道内在住のナチュラリストで、ラジオパーソナリティーなど幅広い活動で知られる河村通夫さんは、購入した建売住宅を「自分のライフスタイルに合う住まいに替えたい」と、知人を通して紹介されたビオプラス西條デザインの西條正幸さんにリフォームを相談しました。

住環境改善のキーワードは「自然素材」。岩見沢市郊外の自然豊かな地に居を構えて暮らす河村さんと、「メイドイン北海道」にこだわる自然素材の家づくりを手がけてきた西條さん。自然派の家づくりを通じて、今二人が思う「本物のチカラ」とは…。

先人の知恵と暮らし方に学び
理想の暮らしをカタチに

西條 25年前になりますが、事務所を兼ねた自宅を建てるにあたりバイブルとして、家づくりは「エコロジー建築」、暮らし方は「パーマカルチャーデザイン」についての本を読み返しました。それが時を経て、今の暮らしや仕事のベースになりました。

河村 「パーマカルチャーデザイン」って、どういったもの?

ナチュラリスト/ラジオパーソナリティー
河村 通夫
1948年、京都府京都市生まれ。18歳で北海道に渡り、25歳から74歳の現在までSTVラジオで番組を担当。32歳の時に岩見沢市の美流渡地区にセルフビルドで住まいを構え、自らの体験をもとに、多彩な研究開発商品を世に送り出している。近著に「江戸絵皿絵解き事典 〜絵手本でわかる皿絵の世界(講談社)」がある

西條 簡単に言うと、永続可能な農業のもとで人と自然がともに豊かになる関係性を築いていくデザイン手法の一つです。僕自身は長くインテリアデザインを生業にしてきたので、農的な暮らしについては門外漢。正直、当時はよく分かっていませんでした(苦笑)。でも河村さんの美流渡での暮らしぶりは、パーマカルチャーの世界観そのままで、興味深く感じます。河村さんはもともと、農的な暮らしに関心があったんですか?

河村 25歳から札幌でラジオの仕事を続け、休みになると海や川へ行って、釣りばかりしていました。30歳を過ぎて、岩見沢市でかつて炭鉱の町として栄えたこの美流渡という集落と出会いました。春は桜、秋は紅葉に彩られる集落には、地道に暮らす人々の営みと温かな近所づきあいがありました。ここなら、自分が心からホッとできる場所をつくれるんじゃないかと。どうせやるなら、開拓時代に北海道に移住した人々のように自分で家を建て、農的な暮らしをしてみたい。そう考えて、土地を開墾し、畑を耕し始めました。

西條 畑づくりは、誰かに習ったんですか?

ビオプラス西條デザイン
代表取締役 西條 正幸
1960年、伊達市生まれ。一級建築士事務所「ビオプラス西條デザイン」を主宰し、自然素材を生かしながら、人の健康と環境に配慮した自然派住宅づくりを提案。仲間と野菜の有機栽培や、オーガニックマーケットを開催するなど、農的暮らしにも実践的に取り組む

河村 化学肥料や農薬頼みの現代農業は、開墾生活の参考にはならないから、僕は江戸時代の本を参考書にしました。一番大事なのは、堆肥をきちんとつくること。十勝の開拓者の畑も、堆肥に含まれる微生物や有効菌が、厳しい気候風土から作物を守っていたんです。落ち葉や枯草は、今でいうマルチにも役立てました。そのまま分解されて健康な土が出来るし、雑草も生えにくい。楽してうまい野菜がモリモリ出来たら、こんなに良いことないでしょ(笑)。

西條 家もご自身で材料を手配して、セルフビルドで完成させたそうですね。

河村 モデルはね、アメリカの開拓者が建てた「大草原の小さな家」なんです。京都の叔父が名工と呼ばれた人で、子どもの頃から在来工法の建築現場が遊び場。中学生の頃に、現場でアルバイトをしていたこともあって、在来工法に比べてシンプルな2×4工法なら自分でもできるような気がしました。むしろ材料の手配のほうが大変。木材の専門会社に頼み込んで、カナダから輸入してもらいました。

美流渡の小高い丘の上に立つ河村さんの住まい。丹精された広い庭や、先人の知恵を生かした有機的な手法を取り入れた自家菜園から、大地に根ざしたここでの暮らしぶりがうかがえる

西條 放送の仕事をしながらの家づくり…。想像するだけでも大変そう。実際、どのくらいの期間で完成させたんですか?

