美に対する価値判断の基準は時代により変化する。しかしながら、いつの時代にあっても変わらぬ不変的な美しさ、時に左右されない感性、審美性は存在するものだ。

屏障具や絵巻物に描かれた個性溢れる人物や動物の表現には素晴らしいものがある。俵屋宗達の「風神雷神図」や、京都の高山寺に伝わる国宝の「鳥獣戯画」に登場するキャラクターの躍動感ある筆致には驚かされる。時空や民族の垣根を超えた、誰もが認める美しさがある。

最近キャラクターデザインが持て囃されている。世界的に有名なものとして、アメリカのミッキーマウスをはじめ、イタリアのピノキオ、フィンランドのムーミン等々、世界中の人達に親しまれ、そのキャラクターデザインは高く評価されている。日本にも漫画の主人公として、のらくろ二等兵や鉄腕アトム、鉄人28号など、大人から子供まで幅広い年齢層に支持されてきた。それらのキャラクターは半世紀を経た今も風化することなく人々の心の中に生きている。

一方、ここ数年、日本のサブカルチャーとして世界が評価する漫画やアニメーションのブームに便乗するかのように「ゆるキャラ」が日本各地に次々と生まれている。そのキャラクターデザインの幼稚さ、稚拙さ、醜さは嘆かわしいの一言に尽きる。キャラクターデザインは平面に描かれた場合と、立体物として制作された場合には全く別物になるのだ。次元の違いを理解しないためプロポーションの酷い、見るに堪えないキャラクターデザインのいかに多いことか。幼児に受け入れられることを前提としたデザインのため30年、50年後にも残るようなものは皆無だ。感性の低年齢化とも言える現象である。日本においてこれほど美醜に対して無知・無関心な時代が過去にあっただろうか。

今回紹介するケルナー・スティック・フィグーレン社はゲオルク・ケルナーにより、ドイツのライプツィヒに一世紀前に創業された玩具メーカーだ。ゲオルクによって考案された様々なキャラクターは多様なパーツを自由に組み合わせることで無限とも言える子供達の想像力を高めるのだ。このシリーズには創業当時に生まれたカエルやウサギ、ネズミなど身近な動物がキャラクターデザインされている。

「steck.box」木箱入り
「steck.box」木箱入り

1920年代には旧東ドイツでベストセラーとなったが、戦争でその生産は中止されていた。その後、孫のハンスにより1993年、ケルナースティックシリーズとして復刻され、97年には新しいキャラクターも加わり、その市場は世界にまで広がったのである。一世紀を経ても色褪せることのないこのシリーズは木製玩具の本質的な良さを伝えている。2000年にはドイツ木製玩具デザイン賞を、2001年には優れた日用品に与えられるチューリンゲル賞を獲得している。私は常々、かわいいデザインから、ひとかわを剥くと、いいデザインが残ると思っている。

ねこ「tipp.tapp」
ねこ「tipp.tapp」
ゆかいな3人組「gesellen」

■ケルナースティックシリーズ
メーカー:Kellner Steckfiguren(ケルナー・スティック・フィグーレン)
ケルナースティック基本セット
素材:木、フェルト
構成:様々な動物や人形の顔、手足や胴体のパーツ、クルマの車輪のパーツ約70個、ゴムのジョイント約50個
価格:20,350円(税込)

<問い合わせ先>
ANDCHILD(アンドチャイルド)
https://www.andchild.jp
TEL.0276-55-1967