世界で一番「カッコイイ」木材店が変えた、半径200mの未来。マルカンビル復活から海外進出まで、老舗4代目の地域イノベーション

公開日:2026.7.31 最終更新日時:2026.7.31

各地域で魅力的な「まち」を目指す取り組みを紹介。まちの魅力向上をエリアの価値向上につなげるヒントをひもときます。

地域の未来を文字通り「リノベーション」し、新たな循環を生み出しているリーダーがいます。今回お話をうかがったのは、岩手県花巻市で120年以上の歴史を持つ老舗小友木材店の4代目代表取締役であり、IT企業クラウドサーカス株式会社の取締役も務める小友康広(おとも やすひろ)さん。東京と花巻の2拠点生活を送りながら、名物「マルカンビル大食堂」の復活や、民間主導の「花巻おもちゃ美術館」の設立など、次々と驚きのプロジェクトを成功させてきた小友さんの哲学に迫りました。


IT×木材店:「世界で一番『カッコイイ』木材店」が挑む業界の課題

大学卒業後、東京のITベンチャー企業でデジタルカタログ事業などを立ち上げ、組織を260人規模にまで成長させた実績を持つ小友さん。しかし、入社前から「将来は実家の木材店を継ぐ」という強い決意を持っていました。2014年、4代目代表取締役に就任した際、小友さんが掲げたビジョンは「世界で一番『カッコイイ』木材店を目指そう」というものでした。

小友康広さん

当時、社内の高齢化と木材事業の赤字に悩まされていた木材店を改革するため、小友さんはまず、林業・木材業界が抱える3つの課題「危険」「運搬」「ブランディング」に着目します。「これまでは、今よりも効率化をして大量生産・大量消費のなかでどうにかしようというビジネスばかりでした。しかし私たちは、価格を下げる勝負ではなく、『共感と高付加価値化』で勝負をしていく道を選んだのです」。

車の世界でいえば、トヨタやスズキのような量産型ではなく、フェラーリやランボルギーニのように「高くてもこれが欲しい」と思われる尖ったマーケットの開拓。そのために、前職の強みであるデジタルマーケティングを大胆に移植しました。

150万円を投じて、未経験者にも伝わりやすい求人ウェブサイトを制作。その結果、それまで採用に苦しんでいた地方の小さな木材店に、現在では「2ヶ月に1人は求人の応募が来る」という驚異的な循環が、採用費は0円で実現できたといいます。「ITは効率化のためだけのものと思われがちですが、届くべき人に届けたい情報を届けるのがデジタルマーケティングの本質です」。

社内の情報連絡ツールにはGoogle Workspaceを導入し、SNSの活用を入社条件にするなど、地方にいながらどこからでもセキュアに業務ができる環境を構築。ITの概念を移植することで、老舗木材店の体質は劇的に改善されていきました。

遊休不動産の再生から始まった「まちづくり」とマルカンビルの奇跡

小友さんの「まちづくり」への一歩は、自社が抱えていた駅前の古い遊休ビル(旧自社の事務拠点)の活用から始まりました。

2015年、花巻市役所の勧めで「リノベーションまちづくり」の概念に出会い、先進地である北九州のリノベーションスクールに1週間丸々参加。「建物を変えるのではなく、半径200mのエリアを変える」という視点を学びました。

そして、自社の古いビルを、当時花巻にはなかった「Wi-Fiが無料で使え、コーヒー1杯で長居することもできるチャレンジする大人が集まれるカフェ」やコワーキングスペースへと再生。この第1号物件を皮切りに、わずか5年間で周辺の遊休不動産が6〜7軒も埋まり、エリア一帯に新しい挑戦者が増えるという変化を起こしたのです。

そんな中、2016年に激震が走ります。年間36万人もの人々が訪れていた地元の象徴「マルカン百貨店(大食堂)」の閉店ニュースでした。地元の高校生たちが1万弱の存続署名を集める姿を見た小友さんは、「世界一かっこいい木材店の経営者ならば、ここでやらんかったらすごくかっこ悪い。むしろできたら最高にかっこいいよね」と、経営を引き継ぐ決意を固めます。

