世界中で最も北にある
通年操業のレンガ工場

札幌市に隣接する江別市野幌地区は、原料となる粘土と山砂に恵まれ、明治期からレンガづくりが盛んに行われてきました。1950年代の最盛期には18社の工場が点在し、北海道の建築・街づくりを支えてきたといいます。

80年前の創業時に4万個のレンガを用いて建設された煙突は、米澤煉瓦のシンボル的存在。レンガ生産が盛んだったころは、こうした煙突が林のように並んでいたという
80年前の創業時に4万個のレンガを用いて建設された煙突は、米澤煉瓦のシンボル的存在。レンガ生産が盛んだったころは、こうした煙突が林のように並んでいたという
創業時からの歳月を重ね、豊かな表情に満ちたレンガ壁。経年変化を目の当たりにできるのも、米澤煉瓦ならではの魅力
創業からの歳月を重ね、豊かな表情に満ちたレンガ壁。経年変化を目の当たりにできるのも、米澤煉瓦ならではの魅力

元野幌にある創業80年の米澤煉瓦は、今もその伝統と技術を受け継ぎ、レンガづくりを行っています。「1960年代には生産の自動化を行い、通年操業を始めました。寒さの厳しい地域で通年操業を実現した点が評価され、1980年代ぐらいまでは海外からも視察の方がときどきいらっしゃったんですよ」と、社長の米澤照二さんは振り返ります。

壁も作業道もレンガ色の敷地内には、受注品の予備として焼いたレンガがずらりと並んで、独特の赤い景色をつくっている。この独特の赤色は、野幌の土に豊富に含まれる鉄分が焼けて発色したもの
壁も作業道もレンガ色の敷地内には、受注品の予備として焼いたレンガがずらりと並んで、独特の赤い景色をつくっている。この赤色は、野幌の土に豊富に含まれる鉄分が焼けて発色したもの
「土と山砂でつくられるレンガは、リサイクルも可能です。陸上競技場の赤いアンツーカーも、実はレンガを粉にして再利用したもの。そして、役目を終えたものは自然に還っていく。レンガは、今の時代にぴったりなエコな素材でもあるんですよ」と米澤社長
「粘土と山砂でつくられるレンガは、リサイクルも可能です。陸上競技場の赤いアンツーカーも、実はレンガを粉にして再利用したもの。そして、役目を終えたものは自然に還っていく。レンガは、今の時代にぴったりなエコな素材でもあるんですよ」と米澤社長
敷地の緑と溶け合うように佇むデッドストックのレンガたち。雨や雪に洗われたレンガの佇まいが味わい深いと、この一角からガーデニング用などに買っていく人も。庭などに敷き詰める「クラッシュレンガ」も、このレンガを用いてつくられている
敷地の緑と溶け合うように佇むデッドストックのレンガたち。雨や雪に洗われたレンガの佇まいが味わい深いと、この一角からガーデニング用などに買っていく人も。庭などに敷き詰める「クラッシュレンガ」も、このレンガを用いてつくられている

出荷待ちやストックのさまざまなレンガが積み上げられた敷地の一角にある工場では、その当時から使われている窯や設備が現役で生産を支えています。「近年はニーズの多様化が進み、50%は特注品になりました。さまざまな要望に応えるため、生産の効率化を行う一方で、先達から受け継いだ技術を生かした手作業を大切にしています」。

米澤煉瓦の製品は、一部の特別な製品を除き、野幌産の土、山砂だけでつくられる。その原料となる土は、野幌の大地でまだまだ豊富に眠っているという
米澤煉瓦の製品は、一部の特別な製品を除き、野幌産の粘土、山砂だけでつくられる。原料となるこれらは、野幌の大地でまだまだ豊富に眠っているという
成形した粘土は、窯の余熱を利用して20〜30日かけてじっくりと水分を抜く。かつては敷地内に乾燥場があり、天日干しをしていたそう。「雨が降ると、職人やその家族が一斉に総出で養生。真夜中の養生作業も日常的だったから、敷地内にはたくさんの社宅があったんですよ」と、米澤社長は懐かしそうに語る
成形した粘土は、窯の余熱を利用して20〜30日かけてじっくりと水分を抜く。かつては敷地内に乾燥場があり、天日干しをしていたそう。「雨が降ると、職人やその家族が一斉に総出で養生。真夜中の養生作業も日常的だったから、敷地内にはたくさんの社宅があったんですよ」と、米澤社長は懐かしそうに語る

熟練の手仕事によってつくられたレンガは、北海道庁旧庁舎(通称赤れんが庁舎)の塔屋修復に採用されました。また7年前には旧庁舎前に誕生した「札幌市北3条広場」整備の際にも、旧庁舎のレンガの色と調和する色味に整えた約20万個のレンガを納めたといいます。

工場内には重たいレンガをスムーズに移動させるためのレールが網の目のように張り巡らされている
工場内には重たいレンガをスムーズに移動させるためのレールが網の目のように張り巡らされている
最高温度1300℃まで上がる窯で、50〜60時間かけてレンガが焼かれている。燃え盛る窯のまわりはまるでサウナのよう
最高温度1300℃まで上がる窯で、50〜60時間かけてレンガが焼かれている。燃え盛る窯のまわりはまるでサウナのよう
工場で焼き上がったレンガは、厳しい検品を経て、倉庫で出荷のときを待つ
工場で焼き上がったレンガは、厳しい検品を経て、倉庫で出荷のときを待つ

