人には好きな物や事がある。私の人生を振り返ってみると、幼少期の切手やコインの収集に始まり、年齢と共に鉱物や化石にその対象を拡げていった。こうしたものを収集するのは精神的に貧しいのかも知れない。しかし、ひとつの物や事を好きになり、そうした行為を続けることでその分野の権威になることもある。

ただ、そうした高処に到達するためには大変な努力と時間と経費や周りの人達の理解が必要であろう。また、そうして得た知見や知識、資料、収集品等々を文献や記事としてまとめ広く世間へ発表したり、後世に残すことも重要だ。しかし、多くは個人の中で仕舞ったまま人生を終えるのではないだろうか。要は周りの人達に迷惑を掛けないことである。

私の場合、大学生の頃から椅子の魅力にとり憑かれいつの間にか椅子の研究者となってしまった。その数は1300種類を超え、その資料は数万点にのぼり、さらに椅子以外の20世紀のデザイン史に残る日用品の数も膨大である。

現代の日本人の暮らしを概観したとき、衣・食・住の総てがファスト製品に支配されているように思えてならない。そうした製品は低価格の裏に様々な問題を孕んでいる。寿命の短いものは所詮間に合わせの物である。本当に品質の良い、安全で飽きのこない、それを所有することで誇りを持てるような、そんな本物の素晴らしさを若い人達に知って欲しいものだ。私は人生のほとんどをモダンデザインのために費やしてきた。最終的な目標としては日本初のデザインミュージアムの創設である。趣味・道楽もある一線を越えたとき文化になることを知って欲しい。

今回紹介するのは、椅子のスケールモデル(ミニチュア)である。ドイツのヴィトラデザインミュージアムで販売されているもので、実物と見紛うほどの完成度である。それもそのはずで、実物と同じ素材や工法により1/6サイズで製作されているのだ。そのためミニチュアと言えど高価であり、作品によっては国産のダイニングチェアよりも高額である。ミニチュアであれば小さいため場所をとることなく、少しずつ買い足してゆく楽しみもある。また、実物を購入しその傍らに置くのもいいだろう。手先の器用な人なら現在使用中の椅子を実測し、1/5サイズのミニチュアを製作してみるのもいいだろう。そうすることで作家のデザイン意図や、職人の技術を理解することに繋がるのではないだろうか。

最近日本では、物や事に対して無関心な人達が多いように感じる。そして物に対して拘りが無い、言わば人と物の接点が希薄な時代になっているように思われることがある。人間なら誰もが持っている「好き」や「興味」は知的好奇心をそそり、自身の教養を高め、人生を豊かにしてくれるものだ。人と物の関係を見なおすべき時かもしれない。

■Vitra Miniatures Collection
詳細は下記URLを参照
https://www.vitra.com/ja-jp/product/miniatures-collection

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