「良いデザインの家」とは、見た目も間取りも、省エネ・省コストにつながる住宅性能も、トータルに考えデザインされた家。Replanでは「美しく暮らす 東北のデザイン住宅2021」の発刊に合わせて、そんな家づくりに取り組む東北の住まいのつくり手の声をお届けしていきます。今回は、青森県藤崎町を拠点に注文住宅を手がけるmizuiro architects 一級建築士事務所の葛西 瑞樹さん・葛西 瑞都さんです。

個と群の立場

住宅には快適に暮らすための性能や、プライベートな心地よい空間が必要です。そしてそれに加え、周辺の環境や地域とつながるための「すき間」を持ち合わせていることも必要だと考えています。

プライバシーを重視する現代の傾向に相反するように思われるかもしれませんが、そのような二面性を持った住宅は「個」としての建築の役割を超えて、「群」として地域の環境や風景を形成する重要な要素となります。手がけた建築が建主さんと地域の住民の方々の双方にとって豊かな存在であるように、その場所にどのような仕組みがあり得るのか、いつも新しい可能性を考えながら仕事に取り組んでいます。

南側から敷地を見る。左に平屋の住宅、右にカーポートと物置があり、それらを屋外通路がつなぐ
地域に大きく開いて計画した「福島の家」。左に平屋の住宅、右にカーポートと物置があり、それらを屋外通路がつなぐ

地域に開かれた環境

「福島の家」は西に岩木山、東に八甲田山の美しい風景を望むことのできる、津軽平野ののどかな住宅地の中にあります。2面で接道する角地で陽当たりも見通しも良い場所のため、建主さんはもちろん地域の住民の方々にとっても良い環境になるような建築をつくりたいと思いました。  

敷地は115坪ほどあり、東西方向に35mもの長さがあります。建主さんから求められたものは平屋の住宅、カーポート、物置でした。それら3つをひとまとまりに配置すると、敷地のスケールに対して建築がぽつんと建つ形で大きな空地が生じます。そこで各建物を敷地全体に分散させて配置し、建築と外部空間が一体となった魅力的な住まいをつくることとしました。 

住宅の東側外観。大きな門の奥にテラスが続く。公的な性格の庭に対し、門が距離感を調節する役割を果たす
住宅の東側外観。大きな門の奥にテラスが続く。公的な性格の庭に対し、門が距離感を調節する役割を果たす
建物の高さをできる限り低く抑えているため、縁どられた空が近くに感じられる
建物の高さをできる限り低く抑えているため、縁どられた空が近くに感じられる
キッチンからリビング方向を見る。テラスを挟んで右側は寝室棟で、つかず離れずの距離感を持たせている
キッチンからリビング方向を見る。テラスを挟んで右側は寝室棟で、つかず離れずの距離感を持たせている
リビングから寝室棟方向を見る。天井は2.2mと低く抑えつつ、大きな開口で水平方向の広がりが感じられる
リビングから寝室棟方向を見る。天井は2.2mと低く抑えつつ、大きな開口で水平方向の広がりが感じられる
縁側のような雰囲気を持つ長い廊下。天井までの開口が内と外をつなぐ
縁側のような雰囲気を持つ長い廊下。天井までの開口が内と外をつなぐ

平屋の住宅を敷地の西端に、カーポートと物置を東端に配置し、それぞれを屋根のある屋外通路で結びました。ご家族が出かけるときには、季節の移ろいや植物の変化、新鮮な風を気持ちよく感じながら、敷地の端から端まで歩きます。外部空間は公園のようにオープンな庭にしました。近所に暮らすお子さんの友だちが気軽に遊びに来て集う場になるといいなと願っています。

中庭から門の方向を望む
建物を2分割するテラスは内から外へと次第に開いて、門の先に公園のような庭が広がる
敷地内を横断する13mの屋根付きの屋外通路。庭に遊びに来た人の陽除けとしても使われる
敷地内を横断する13mの屋根付きの屋外通路。庭に遊びに来た人の陽除けとしても使われる
モルタル掃き付け仕上げの小さな物置。道路からの視線の緩衝にもなっている
モルタル掃き付け仕上げの小さな物置。道路からの視線の緩衝にもなっている

■建築DATA
青森県藤崎町・Kさん宅 
家族構成/夫婦40代、子ども3人
構造規模/木造・平屋建て 
延床面積/167.19㎡(約50坪)

設計/(株)mizuiro architects 一級建築士事務所 葛西 瑞樹、葛西 瑞都
施工/(株)mizuiro architects 一級建築士事務所

撮影/今井 聡

\2021/6/16発売!「美しく暮らす 東北のデザイン住宅2021」/

東北で活躍する建築家や建築会社によるデザイン性の高い住宅実例集のほか、東北6県で活躍する建築家6組に、大きく変化しつつある「今とこれからの住まい」についてインタビューした巻頭特集や、古いれんが倉庫をリノベーションして生まれ変わった「弘前れんが倉庫美術館」の取材ルポなど、住宅や建築を多面的に捉えたコンテンツで、家づくりの参考になる住宅のデザインを提案。住宅実例も多数掲載!

東北の書店にて発売中!
〈インターネット購入〉Replan webサイト AmazonFujisanマガジン
※インターネット購入・方法についての詳細はこちらからご確認ください

————————————————

★YouTubeで座談会を視聴できます!★
今回は特別企画として、巻頭特集でインタビューした建築家たちによるオンライン座談会を開催。特集で語ったことや建築家として考えていることなど、普段聞けない話が盛りだくさんです!ぜひ併せてご視聴ください。