いつまでも身近で手軽な素材で
在り続けるためにさらなる進化を

近年は、住宅づくりでも「経年変化が美しく、温かみのある素材」として、米澤煉瓦の製品が注目されています。庭や壁にレンガを生かしたいと建築家と一緒に工場を訪れる住まい手も少なくないとのこと。「野幌産の原料でつくるレンガは、高温で焼き上げると耐久性が増すのが特徴。また、断熱性や調湿性・耐火性などにも優れ、建材にもぴったりなんです」。

かつてはレンガの乾燥場だった場所。一角に佇む古い建物は往時の社宅で、工場のまわりをぐるりと囲むように同じ建物が建っていた
かつてはレンガの乾燥場だった場所。一角に佇む古い建物は往時の社宅で、工場のまわりをぐるりと囲むように同じ建物が建っていた
米澤煉瓦では、創業時からレンガと並んで農業用の土管も製造。石油製品が台頭した今も「自然に還るから」と、あえて素焼きの土管を畑の整備に採用する生産者がいる
米澤煉瓦では、創業時からレンガと並んで農業用の土管も製造。石油製品が台頭した今も「自然に還るから」と、あえて素焼きの土管を畑の整備に採用する生産者がいる
敷地内に建つ米澤邸にも、住まいの内外に豊富にレンガが使われている
敷地内に建つ米澤邸にも、住まいの内外に豊富にレンガが使われている

そう語る米澤社長は、手間と時間がかかる湿式工法に比べ、より手軽な乾式工法で施工できる新しいレンガの開発にも取り組んでいます。住宅の外壁材としてガルバリウム鋼板にジョイントできるレンガタイルもその一つ。また、より耐久性が向上する鉄筋を通せる有孔レンガ、外光をとり入れる透かし積み工法用のレンガ、玩具のブロックのように凹凸をつけることで、ただ積み上げるだけで安定するDIYにぴったりなレンガ「ガーデンブリック」など、建築業界からの多種多様なニーズに対応できる新しいレンガをつくり出しました。

鉄筋を通す穴のある「有孔レンガ」。鉄筋を通すことで、半永久的に使えるといわれるレンガの耐久性をさらに高めた
鉄筋を通す穴のある「有孔レンガ」。鉄筋を通すことで、半永久的に使えるといわれるレンガの耐久性をさらに高めた
米澤社長が後継者として入社したときには5・6種類だったレンガが今や、多様なニーズに対応するため30種類6色にまで増えた。中には、北海道電力と協働し、火力発電所から排出される石炭灰を混合した、エコマーク取得のリサイクルレンガもある
米澤社長が後継者として入社したときには5・6種類だったレンガが今や、多様なニーズに対応するため30種類6色にまで増えた。中には、北海道電力と協働し、火力発電所から排出される石炭灰を混合した、エコマーク取得のリサイクルレンガもある
ガルバリウム鋼板の長尺と組み合わせるレンガ。細いスリットでガルバリウム鋼板に固定して外壁に張るのだそう
ガルバリウム鋼板の長尺と組み合わせるレンガ。細いスリットでガルバリウム鋼板に固定して外壁に張るのだそう
多彩な色合いは、材料の配合や焼き時間、窯内の空気量、積み込み量、燃料の量などを微妙なバランスで調整することで生まれる
多彩な色合いは、材料の配合や焼き時間、窯内の空気量、積み込み量、燃料の量などを微妙なバランスで調整することで生まれる

「明治時代から北海道の暮らしに寄り添ってきたレンガが、いつまでも身近な存在で在り続けてほしい。私たちはこれからも、誰でも気軽に使えるレンガをつくり続けたいと思っています」と、米澤社長は力強く語ってくれました。

煉瓦の製造工程

①原材料
米澤煉瓦のレンガは特別色を除き、100%野幌産の原料を使用。製造品によって粘土と山砂のブレンド比を変えて調合している
②混練
水分を一定にするために配合機で原料を一定配合し、ロールクラッシャー、スクリーンフィーダー、混水機を通して原料を安定させる
③成型
真空土練機を使って原料の空気をすべて抜き取る。空気を抜いた原料を押し出し、一つひとつピアノ線でカットして成型する
④乾燥
20〜30日かけて水分を飛ばす。レンガの製造過程で一番時間のかかる工程
⑤窯積み
窯の中ではレンガが高温になり、焼きしまりが起こる。そのため、正確に火がよく当たり、崩れないように丁寧に積み込む。レンガの色を左右する大切な工程でもある
⑥焼成
最終的な色は焼成により決まる。焼き時間、窯内の空気量、積み込み量、燃料の量などを調整して酸化、中性、還元と焼き分けて発色を変える
⑦出荷
一つひとつ焼き上がった製品を型・寸法・色などで選別して梱包してパレット積みで出荷を待つ