「再開発」とは呼ばない。住民とともに街の風景を育てる「支援型開発」の挑戦【下北線路街】
各地域で魅力的な「まち」を目指す取り組みを紹介。まちの魅力向上をエリアの価値向上につなげるヒントをひもときます。
多くの若者やクリエイターを惹きつけ、独特のカルチャーを育んできた街、下北沢。 小田急線の地下化に伴い、地上に生まれた全長約1.7㎞の線路跡地「下北線路街」が、新しいまちづくりのモデルとして各方面から注目を集めています。


開発を手がけたのは小田急電鉄ですが、彼らが選んだのは、巨大な商業施設をドンと建てる従来の手法ではありませんでした。掲げたテーマは「支援型開発(サーバント・デベロップメント)」。デベロッパーはあくまで「黒子」に徹し、地域住民や個店が主役となる舞台を整えるというアプローチです。
今回は、このプロジェクトをの一員として推進してきた小田急電鉄の立山仁章さんに、地域と企業がどのように対話を重ね、新しいまちの風景をつくり上げたのか、その舞台裏をうかがいました。
デベロッパーは「主役」ではなく「黒子」である
かつて線路だった場所をどう活用するか。当初は駐車場などの計画もありました。しかし、立山さんたちは方針を大きく転換します。

「この場所を単に買い物をして帰るだけの『消費の場』にはしたくないという思いがありました。単なる消費行動の場としての商業施設ではなくて、下北沢に住まわれている方々の暮らし方そのものをデザインしていくような場所にしたいと考えたのです」。

下北沢には、演劇や音楽など自分の好きなことを表現する人々が集まり、互いを緩やかに認め合う土壌があります。そんな街の個性を無視して画一的なビルを建てれば、街の魅力は失われてしまう。そう考えたプロジェクトチームは、あえて「再開発」という言葉を使わず、住民の暮らしをデザインする「支援」に徹することを選びました。

「私たちが主役として箱をつくるのではなく、街にいる一人ひとりが主役になれるように、私たちはその舞台を整える黒子になるという考え方です」。
200回の対話が生んだ「信頼」の土壌
とはいえ、開発当初から地域の理解が得られていたわけではありません。「古いものを壊して、また新しい大きな施設がつくられるのでは」という懸念の声もありました。そこでプロジェクトチームが徹底したのが、地域住民との対話です。
「徹底的に地域住民の方々の声を聞くというスタンスに大きくかじを切って、もう1回全部ゼロから見直そうという取り組みを進めました」。行政が主催する「北沢デザイン会議」や、住民が主体となる会議に積極的に参加し、その数は実に200回にも及んだといいます。


「我々がどういう思いで、どういうプロセスでまちづくりを進めていきたいか。それを少しずつ丁寧にお伝えする時間をいただきました。そうすることで、地域の声も聞いてもらえるんだという雰囲気がつくれるようになったのが大きかったと思います」。
顔を合わせ、言葉を交わす。一見遠回りに見えるこの泥臭いプロセスこそが、事業者と住民の垣根を取り払い、ともに街をつくるパートナーとしての信頼関係を築く鍵でした。

「つくる」までが仕事ではない。運営まで一貫して担う覚悟
工務店や設計者にとって興味深いのが、小田急電鉄の組織体制です。通常、開発と運営は担当部署が分かれることが多いですが、下北線路街では開発チームがそのまま運営にも携わっています。
「建てるのが終わりじゃなくて、そこから地域の方々とのつながりみたいなものを深めて、新しい取り組みを広げていく。開発から運営まで一貫してできる組織体制を作ったからこそ、継続して地域のコミュニケーションが取れています」。
その成果の一つが「シモキタ園藝部」の活動です。植栽管理を外部の植栽管理会社に依頼するのではなく、地域住民主体の団体が緑の手入れを行いながら、コミュニティーを育んでいます。現在では200名を超えるメンバーが参加し、緑の手入れを通じて、世代や職業を超えたコミュニティーを創出しています。

地域の「当たり前」にこそ価値がある
開発によって下北沢だけでなく、隣接する世田谷代田、東北沢といった各駅停車の駅にも新たな人流が生まれたといいます。下北沢方面へ向かうエリアにある、店舗と住居が一体となった新しいスタイルの商業・住宅複合施設 BONUS TRACK(ボーナストラック)は、下北沢らしい楽しみ方を詰め込みつつ、多くの世代が楽しめるような仕掛けでエリアの新たな顔となっています。


東北沢駅と下北沢駅の中間に位置する、個店が集まる商業施設 reload(リロード)は、ターゲット年齢層を少し高めに設定。店主の顔が見える空間づくりとしたことで、ゆとりを持って楽しみたい層の訪問を獲得しています。

インタビューの最後、立山さんはこれからまちづくりに取り組む地域工務店の方々へ向けて、次のようなメッセージをくれました。
「その街の価値をどう見つけ出すか、そのプロセス自体が非常に大切だったのかなと思っています。まずはその街のことを徹底的に調べて、地域の住民の方々よりもこの街のことに詳しくなること。そうすることで、地元の方にとっては当たり前で気づいていない魅力だったり、言葉にできていない思いを丁寧にくみ取れるんじゃないでしょうか」。

いつか新しくつくった施設が、昔からそこにあったかのように街の風景に溶け込んでほしい。そう語る立山さんの言葉は、建物単体ではなく「時間」と「関係性」をデザインすることの重要性を教えてくれます。
街の歴史や個性を深く理解し、そこに住む人たちの思いに寄り添うこと。それは、規模の大小にかかわらず、地域に根ざす工務店だからこそできる「まちづくり」の第一歩なのかもしれません。
取材協力・写真提供 小田急電鉄株式会社 (取材・文:Replan編集部)

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