思っています」。

古くなった建物をただ壊して新築するのではなく、地域の文脈を読み解き、そこにしかない価値を再編集する。そして何より、そこに住む人が「自分の街」に誇りを持つこと。 沼垂テラス商店街の事例は、地域に根ざす工務店が、単なる「建物のつくり手」を超えて「場の仕掛け人」になれる可能性も教えてくれています。

取材協力 株式会社テラスオフィス 写真提供  沼垂テラス商店街
(取材・文:Replan編集部)


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