ZEH補助金で格差拡大?

ここまで、日本版ZEHについて、具体的な計算結果も交えながら説明してきました。ポイントを整理すると、「1次エネルギー20%削減は高効率設備で容易に達成可能」「ゼロエネ化には断熱強化の効果が薄い(特に温暖地)」ということになります。

こうした特徴が明らかになるにつれ、経産省のZEHは外皮スカスカ・設備偏重の「メカZEH」であるという声が聞かれるようになりました。また太陽光発電が必須であり、安くなったとはいえ200万円程度はかかることも懸念材料です。

前回の光熱費でも触れましたが、エネルギーにも経済格差の問題があります。お金に余裕がある人は、高断熱・高効率設備・太陽光発電のZEH3点セットに一度に投資できます。しかし余裕がない人たちは一度に投資ができませんから、ZEH補助の恩恵を諦めざるを得ません。現在の経産省ZEH補助事業は、「強きを助け弱きをくじく」格差拡大の政策だと言われても仕方ありません。「お金持ちが暖かい家で光熱費を気にせず快適に暮らす」のを政策的に応援する必要がどの程度あるのでしょうか。

ZEHのブレークスルーはどこに?

補助金の原資は国民の税金である以上、単なるバラマキはNGなのは当然です。何かのブレークスルーなり波及効果なりが求められます。現在のZEH事業から何が期待されるのでしょう。

必須とされる太陽光発電の普及促進には、かなり効果があるでしょう。ただし、すでに世界シェアの7割以上は中国製です。安価な中国製が国内にも広がる中、日本メーカーへの恩恵は、ごく限られるでしょう。

高効率設備の普及・低廉化は、なにしろ「メカZEH」ですからある程度期待できます。ただし、1次エネルギー20%以上の削減は大した目標ではありません。低価格化が進んだ太陽光発電をドンと載せて1次エネルギーの省エネはほどほどに…というZEHが増えても不思議ではありません。

高断熱化については技術そのものはすでに出揃っており、今後の課題は低廉化が求められます。しかし前述の通り、断熱はゼロエネ化としては割高な手法なので、普及は期待薄です。そもそも現状のZEH基準は本連載で何度も触れた、快適な室内環境に必要不可欠な「気密」をほとんど規制していません。ZEH化が推進されたところで、暖冷房負荷が小さく暖かい家が増えるとは、必ずしも言えないのが現実です。

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