たかが財布、されど財布

熱収支の家計において、蓄熱は「財布」である。余ったお金を入れておいて(吸熱)、後で取り出す(放熱)だけ。蓄熱が熱収支の矛盾を一挙に解決してくれる魔法のような論調も散見されるが、所詮は財布。残念ながら、「熱がどこからか湧いてくる」ことは決してない。家計がピンチになった時に、財布だけを大きくしたところで何の役にも立たないことは誰もが知っている。繰り返しになるが熱収支の改善は、熱取得と熱損失の均衡でしか達成できないのである。

それでは、財布が役に立つのはいつなのか。それは、熱が「余る時」「足りない時」が交互に発生する場合である。つまり、熱取得と熱損失が1日全体では均衡していても、時々刻々の中では釣り合わない「山あり谷あり」の不安定な状態である。日中は大量の日射により熱余りが発生する一方で、夜や明け方には熱不足が発生する。このように住宅の熱収支は、非常に不安定な「構造的欠陥」を抱えている。

財布の力でバブルと氷河期を防止せよ!

ここにいたってようやく、財布である「蓄熱」の真価が生きてくる。概念図のように、熱容量が小さい場合には、日中は蓄熱体に収まらない余分な熱が室内に溢れる過熱状態である「オーバーヒート」が発生する。この「熱のバブル」は強烈で、開口部が大きく熱容量が小さい木造住宅では、冬期といえど室温が40℃近くまで達することはざらである。

「蓄熱は財布」概念図
「蓄熱は財布」概念図

暑すぎる室内からは、外皮からの貫流や換気により熱がどんどん流出してしまう。居住者も黙ってはいられない。日射を遮蔽したり窓を開けたりするなどの防衛アクションを起こしてしまい、熱の流出はますます加速。夕方に日が傾けば、バブルは崩壊して室温は急低下、「氷河期」の夜に突入する。こうして1日全体では熱取得と熱損失が釣り合っているはずなのに、快適でも省エネでもない室内が出来上がってしまう。凍える夜に「あの昼間のバブル熱があれば……」と後悔しても、既に遅しである。

そこに適切な蓄熱容量が室内に設けられれば、日中の過剰な熱を速やかに吸収してバブル発生を防ぎ、夜間に熱放出することで氷河期を乗り越えられるので、室温を終日安定させることが十分に可能となる。化石エネルギーを使わずに快適な温熱環境を形成するためには、こうした蓄熱の力が非常に重要になるのである。

繰り返しになるが蓄熱の機能というのは、余った熱があるときに蓄えて、熱が足りない時に取り出す、というバッファでしかない。余った熱のアテがないまま、蓄熱容量を増やしたところで何の意味もない。この事実を忘れて過剰な期待をもっても裏切られるだけである。

金子建築工業ゼロ・エネルギー・モデルハウス
金子建築工業ゼロ・エネルギー・モデルハウス(岐阜県恵那市)ZETH熱損失係数Q値1.3、相当隙間面積0.7の高い断熱・気密性能を有し、日射取得のために大きめの開口を有する

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