川沿いの木々とともに月日を刻む狭小住宅
10年後、15年後のあなたの暮らしはどんなものになりそうですか?
「家を持ちたい」と思ったとき、今どんな暮らしをしたいかをイメージしながらあれこれと計画を練る楽しみは家づくりの醍醐味です。しかし、その家で過ごす10年後、15年後の暮らしがどんなものになるか、イメージすることは少し難しいかもしれません。
注文住宅を建てたり、リノベーションをして長年住んでいる人の暮らしはどんなものなのか。新築時に思い描いていたとおりなのか、思わぬ変化が訪れているのか。築10年以上のお宅を訪問し、日々の暮らしぶりと年月を経て変わらないこと、変わったことを聞いてみました。これから家づくりを考える人に参考になるお話が、あふれています。
札幌市中心部、川沿いの緑に包まれた約22坪のTさん宅。建築家・石塚和彦さんと築いた住まいは、コンパクトゆえの機能性と内外のつながりが魅力です。周辺環境を効果的に採り込むために設けた窓や大きな庇、テラスが生み出したのは、まるでねじれたような特徴的なプロポーション。外から見ると開口部が新芽を彷彿とさせることから「sprout」と名付けられたその家は、木々と川の流れとともに13年の時を重ねています。


水面をなでる風と川沿いの木々の緑に包まれたこの地に、2012年、Tさんご夫妻は新居を構えました。敷地面積はわずか22坪。それでも「夫婦二人暮らしに広さは不要。以前の借家もコンパクトでしたが、建築家設計で快適だったので不安はありませんでした」と、Tさんご夫妻は振り返ります。設計は狭小住宅を得意とする建築家・石塚和彦さん。「東京の下町で育ち、狭さは決してネガティブな要素ではなく、狭いならではの心地よさがあることを知っていました。その感覚を、Tさんご夫妻とも共有できていたのだと思います」と話します。


敷地形状に沿って最大限のフットプリントを確保しつつ、内部は中央に階段を据え、スキップフロアで高低差をつけながら要素ごとに空間を分節。書斎やLDK、浴室には大きな開口を設け、庇やテラスで日射を調整しながら川沿いの緑を室内へと招き入れます。

「転職したことで留守が増え、よりいっそう家への愛着が深まりました。コロナ禍には書斎がリモートワークの拠点にもなりました」とTさん。その快適さから、自身のベッドも書斎に移し、自室のように機能しています。「空間は小刻みですが、仕切りがないので圧迫感もなく移動もスムーズ。ちょうどいい狭さです」と、奥さんも笑顔です。手の届く範囲で過ごせる機能性、外部とのつながりがもたらす開放感。年月を経ても、その心地よさは健在です。



最も変化したのは観葉植物たち。13年の間に増え続け、さながらグリーンカーテンのように住まいを包み込んでいます。外壁の一部や、玄関まわり、建具に採用した古貫板は耐久性を保ちながら風合いを増し、赤いガルバリウムの外皮は程よく退色。周辺の景観に溶け込んでいます。「植物の世話は手間ですが、それも楽しいんです」と奥さん。川や緑を愛でながら、変わらぬ夫婦の暮らしはこれからも続いていきます。

● Before・After
変わらないこと。|仕事を終え、リビングでくつろぐ穏やかな時間。模様替えで気分を変え、休日は緑を借景にテラスで焼肉を楽しむことも。書斎で仕事をしたり、緑を眺めながらゆったり過ごすバスタイムも日常の一部。それぞれの時間を大切にしながら、Tさんご夫妻の日々はこの13年、大きな変化はありません。変わらぬ日常を紡ぎながら、心地よさと住まいへの愛着を育み続けています。


変わったこと。|年月とともに、川沿いの木々は何本も伐採され、景色も変化しました。それに呼応するかのように、Tさんご夫妻の住まいには観葉植物が日ごとに増えていき、住まいを包み込んでいます。芽吹きをイメージした「sprout」は時間の経過とともに、周辺環境と調和しながらこの地にしっかりと根を張り、時を刻んでいます。


DATA
札幌市西区・Tさん宅
家族構成 夫婦50代
設計 石塚和彦アトリエ
施工 丸繁 赤坂建築
- 会社情報
- 社名 合同会社 石塚和彦アトリエ 一級建築士事務所
- URL http://ishizuka-atelier.com
- Replan SUMAIナビ https://www.sumai-navi.jp/companies/d10056
家事の時間を短縮し、団らんの時間を増やす家族の絆を深める家












