寒さが血圧を上昇させる?

こうした血流の制御による放熱量の制御はある程度有効ですが、体のコア温度を守るために末端の手足を犠牲にしているとも言えます。こうした「緊急避難」は短時間にとどめておいたほうが無難です。

最近、室内の温熱環境が人の健康に与える影響について調査が進められ、寒い家に住んでいる人は血圧が高くなるという調査結果が出てきています。手足への血流を絞ればコアに血液が集中しますから、血圧が上昇するのもムリありません。血流が滞れば代謝も抑えられ、冷え性の原因ともなります。

イギリスの住宅性能評価では、室温が19℃以下では健康リスクが現れ、16℃以下では深刻なリスクとなるとしています(図3)。日本でも、家全体の温度を一定以上に確保しようとする動きが始まっています。ただし、健康に関する問題は個人差が大きく、その調査の正確さについてもさまざまな議論があります。温熱環境と健康の関係については、またの機会に取り上げることにしましょう。

図3 寒い家は健康リスク
イギリスではHHSRS(Housing Health and Safety Rating System)により、室温による健康リスクが定義されています。日本でも、家中の温度を最低15℃、または18℃にしようとする試みが始まっています。

暑さは頭の中で、寒さは全身の皮膚で感じている

人体は生存に不可欠な熱バランスを達成するため、常に暑さ・寒さを監視しています。いごこちの良し悪しを理解するには、まず人間がどこで暑さ・寒さを感じているかを知っておきましょう。暑さを感じるのは、頭の中の視床下部という部分です。体の中にこもる熱から一番弱い器官である脳を保護するため、脳に流れ込む血流の温度をモニターしていると考えられます。

それでは寒さはどこで感じているのでしょう。人間の皮膚の上には、さまざまな感覚器がセンサーの機能を果たしています。数あるセンサーのうち、暑さを感じるものを「温点」、寒さを感じるものを「冷点」と言います。その数は冷点のほうがはるかに多くなっていて、体表面からの過大な放熱を防ぐために皮膚は寒さを優先して警戒しているのです。

つまり、暑さは頭で、寒さは皮膚で感じていることになります。たしかに暑いと頭の中がボーッとしますし、寒いと体の表面がかじかみます。実感にあっているのではないでしょうか。

暑さは頭で、寒さは皮膚で
暑さについては、脳内の視床下部が血流の温度の上がり過ぎを監視しています。寒さについては全身の皮膚にびっしりと配置された感覚センサー「冷点」がモニターしています。

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