いごこちの科学 NEXT ハウス

さらなる省エネ・省CO2が住宅の重要なテーマとなる寒冷地。 本企画は、独自の視点から住宅性能研究の最前線を開いている、東京大学の気鋭の研究者・前真之准教授に、「いごこちの科学」をテーマに、住まいの快適性能について解き明かしていただきます。 シーズン1に続く第2弾として2015年からは、それまでの連載の発展形「いごこちの科学 NEXT ハウス」としてリニューアル。
「北海道・寒冷地の住宅実例から考える室内環境について」をテーマに、断熱、開口部、蓄熱など、さまざまな視点から寒冷地における室内環境の改善ポイントを解説しています。東京大学大学院工学系研究科 建築学専攻・准教授 前 真之 (まえ・まさゆき)東京大学大学院工学系研究科
建築学専攻・准教授
前 真之 (まえ・まさゆき)


前回前々回と、住宅の脱炭素についてお話ししました。日本の住宅の脱炭素化に向けては、新築の高性能化が重要なのはもちろんですが、約5000万戸におよぶ住宅ストックの改修も大切です。今回は今後ますます重要になる、既存住戸の断熱リフォームについて考えてみましょう。

今の家には冬も夏も不満がいっぱい!

今住んでいる家に、不満を感じている人は多いでしょう。皆さんはどんな不満をお持ちでしょうか?外観や内装の傷みといった見た目はもちろんですが、プランの使いにくさ、出入り口や床の段差も気になります。一方で、冬の厳しい寒さ、夏の強烈な暑さで、困っているという人も少なくありません。暖房や冷房にかかる光熱費も気がかりです。

リフォームを検討している戸建て住宅にお住まいの方に、今住んでいる家の不満を調査したWEBアンケートの結果を、図1に示します。

図1 今住んでいる家には不満がいっぱい!

全部で17項目のうち、最も不満が多かったのは「バリアフリー」。身体の自由が利かなくなったときに不便を感じる家が多いことが分かります。続いて2位に「冬の寒さ」、3位に「光熱費」、5位に「夏の暑さ」など、この連載でも何度も取り上げてきた、建物の断熱・気密性能の不足による不満が上位に集中していることが分かります。

寒さの不満は「床」「窓」「水まわりと寝室」そして「暖房費」

全体で2位と非常に不満が多かった「冬の寒さ」に関する不満を具体的に聞いてみると、「床が冷たい」「窓まわりから冷気が伝わる」「窓が結露しやすい」など、床と窓に関する不満が多いことが分かります(図2)。

図2 冬の寒さに関する不満は、床と窓に関するものが多い
図1、図2の出典:リフォーム検討者に対するWEBアンケート調査(2018年)。詳細は「健康で快適な暮らしのためのリフォーム読本」参照

また、「脱衣室・浴室・トイレなど、暖房していない部屋の室温が低い」「暖房していない寝室で、夜から朝にかけて室温が低い」など、暖房をしていない場所での寒さが厳しいようです。これらは、家の中の温度差が血圧の急変動を生む「ヒートショック」につながる危険があります。さらに「暖房により冬の光熱費が高く感じる」と答えた人は64%と多く、暖房代などが大きな負担になっていることが分かります。

効果的な断熱リフォームは窓→床→屋根・天井→壁の順に

こうした寒さと暖房費の問題を解決するためには、外の冷気の侵入を防ぐよう、断熱・気密を強化することが不可欠です。一度に家中丸ごと断熱・気密を強化できれば一番いいのはもちろんですが、かなり大がかりな工事になり、手間とコストがかかってしまいます。フルリフォームができない場合でも、ポイントを絞った効果的な断熱リフォームで、寒さを改善することは十分可能です(図3)。

図3 日本の家の冬と夏の弱点は「窓」「床」「屋根・天井」「壁」

寒さの不満と工事の手間・コストのバランスを考えると、1番に対策すべきは「窓」、2番目に対策すべきは「床」です。最低限この2ヵ所を改善すれば、窓まわりや足元の寒さはかなり改善できます。

余裕があれば、3番目に「屋根・天井」を強化すれば、夏の暑さも低減できます。最後に「壁」まで強化できれば最高ですが、大規模な工事となるので、内外装の更新や耐震工事などと併せて行うのが現実的でしょう。 

1日の生活ゾーンを丸ごと断熱強化が理想

部分断熱のリフォームにおいては、「どの部位を断熱するか」も大事ですが、「どの部屋を断熱するか」も大事です。長時間滞在するリビングまわりだけを断熱強化する場合が多く見られますが、水まわりや寝室の対策をしていないと、家の中の温度差が極端に大きくなってしまいます。

図4に示すように、低断熱・低気密の住宅においては、暖房の暖気が屋外に流出してしまうため、暖房をしている部屋の熱が、暖房をしていない部屋まで届きません。そのため、家の中の温度差が極端に大きくなり、ヒートショックの原因となってしまいます。そもそも家の中で温度差が大きいのは、全然快適じゃないですよね。

図4 暖房していない部屋まで暖かくなるよう、1日の生活ゾーンを丸ごと断熱しよう

健康・快適のためには、部分リフォームにおいても、リビング・ダイニング・キッチンといった主居室はもちろん、水まわり・廊下・寝室まで、1日の生活範囲を丸ごとカバーするのが理想です。その際に生活空間を1階にまとめることができれば、手間やコストを抑えることが可能です。

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