2019年5月、令和の時代になったのを機に、「陸奥ホーム」より社名変更した「mizuiro architects」。設計の際に常に意識しているのは、暑さ寒さをしのげる家であることはもちろんながら、「その人、その家族にとって快適で、ライフスタイルや好みに合っていて、なおかつ『新しい空間』を創造したい、ということです」と、同社の葛西瑞都さんは強調します。

Sさん宅は、ご夫妻とお子さんの3人家族。ご夫妻は、アウトドアに関連する多彩な趣味を持っていました。しかし、敷地は近隣に学校や総合病院が建つ賑やかな住宅地の角地にあるため、道路を行き交う人々の気配や、隣地のアパートの視線を気にせず暮らせる住環境が必要でした。

通りに面したファサードはプライバシー上、窓を設けず、中の間取りもわからないよう配慮されている
通りに面したファサードはプライバシー上、窓を設けず、中の間取りもわからないよう配慮されている

そこでmizuiro architectsが提案したのが、敷地内にできるだけ大きな、守られた外部空間、いわゆる中庭を設けるプランです。それも「内=居住空間」よりも「外=中庭」の方が広いという大胆なものでしたが、それがお二人の嗜好に合致した、価値を提供できるプランとなりました。

引き戸を開けて前室を抜けると目に飛び込んでくる、広々とした中庭。周囲の目線をシャットアウトしたこの空間では、四季折々に多彩なアウトドアレジャーを満喫できます。

引き戸を開けると前室、屋根付きのアプローチを経て玄関へと通じている。造作引き戸には青森ヒバを使用
引き戸を開けると前室、屋根付きのアプローチを経て玄関へと通じている。造作引き戸には青森ヒバを使用
四方を建物や壁で囲まれた中庭。春から秋にはバーベキューや自宅キャンプ、夏にはプール、冬には雪遊びが楽しめる
四方を建物や壁で囲まれた中庭。春から秋にはバーべキューや自宅キャンプ、夏にはプール、冬には雪遊びが楽しめる

一方、居住空間は生活に必要な要素をコンパクトに凝縮。場所を取るソファやダイニングテーブルの代わりに掘りごたつのちゃぶ台を備え付け、開放的なアイランド型キッチンをチョイスするなど、限られた空間でも窮屈に見えない工夫がなされています。

土間玄関から室内を望む。右手には畳スペース、奥にLDKが広がる。暖房は土間蓄熱暖房を採用
土間玄関から室内を望む。右手には畳スペース、奥にLDKが広がる。暖房は土間蓄熱暖房を採用
ご夫妻の好みに合わせ、構造の柱や梁を現しにし、壁に黒板塗料を取り入れるなど、ラフなテイストを盛り込んだ
ご夫妻の好みに合わせ、構造の柱や梁を現しにし、壁に黒板塗料を取り入れるなど、ラフなテイストを盛り込んだ
洗面台の正面にも中庭に向いた窓を配置。普段室内で行われる生活行為が自然に外にあふれていく住まいだ
洗面台の正面にも中庭に向いた窓を配置。普段室内で行われる生活行為が自然に外にあふれていく住まいだ

2階も含め、すべての部屋が中庭に面するように配されており、家の中にいても意識は常に外の中庭に向くように計算されているのも大きなポイントです。

万人受けする家でなくても、住む人にぴったり合った新しい空間を内包する、その人にとって価値のある住まいを創っていきたいというのがmizuiro architectsの想い。そのため、住まい手からのヒアリングには時間を割き、潜在意識の中にある要望まで引き出しながら、理想に叶う住みたい家を一緒に探していくことを大切にしています。Sさん宅は、まさに同社のそうした想いが形となった住まいなのです。

2階ホールからの眺め。黒いアイアンの手すりが空間を引き締めている
2階ホールからの眺め。黒いアイアンの手すりが空間を引き締めている
:前室や外部収納の上部にはテラスが設けられ、積雪時には高低差を活かしてスキーやそり遊びもできる
前室や外部収納の上部にはテラスが設けられ、積雪時には高低差を活かしてスキーやそり遊びもできる

冬は雪に閉ざされ、ネガティブなイメージのある津軽。しかしながら、「雪国だからこそ、あえて外を拒絶せず自然に混ざっていくような住環境を考えることは、数値で表せる性能以上の本質的な快適性につながっていくと思います」。葛西瑞都さんは、津軽で「外を身近に感じられる家」に挑戦する意図を、そのように語ってくれました。