「小学生のなりたい職業1位を農家にする」。食と農から始まる、「つなぎ役」の可能性
各地域で魅力的な「まち」を目指す取り組みを紹介。まちの魅力向上をエリアの価値向上につなげるヒントをひも解きます。
目次
「農業」と「まちづくり」。一見すると異なる分野のように思えますが、地域を元気にするという点では、その根っこは深くつながっています。
「小学生のなりたい職業1位を農家にする」。そんな大胆かつ夢のあるビジョンを掲げ、大学生時代から起業家として走り続けてきた人物がいます。株式会社AgriInnovationDesign代表の脇坂真吏さんです。
東京・赤坂の「ヒルズマルシェ」をはじめ、都市と農村を繋ぐ数々のプロジェクトを手掛けてきた脇坂さん。現在は北海道東神楽町や訓子府町などで、自治体や地域住民とタッグを組み、廃校活用や地域商社の立ち上げなど、農業の枠を超えた「場のプロデュース」に奔走しています。

今回は、全国の現場を飛び回る脇坂さんに、地域活性化の最前線と、これからの地域工務店がまちづくりにおいて果たすべき「役割」についてお話を伺いました。
「売る」だけではない、マルシェが持つ本来の機能
脇坂さんのキャリアは、東京農業大学在学中に野菜ソムリエの店を立ち上げたことから始まります。当時、実習で訪れた農家の人々が、高い技術を持ちながらも「自分の子どもには継がせたくない」と語る現実に衝撃を受けたことが原点でした。
「誇りと経済的実態の乖離を埋めたい」。その思いから彼が力を入れたのが、都市部でのマルシェの開催です。しかし、脇坂さんはマルシェを単なる直売所とは捉えていません。「マルシェは、都市と農村のコミュニケーションの場であり、コミュニティ形成の装置なんです」。

生産者が直接消費者に想いを伝え、ファンをつくる。その賑わいが街の価値を高める。この仕組みは、実は工務店が地域でイベントを行う際にも大きなヒントになります。単にモノを売るのではなく、その背景にあるストーリーを伝え、人と人を繋ぐこと。それが「場」の熱量を生み出すのです。

「ごちゃ混ぜ」にするよそ者の力
2022年には北海道の東神楽町で、廃校になった小学校を市から借り、リノベーションした複合施設「東神楽大学」を設立。「働く・学ぶ・遊ぶ」をテーマに、コワーキングスペースやシェアキッチンを備えたこの場所は、地域内外の人々が交わる拠点となっています。


脇坂さんが現地に入り込んで行うのは、既存の枠組みを「ごちゃ混ぜ」にすること。
「農家さん、メーカーさん、工務店さん。地域にはいろんなプレイヤーがいるのに、仕事が外を向いていて地域内連携がないのがもったいない。だから僕は、よそ者として地域に入り、いい意味でかき回して、新しい風を入れる役割を担っています」。
地域の中にいると見えなくなる「もったいない」資産を、外からの視点で再編集し、価値に変える。その泥臭いプロセスこそが、真の地方創生には不可欠なのだと脇坂さんは語ります。

工務店は「暮らしのハブ」になれるか
取材の後半では、地域と深く関わるご経験をされている脇坂さんに「地域工務店の可能性」について、思うところをお聞きしてみました。移住や定住が課題となる地方において、家を建てる工務店はどのような役割を果たせるのでしょうか。
「家をつくるプロセスの中で、工務店さんはお客様と長い時間を過ごしますよね。だからこそ、単に『家』という箱を提供するだけでなく、その街での暮らし方や、地域との関係づくりまでサポートできるような気がしています」。

地方への移住において最大のハードルとなるのが、地元住民との「ルールの違い」や人間関係です。脇坂さんは、工務店こそがその「通訳者」となり、新しい住民と地域をつなぐハブになれるのではないかと提案します。
「お金にはならないかもしれないけれど、近所の住民の方とつないであげるとか、そういうお節介が『この街に住んでよかった』という満足感に繋がる。結果として、それが工務店さんの信頼や次の仕事にも返ってくるのではないでしょうか」。
「価値ゼロ」の空き家を宝の山に変える
さらに脇坂さんは、地方の不動産事情についても鋭い指摘を投げかけました。人口減少が進む地域では、不動産価格が下落し、仲介手数料が低すぎるために不動産業者が扱いたがらない「エアポケット」のような物件が多数存在します。
「300万円、500万円といった安い空き家物件は、不動産屋さんも動いてくれません。だからこそ、地域に根ざした工務店さんが、そういった物件を掘り起こして、リノベーションとセットで移住者に提案していく。そんな可能性もあるのではないでしょうか。誰もやっていないけれど、地域にとっては絶対に必要なことです」。

市場価値としては見放された空き家も、まちづくりの視点で見れば「住む人を呼び込む資源」になります。それを「資産」として動かせるのは、地域の建物を守り続けてきた工務店だからこそできることかもしれません。
まちづくりは「自分たちのまちを好きになる」ことから
取材の最後、脇坂さんはこれからの展望について、人口が減る中でも「幸せなまちづくり」のあり方を模索し続けたいと語ってくれました。
「うちの街はここが強い、こういう暮らしができる。そういう『あり方』をしっかりと見つけていくことが、これからの地域には必要です」。
農業支援から始まった脇坂さんの活動は、今や地域の衣食住すべてを巻き込んだ大きなうねりとなっています。 「家」をつくることは、「まち」をつくること。 脇坂さんの言葉は、地域と向き合い続ける工務店に、新しい挑戦への勇気を与えてくれるものでした。


取材協力・写真提供 株式会社AgriInnovationDesign
(取材・文:Replan編集部)
地域工務店の「生存戦略」を探求するビジネス・トークプログラム
「Replanまちづくり大学」配信中!
住宅雑誌Replanがプロデュースする、地域工務店のための「学びの場」が開校。Replan発行人の小林大輔が学長となり、各地で活躍するまちづくりの実践者を客員教授に迎えます。
テーマは、エリアマネジメントからスモールスタートの秘訣まで。単なる事例紹介にとどまらず、工務店が地域で生き残るための「生存戦略」を、対話を通じて体系的に学びます。
未来のまちを自らの手で描きたい、すべての建築人のための大学です。
▼FM軽井沢で番組配信中
https://www.karuizawaradio.university/blog.html
木々の恵みが歳月とともに味わいを増していく、森のビンテージ別荘












