「かっこいい」の先にある、未知の開拓。三五工務店が小樽・春香町で描く「山郷」という未来

公開日:2026.6.19 最終更新日時:2026.6.19

各地域で魅力的な「まち」を目指す取り組みを紹介。まちの魅力向上をエリアの価値向上につなげるヒントをひも解きます。

札幌と小樽の境界、石狩湾を見下ろす小樽市春香町の森の中に、その「郷」はありました。

2025年5月にグランドオープンを迎えた「山郷(さんごう)」。そこには、三五工務店(札幌市)が設計・施工を手がけた5棟の個性豊かなヴィラ、ライフスタイルショップ、レストラン、そしてアートギャラリーが点在しています。

「僕らにとってブランディングとは何か。一言でいえば、自分たちの実現したいビジョンを『かっこいい形』にすることなんです」。そう語るのは、同社の田中裕基社長。飲食店の建築・運営、木造商業施設の建築など、工務店の枠を超えたクリエイティブな発信で注目を集める同氏が、「山郷」というプロジェクトを通じて挑む「これからの工務店の在り方」を取材しました。

「売る」のではなく、「体験」してもらうプル営業への転換

三五工務店が掲げる理念は「暮らしづくりを通して幸せをつくる」。しかし、その幸せの形をどう表現し、伝えていくか。田中社長は、自社が「ものづくりの会社」であることを強調しながら、これまでの歩みを振り返ります。

「正直、積極的に営業をかけるのは得意じゃないし、なかなかうまくいかない部分もありました。だからこそ、自分たちが誇れるものを形にし、それを発信し続けて、共感してくれる人に来てもらう。プッシュではなく『これ、いいでしょう?』と提案するプル型の営業を目指してきました」。

2026年5月に実施された「選ばれる工務店のブランド構築」ツアーでの様子

その集大成とも言えるのが「山郷」です。ここは単なる宿泊施設でも、リゾートでもありません。田中社長が「リビングエクスペリエンス(暮らしの体験)」と呼ぶ、三五工務店が考える理想の暮らしを五感で味わえる場所なのです。

北海道の「理想の暮らし」を解像度高く形にする、山郷の設え

「山郷」を構成するのは、三五工務店の世界観を凝縮した5つのヴィラと、地域の文化を耕す商業・アトリエ棟です。ヴィラはそれぞれ、四季や土地の個性を反映した「春(SHUN)」「香(KAORU)」「和(NAGO)」「地(SIR)」「宇(SORA)」と名付けられています。

春(SHUN)の土間空間とリビングに圧倒的な開放感をもたらす大きな窓

春(SHUN)は、吹き抜け一面のピクチャーウィンドウと薪ストーブが特徴で、室内にいながら四季折々の森の移ろいを感じられます。香(KAORU)は、子育てがひと段落した夫婦二人で暮らす住まいを想定したモデルハウス。2階にロフトや予備室を設けた「ほぼ平屋」の空間で、屋外にバレルサウナも設え、敷地全体で森のある暮らしを楽しめるプランとなっています。

香(KAORU)のLDKはコンパクトながらも、吹き抜けと大開口がもたらす開放感でいっぱい

宇(SORA)は2階のリビングとバルコニー、さらに、隣接する半露天風呂から北海道の自然を一望できる、開放的な空間が特徴です。和(NAGO)は、愛犬との滞在を想定。滑りにくい床材やプライベートドッグランを備え、ペットも家族の一員としてくつろげる工夫が凝らされています。地(SIR)には、プライベートサウナが用意され、北海道の自然の中で「ととのう」体験を提供します。

宇(SORA)のLDKはバルコニーまでシームレスにつながり、外の景色を室内の一部として取り込むしかけ
愛犬との滞在を最大限楽しめるように工夫がなされた和(NAGO)
地(SIR)のサウナは水風呂からバルコニーまで完全なプライベート空間で楽しむことができる

建物の性能面では、同社が得意とする「高気密・高断熱」を実現。冬は薪ストーブ一台で家中が暖かく、夏は涼しいという、北国ならではの快適な住み心地を実際に体感できる仕組みです。

また、敷地内には3年限定オープンのイノベーティブ・レストラン「TRƆ̃(トロン)」や、道産木材を生かした家具・雑貨を扱うライフスタイルショップ「ten to ki(テントキ)」などを併設。「素材からこだわるモノづくり。短期の価値ではなく長期の価値を両立し、見た目もかっこいい」。田中社長が語るその哲学は、細部の造作家具から提供される食事の一皿一皿にまで貫かれています。

敷地内に併設されたカフェ「HARUKA Coffee & Table」

リスクを取って「未知」を切り拓く覚悟

「山郷」のコンセプトの一つに「Cultivate(関係性を構築する)」という言葉があります。この10年間、飲食事業や非住宅建築、そこでウッドショック下での挑戦など、常にリスクを取りながら歩んできた田中社長はこう語ります。「この10年間で僕たちがやってきたことは、実は『未知を開拓する』ということだったんじゃないか。今、ミッションをまさに変えている最中なんです」。

新しいミッションではCultivateを根本に置きながら、「Explore(探検・探索)」や「Develop(開発)」などもキーワードとして意識。大手資本が入りにくいローカルな土地に、工務店ならではの視点で資源を見出し、市場を育てていく。「ローカルデベロッパー」としての立ち位置が、これからの工務店の生き残る道だと説きます。

「道なき道を求める。行き過ぎるとハプニングになってしまいますが(笑)、しっかり『ハピネス(幸せ)』の範囲で未知を開拓しきる。このトラックレコードを数年積み上げることができれば、非常に面白いことになるはずです」

地域を、そして北海道を「育てる」工務店の役割

「山郷」では、その土地の土や石を使い、景色と調和する建築を目指しました。それは、短期的な経済価値ではなく、長期的な価値を重んじる経営判断の現れでもあります。「その土地の人と人間関係を築き、その土地のものを使って場所自体を育てていく。そして最終的には、北海道そのものを育てていく。そんな循環をつくりたいんです」

そんな三五工務店の取り組みは、道内のみならず道外の工務店からも熱い注目を集めています。2026年5月に実施された「選ばれる工務店のブランド構築」ツアー(札促社|SUMUS共催)では、全国各地から工務店経営者や設計担当者が訪れました。

施設の見学をはじめ、宿泊体験や田中社長の講演を通じて、事業の具体的なプロセスや運用面で乗り越えてきた課題、実際の業績など、細部にわたる共有がなされました。各地域の工務店がローカルディベロッパーとしての一歩を踏み出すきっかけとして、ロールモデル的存在である三五工務店の存在は頼もしく映ります。

住宅という「ハコ」をつくるだけでなく、暮らしという「コト」を提案し、地域を耕す存在へ。春香町の森にたたずむ「山郷」の美しい景観は、三五工務店がリスクを背負いながら切り拓いてきた「未知」へのひとつの答えであり、工務店の目指す灯火のように、輝きを放ち続けています。


【施設概要:山郷(さんごう)】
• 所在地: 北海道小樽市春香町2-13
• 施設内容: 一棟貸しヴィラ5棟、ライフスタイルショップ「ten to ki」、レストラン「TRƆ̃」、アートギャラリー、美容室、オーガニック食品店など
• アクセス: JR銭函駅からタクシーで約6分、札樽自動車道・銭函ICから車で約5分
• 公式サイト: https://mt-sango.com/

取材協力:株式会社三五工務店

(取材・文/Replan編集部)

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