河村 建て始めたのは、開墾から4年目の春ですね。根雪になるまでに屋根まで何とか仕上げ、冬の間に内装工事を進めて、春には住めるようになったかなぁ。完成まで、かれこれ2年かかりました。開墾を始めて畑、宿根草の庭、家がカタチになるまでに約5年。時間と手間をかけた分、40年近く経った今も快適です。家の外壁のレッドシダーは、一分の狂いもありません。自分で考え、先人の知恵に習うことの確かさを、畑や家づくりを通して徹底的に学びましたね。

時間をかけてゆっくりと変化した自然素材が醸す、本物ならではの美しさが宿る室内
積み重ねられた日々の営みの濃密な気配が、河村さんの家への愛着と生き様を物語っている

フットワークよく生きるため
都市にもう一つの拠点を

西條 美流渡で充実した暮らしを送る河村さんが、昨年、札幌に新たに住宅を購入したきっかけは何だったのですか?

河村 74歳になった今も、ラジオの仕事を続けています。もちろん美流渡での暮らしに満足していますが、ここ数年、冬の岩見沢はこれまでにない大雪で、札幌との行き来が大変になってきました。東京と札幌に娘たちが住んでいますし、仕事の打ち合わせも、美流渡まで足を運んでもらわずに済むようにしたい。それで札幌に暮らしの拠点をもう一つ設けることにしました。

リノベーション前のダイニング・キッチン
リノベーション前のダイニング・キッチン

西條 先々を考えると、マンションという選択肢もあったのでは?

河村 正直、迷いはありましたが、札幌でも緑のある暮らしをしたい気持ちが強く、当初は下見板張りの古家を購入し、直して住むつもりでした。でも急速に都市化が進んだ札幌では、そうした物件はなかなか見つかりません。そんな折にかつて家族で暮らしたなじみ深い地域で、新築の建売住宅を見つけて。地下鉄の駅に近く、誰もが気軽に立ち寄れる立地が気に入り、内装を直して住もうと購入しました。

西條 「都市の中でも、自然素材に包まれて暮らしたい」というのが、リフォームのご要望でしたね。河村さんのように予算と立地を優先し、新築物件の内装だけを変えるという要望は珍しいケースでした。

河村 現代の新築住宅は見た目がきれいでも、ビニールやウレタン塗装など人工的な素材だらけで、なんだか息苦しい。僕は、どこにいても「らしく」暮らせることを大事にしたかったんです。立地は抜群だから、美流渡の家同様に自然素材に包まれた住まいに直せば、理想的な街暮らしの拠点になると考えました。

玄関収納の扉は既製品が使われていた
玄関収納の扉は既製品が使われていた
壁はビニールクロス張りで、全体的に白っぽい内装

西條 近年の札幌では土地の価格が上昇し、利便性の高い地域で家を持つのが難しくなりました。僕がこれまで手がけてきたのは、築40年以上の建物のフルリノベーションがほとんどです。しかしこれからは河村さんのように、新築や築浅の物件を好みのテイストに替えるリフォームも増えてくるかもしれませんね。

河村 依頼前には、西條さんがリノベーションを手がけた築45年の家も見に行きましたね。施工の丁寧さ、徹底した自然素材へのこだわりに、住まいへの真摯な姿勢、真面目さを感じました。「この人なら、この家で良かったと思える本物をつくってくれる」と確信しましたよ。