ポルヴォーのビンテージマーケットで果たした、運命の出会い
フィンランドに半年間滞在していたReplanスタッフがお届けする、北欧の暮らしや建築のこと。
目次
長く厳しい冬を快適に、そして美しく暮らすための知恵が詰まったフィンランドのデザイン。その魅力は、新品のプロダクトだけでなく、長い時間を旅してきた「ビンテージ」の中にも深く息づいています。
フィンランドに滞在する中で僕は、周囲の諸先輩方から「地方のマーケットには、激アツの掘り出し物がある」と聞かされていましたが、正直「いやいや、ヘルシンキのマーケットでも充分ちゃいますか〜?」と半信半疑でもありました。
とはいえ、地方にある掘り出し物はやはり気になる……。ということで、ちょうどタイミングよく開催されることを知ったローカルビンテージマーケットに行くべく、前日にバスのチケットを入手。翌日朝から出かけました。行き先は、ヘルシンキからバスで1時間ほど。古い街並みが残る美しいフィンランドの古都、ポルヴォー(Porvoo)です。
今回はそこで果たした「運命の出会い」についてお話しします。

地方ならではの熱気に包まれる
「ポルヴォー・アートファクトリー」
週末の朝、期待にそわそわしながらバスに乗り込み、ローカルビンテージマーケットの会場である「ポルヴォー・アートファクトリー(Porvoo Art Factory)」へと向かいました。
入場料の7ユーロを支払って一歩中に入ると、そこにはビンテージファンにとって夢のような空間が広がっていました。広い会場に、30ほどのショップのテーブルがずらりと連なっています。

木のテーブルの上には、繊細に光を反射するガラス、素朴な温もりのある陶器、鮮やかなテキスタイル、時代を重ねた照明や絵画……。一目見ただけで胸が高鳴るアイテムが、ぎっしりと並べられていました。
会場を歩けば、憧れのアラビア(ARABIA)のビンテージマグが隙間なく置かれていたり、アルヴァ・アアルトのサヴォイ・ベース(SAVOY VASE)と目が合ったりと、誘惑だらけ。希少なアートピースもあちこちに見られ、目移りしまくりでした。



心を奪われた、タピオ・ヴィルカラとカイ・フランクのガラス
今回の僕の目的は、ただひとつ。オイバ・トイッカのバード(Bird by Toikka)に出会うことです。いつかわが家に迎え入れたいと願っていたその鳥を、自分で探して見つけ出し、納得の一羽を連れて帰ると決めていました。
しかし、会場を歩き始めると、フィンランドデザインの巨匠たちが放つ強い引力に、あっさりと引き寄せられてしまいます。
まず僕が足を止めたのは、タピオ・ヴィルカラ(Tapio Wirkkala)が手がけたアートグラスでした。以前、エスポー現代美術館(EMMA)で彼の作品の美しさに圧倒されて以来、いつか手元に置きたいと切望していた逸品です。

店主に尋ねると、底面の刻印から1960年代のものだと教えてくれました。何より、他では見たことのない深みのあるパープルの色合いが、特別な存在感を放っています。
「これは運命かもしれない……」。
じっと眺めて悩んでいると、店主がこちらから頼む前に微笑みながら端数をまけてくれて、55ユーロを50ユーロにしてくれました。嬉しいサプライズに胸を躍らせつつも、財布の中の現金を考えて一度はためらいました。が、なんとここではクレジットカードが使えることが判明。気がつけばカードのPINコードを入力していました。
無事ヴィルカラを手中に収めた私は、ホクホクした気持ちで2周目の徘徊に。

さまざまな品を眺めてはちょこちょこ鳥たちと目が合い、触れて、また置いて、店主と軽く会話を挟んで、また悩んで…を繰り返すこと10数回。
今度はカイ・フランク(Kaj Franck)のイエローのグラスに心が奪われます。