しかし、地下1階・地上8階の巨大なビルのリノベーション見積もりは、当初の想定をはるかに超える6億円超。10年での投資回収が不可能な壁にぶつかりました。そこで、小友さんは「本質」に立ち返ります。「要は『大食堂』が残ればいい。全フロアを無理に埋める必要はないと考えを切り替えました。初期投資を2.1億円まで下げ、1階(物販)、6階(大食堂)、そして駐車場だけで運営する事業計画に絞り込んだのです」

廃墟のようなビルの中をエレベーターで上ると、6階だけが大賑わいしている。そんな一見、型破りな「大食堂しかないビル」へのリモデルは見事に成功し、昭和の懐かしい憩いの場は今も花巻の街を支え続けています。

「花巻おもちゃ美術館」民間100%のショールーム投資がもたらす相乗効果

マルカンビルの復活に続き、小友さんが仕掛けたのが、ビル内のワンフロアを活用した「花巻おもちゃ美術館」の設立です。他地域でのおもちゃ美術館の事例を視察した際、ゴールデンウィークに地元のナンバープレートで駐車場が埋め尽くされている光景を見て、「地元の人たちがこれほど求めている空間なら、年間30万人以上が集まるマルカンビルとの相乗効果は絶対にある」と確信したと言います。

当初の試算では、年間500〜700万円の赤字になる見込みでした。普通なら躊躇するところですが、小友さんは「木材店・経営者」としての視点でこれを捉え直しました。「完全民間で『自分たちの本業のショールーム』として考えたらどうだろうか。こんな素敵な空間を作って運営している小友木材店に、空間づくりをお願いしたいという相談がきっと来るはず。社会保険料なしで優秀な営業マンを年間500万円で雇ったと思えば、これは全然安い投資だ、とビジネスに振り切りました」。

結果は予想を大きく超えるものでした。現在では年間7〜8万人の来場者を数え、この実績を見た行政や大手商業施設、地域の温泉宿などから「キッズスペースを丸ごと手がけてほしい」「図書館を建設する際の提案に参加してほしい」といった大型案件の指名相談が次々と舞い込むようになったのです。

さらにこの「木育(もくいく)」の取り組みは国内にとどまらず、花巻市の姉妹都市であるアメリカ・アーカンソー州ホットスプリングス市との取り組みによって、2028年の公共プロジェクトに連動して海外へ日本の木育文化を輸出するプロジェクトにまで発展しています。

「制約を解放する」マネジメントでこれからの地域経営を

現在、26もの事業を展開しているという小友さんですが、「自分はあまりやりたいことがないタイプの人間。主役は周りのメンバー」と笑います。すべての事業に責任者を立て、権限を委譲しています。そのユニークな人材育成の秘訣は、「育てるというよりも、スタッフの『制約を解放する』ことに近い」という言葉に詰まっています。

例えば、前述のアメリカ進出プロジェクトを率いている女性リーダーは、もともと英語教師で、出産を機に時間的制約からアルバイトとして「おもちゃ美術館」のオープニングスタッフに入った方でした。「英語×子ども」が好きという彼女の想いと、偶然訪れた海外の要人との縁が結びついたとき、小友さんは「君がプロジェクトリーダーになって、アメリカに話し合いに行ってきたら?」と、背中を押したそうです。

「(元教師ということもあり)『お金を稼ぐのが怖い、スキルがない』と本人が思っていても、そこに違う価値を見出して、クラウドファンディングなどの挑戦を通じて制約を外していく。『元教師の子どもたちに情報を伝える力と、我々がやっている体験型木育施設の力を組み合わせたら絶対喜んでもらえるよね?それをやるなら君しかいないじゃん!』というきっかけをつくって、体験しながら覚えてもらう。そうやってお互いに協力をすれば、一人では行けない先へ手を伸ばして届くようになるんです」。

偶然やってくるチャンスという名の必然をいつでも掴める軽やかさと、メンバーの可能性を信じて委ねる器の大きさ。これこそが、地方で次々と新しい価値を生み出し続ける小友さんの経営の根底にありました。

素材をつくる「木材店」という川上から、地域の人々が集まる「場」をつくり、さらには文化として海外へ輸出していくという進化のグラデーション。小友さんの取り組みは、これからの地域工務店や住宅会社が、「地域そのものを残し、豊かにしていく存在」へとアップデートするための、非常に大きくてワクワクする羅針盤となるのではないでしょうか。

取材協力・写真提供 小友木材店

(取材・文/Replan編集部)


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