鷹栖の大地と気候風土に寄り添う 道産カラマツの田園ワイナリー
大雪山系を望む田園のまち、鷹栖町にワイナリー「ドメーヌ・トワ」が誕生したのは、2024年のこと。荒木のカラマツを外壁に用いた素朴な建物は、森とブドウ畑が広がる丘陵地の風景にしっくりとなじんでいます。ワイナリー建設にあたり木造にこだわった理由、そしてその魅力と効用を、施設長の谷 敏彦さんと醸造家・林 勇人さん、建物づくりに関わった篠原航太さん、武部豊孝さんにうかがいました。
土とブドウづくりから始まった 景色に溶け込む醸造所
鷹栖町の社会福祉法人「鷹栖共生会」が、障がいをもつ人たちの就労の場として、町内の丘陵地でワイン用ブドウの栽培に取り組んだのが「ドメーヌ・トワ」の始まりです。「盆地特有の寒暖差の大きい気候とミネラル分を多く含んだ土は、ワイン用ブドウの生産に最適です。自前のワイナリーを設けることを目標に、2016年から本格的にブドウ栽培に着手しました」と、谷さんはワイナリーの創生期を語ります。

そして2年後には採れたブドウでの試験醸造にも少しずつ取り組み始めました。自社の畑で実ったブドウを持ち込んでいたのが、岩見沢市で受託醸造を手がける「トアール・ワイナリー」。収穫期には、道内各地から醸造家が地域で収穫したブドウを持って集まり、ワインづくりの情報交換の場にもなっていたといいます。「緑あふれる山村の景観に溶け込むような木造のワイナリーは、素朴な雰囲気がとても素敵で、いつか私たちもこんなワイナリーを建てたいと思い続けていました」。
そして2022年、順調に自社畑のブドウの収穫量が増え、林さんたちはワイナリーづくりを本格的に開始。建設のパートナーに選んだのが、岩見沢市の醸造所を手がけた武部建設でした。「道内で多くのワイナリー建設に携わって蓄えてきた豊富な経験と高い設計力、大工の技術。武部建設と一緒に計画を進めれば、私たちが思い描いてきた景色が実現できると確信していました」。そして、2024年のブドウの収穫と初仕込みを目指して、建築計画が動き出しました。
人にも、ワインにも優しい 道産材のワイナリー
武部建設が手がけるワイナリーの所在地としては、道内最北の地である鷹栖町。設計にあたっては、夏には30℃、厳冬期には氷点下30℃、積雪も最大1.8mを記録する厳しい気候に対応できる温熱環境の実現が求められました。また、ワインの繊細な味わいや香りを損なわずに、保健所が求める厳格な衛生基準もクリアしなくてはいけません。「防水性や清掃・メンテナンス性、蓄熱性などではRC造が勝ります。しかし、この美しい田園風景に違和感なく溶け込む建物を考えたときには、木造以外の選択肢はありません。ならば高基礎と木造を組み合わせれば、両方の利点を備えた建物ができると考えました」と、設計を担当した建築家の篠原さんは話します。

さらに、土地の厳しい気象条件を考慮し、外断熱と組み合わせ4層300㎜相当の断熱材を用い、すべての窓にトリプルガラスのサッシを採用することで、外気の影響を受けにくい温熱環境の実現を目指しました。「武部建設の注文住宅と比べても、トップレベルの高断熱・高気密仕様です。武部建設最上級のスペックなら、機械的な設備機器に頼りすぎない醸造環境と高い省エネ性を実現できると考えました」と、施工現場の指揮を取った武部さんも話します。

手厚く躯体性能を整えた建物の中心は、醸造のための作業場。ポンプなどを用いず、重力によってブドウやワインを移動する「グラヴィティシステム」を採用したいという林さんの要望を叶えるため、柱をなくし吹き抜けを設けることで、高さと広さにゆとりをもった作業場を実現しました。

水平関係の対話を重ね 楽しく夢をカタチに
ブドウの収穫期には10人以上の人が働く吹き抜けの大空間を力強く支えているのが、カラマツ集成材を用いた美しいトラス。遠隔地での施工をスムーズに行うため、プレカットした材を工場塗装し、ある程度組み上げて現場に搬入して施工したといいます。武部建設は、建て主と設計、施工が同じ目線、力関係で建物づくりを行うことを大切にしてきました。「今回は、施工を支える製材や塗装、造作を担う職人など、一般住宅以上に多くの業種が同じ土俵で知恵を出し合い、相談し合うことで、省力化を進めながら良いものをつくることができました。なれ合いではなく、対話を大切に楽しく仕事をすることを学んだように思います」と、中大型木造建築の現場を多く取り仕切る武部さんはしみじみと話します。



気候に恵まれ、ワイナリー史上最高のブドウが収穫できた2024年10月、完成したばかりの木づくりの作業場で初めての醸造作業が行われました。「醸造家の先輩たちからは、1年目はトラブルが当たり前、苦労するぞと脅されていました。ところが、拍子抜けするほどスムーズにやりたい作業ができ、今まで以上にブドウ本来の味や香りを引き出せました。きめ細かな設計と造作で、要望がすべて叶ったおかげですね」と、林さんは声を弾ませます。「丘のブドウ畑と森の景色に溶け込むようなワイナリーの外観。毎日、それを目にするたびに幸せを感じています」と、谷さんも満足そうに話してくれました。

設計を手がけた建築家の篠原さんは、プランづくりにあたって、ワイナリーで働く人々やブドウ畑、森の背景にひっそりと佇むような「普通のもの」「見飽きないもの」を目指したといいます。歳月を重ねてワインが味わいをより豊かに、深めていくように道産カラマツの素朴な建物も風土に磨かれ、趣を増していくことでしょう。

敷地面積:7,555.91㎡
延床面積:298.42㎡(約90坪)
構造規模:木造在来工法・2階建て
柱梁樹種:カラマツ・ホワイトウッド
断熱性能:充填断熱+付加断熱
基礎:ビーズ法ポリスチレンフォーム190㎜
床下:土間下断熱 押出法ポリスチレンフォーム75㎜
壁:高性能グラスウール16kg 軸間105㎜+付加断熱(50㎜+105㎜+50㎜)発注:社会福祉法人鷹栖共生会
設計監理:FURUSAN ATELIER
施工:武部建設株式会社
棟梁:高松裕嗣