クリアでまぶしいそのイエローは、自分のコレクションにはないカラー。「15ユーロだけど、10ユーロでいいよ」と、これまた優しくディスカウントしてくれる白ひげの店主。
「マーケットの端数は、お互いの距離を縮める優しさのために付いているのかもしれない」。そんなふうに思えてしまうほどフィンランドの温かい文化に触れ、まだ本命の鳥を捕まえていないうちに、気づけばすでに約60ユーロがお財布から旅立っていきました。
ついに訪れた運命の瞬間。
救世主が現れた「トイッカ・バード」との遭遇
本命のバードに出会う前に、すでに2つの名作グラスを手に入れ、高揚感と少しの焦燥感が入り混じるなか、フロアを歩き回ること3周目。
ついに見つけました、理想のトイッカ・バード!

色合い、フォルム、繊細な羽の模様……。これまで見てきたどのアイテムとも違う、独特のきらめきと気品に、即座に手に取りました。
価格は120ユーロ。日本での価格を考えれば、これだけでも十分に破格です。「この子を連れて帰ろう」と決意し、声をかけようとしたそのときでした。
「君、何回もここの前を通って悩んでたやろ。かまへん。100ユーロでええで!」
と、メガネの店主が太っ腹なことに20ユーロも値引きしてくれたのです。ただ安くなったこと以上に、自分の迷いや憧れのまなざしを優しく受け止めてくれた店主の心づかいに、じんわりと胸が熱くなりました。

「ありがとうございます!」
と、感謝を込めてクレジットカードを差し出した瞬間。
「すまんな……うちカードは使われへんのや…」。
店主の申し訳なさそうな言葉に、目の前が真っ白になりました。確かにそんな良いことばかりが続くはずはないのだ…。現金を用意していない自分が悪いのだから…。諦めかけたそのとき、救世主が現れました。
「うちやったらカード使えるさかい、こっちで会計したらええで」。
たまたま近くを見回りに来ていた出店者が、手を差し伸べてくれたのです。こうした個人商店同士の横のつながりと寛容さ。トラブルさえも温かい思い出に変えてしまうフィンランドの人々の優しさに包まれ、僕はついに、憧れのトイッカ・バードを腕に抱くことができたのでした。
あとから聞いたところ、こうしたケースでカード払いをすることもできるみたいです。でも、基本的には現金を用意して行くに越したことはありません。ほしいアイテムが現金のみだったらみすみす見逃すことになるので…
その後、偶然居合わせた先輩方に感動の購入品を紹介。ほかにも忘れられないアイテムがあった僕は、さらにもう2羽の小ぶりなバードも迎え入れることにしました。

モノと出会い、暮らしを紡ぐ。
ビンテージという美しい体験
と、いうことで最終的に手に入れたのはこちらの品々です。2つの美しいグラスと、大・中・小あわせて3羽のトイッカ・バード。ああ美しや、美しや。ついに手にしてしまったことに震えながらも、貴重なフィンランドデザインのアイテムが手元に増える喜びで胸がいっぱいになりました。

ビンテージのアイテムを手にする瞬間には、不思議な引力があります。それはかつてTSUTAYAで聴いたことのないインディーズバンドのCDを視聴して「これだ!」と直感したときの感覚に似ています。言葉にならないけれど、身体の内側が確かに震えるあの感覚です。
インターネットで検索すれば、どんなものでもすぐに手に入る現代。しかし、旅をして、ローカルな空気に触れ、言葉を交わし、人の温かさに助けられながら手に入れたモノには、スペックや価格だけでは測れないストーリーが宿り、一生大切にしたいという気持ちが強まります。

「マーケットの端数は、優しさのために付いている。そしてその優しさの分だけ、手に入れた品物に深い愛情を注ごう」。
そんな美しい教訓を教えてくれたポルヴォーのビンテージマーケットで出会ったものたちは、日本に帰ってきた今も、僕と家族の暮らしを静かに温かく彩り続けてくれています。
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