「どんな色を選べばいいのか」。色決めは、家づくりでの大命題のひとつです。家づくりで知っておきたい!「色」の基本 【1】では色の「基本要素」や「役割」、【2】では、「温度」「広さ」「重さ」といった色から受ける感覚について、インテリアコーディネーターの本間純子さんにお話いただきましたが、今回は実際にインテリアをコーディネートするときのベースとなる考え方と、色ごとの特徴や相性について解説していただきましょう。


インテリアの色彩計画のスタートはさまざま

私がインテリアコーディネートをするとき、色彩計画のスタートラインは実にさまざまです。室内に飾りたい1枚のお気に入りの絵の色から始まることもありますし、思い出がいっぱい詰まった椅子の張り地の色に合わせて、ということもあります。ただ、多くの場合は、住まい全体のイメージを捉えて色彩の方向性を決めることから始めます。

「役割の異なる3つの色」がインテリアコーディネートの基本

インテリアコーディネーターは「ベースカラー」「アソートカラー」「アクセントカラー」という役割の異なる3つの色を踏まえて、空間の色をどうコーディネートするか考えています。ちょっと専門的ではありますが、ご自身で色を検討する際の参考になると思いますので、少しご紹介しますね。色が空間に与える影響は絶大で、下のパースのように、同じ部屋でもインテリアの色が違うだけで印象がガラッと変わります。

ベースカラー(床・壁・天井)は明るいブラウンとオフホワイト。アソートカラー(カーテン・ソファ・ラグマット)はグレーの濃淡を生かし、アクセントカラー(家具・フロアスタンドの脚や棚板、額縁)としてのこげ茶色が空間を引き締める
ベースカラー(床・壁・天井)は明るいブラウンとアイボリー。アソートカラー(カーテン・ソファ)はベージュの濃淡を生かしたナチュラルイメージに。カラフルなアクセントカラー(絵画やクッション、ラグの模様、本)で楽しい雰囲気を演出

ベースカラー基調色) 〜床・壁・天井の色

空間の配色イメージの中心となる色を「ベースカラー(基調色)」といいます。住宅では、床・壁・天井などの大きな面の色がベースカラーです。白やアイボリー、明るいグレーなどの高明度・低彩度色(明度や彩度については家づくりで知っておきたい!「色」の基本 【1】参照)で仕上げた壁・天井と、木を主体としたブラウン系の床との組み合わせがベースカラーの定番。めったに張り替えや塗り替えをしない部位なので、「毎日目に触れても飽きにくいこと」、「家具やラグ、カーテンなど空間に追加されるインテリアの色彩と合わせやすいこと」が、ベーシックな配色が選ばれる理由でしょう。

ベースカラーを白やアイボリー、ブラウンの組み合わせでコーディネートするのが、日本の住宅のスタンダード
ベースカラーを白やアイボリー、ブラウンの組み合わせでコーディネートするのが、日本の住宅のスタンダード
色の濃淡や組み合わせ、それぞれの色が占める面積などによって、空間の印象が大きく変化する

②アソートカラー(配合色) 〜カーテン・ベッドカバー・家具などの色

ベースカラーをサポートする色を「アソートカラー(配合色)」といいます。主張しすぎず、とはいえ単調にもならないよう、配色をコントロールするポジションの色です。 住宅ではカーテンやベッドカバー、ラグマットなど、空間のなかで比較的広い面積を占める部分に使う色をアソートカラーと考えています。ちなみに「アクセントウォール」も、この文脈でいくと「アソートカラー」になります。ちょっとややこしいですが…。

アクセントウォールとソファの色がこのLDKのアソートカラー
リビングに隣接する主寝室。手前には干して乾いた洗濯物をそのままかけられるオールハンガー収納も
ベッドカバーとブラインドが寝室のアソートカラー

③アクセントカラー(強調色) 〜クッション・絵画などの色

統一感のある配色は、落ち着きや安心感をもたらしますが、一方で物足りなさを感じたり、色彩に変化が欲しくなることもあります。そこで便利なのが、空間の差し色として使う「アクセントカラー(強調色)」です。

アクセントカラーには、入れ替えしやすいアイテムを使うと良いでしょう。絵画やクッション、お花、ディスプレイする雑貨小物などは、入れ替えが比較的簡単でおすすめ。季節ごとに色を変えると、お部屋の雰囲気も気分も一新できますよ。

また、ドア枠や窓枠、カウンターなどにアクセントカラーを使うという方法もあります。アクセントカラーを上手に使うことで室内の配色の単調さを防ぎ、生き生きとした自分たちらしいインテリア空間をつくることができます。

壁の絵とクッションのやさしい赤色がアクセントカラーとして映えて、空間がぐっと素敵に見える
壁の絵とクッションのやさしい赤色がアクセントカラーとして映えて、空間がより素敵に見える
グレーや黒をアソートカラーとアクセントカラーにとり入れた例。ベースカラーはベーシックな配色ながら、空間全体がシックな印象に
グレーや黒をアソートカラーとアクセントカラーにとり入れた例。ベースカラーはベーシックな配色ながら、空間全体がシックな印象に

個性豊かな「色の作用」

例えば「淡いピンク」と聞くと、多くの人が「やさしい」「柔らかい」「甘い」などの印象を持つように、色には感覚や感情をイメージさせる作用があります。家づくりではお気に入りの色を使うのが一番ですが、色選びの参考までに、代表的な色が持つイメージや特徴、コーディネートのポイントをご紹介します。

赤・橙・黃は「元気」や「ハッピー」のイメージ

赤や橙の暖色系は、活動的で陽気、明るさや喜びのイメージを持っています。ハッピーな気分を盛り上げたい誕生パーティーなどの演出には不可欠な色で、小さなアクセントカラーでも立派にその力を発揮します。ビタミンカラーと呼ばれる橙や黄も、快活で明るく元気なイメージの色です。レモンやオレンジといった果物からビタミンを摂取するように「目からもビタミン補給」といった感じでしょうか。

ちなみに橙の高明度・低彩度色はアイボリーや明るいベージュ、中明度・低彩度色はブラウンで、住まいの定番色です。その色調は木材や石材にも通じ、温かみや落ち着きを感じさせます。同じ色相で、明るさの度合い(明度)や鮮やかさの度合い(彩度)の異なる色を組み合わせると、色のバランスが取りやすく、空間がコーディネートしやすいですね。

明るいブラウンの木の空間に、ビビッドな赤や黃のチェアが映えて、空間が快活な印象
明るいブラウンの木の空間に、ビビッドな赤や黃のチェアが映えて、空間が快活な印象
気分を上げるために赤色で仕上げた収納扉は、店舗併用住宅の家モードと仕事モードの切り替えスイッチに
気分を上げるために赤で仕上げた収納扉は、店舗併用住宅の家モードと仕事モードの切り替えスイッチに
一見派手に見える壁紙も、内装の色調を合わせれば空間の素敵なアクセントになる
一見派手に見える黄色の柄の壁紙も、内装の色調を合わせれば空間の素敵なアクセントになる

人気の青は「青一色でまとめすぎない」のが心地よさのポイント

青は落ち着きや静かさ、爽やかさをイメージさせる色です。青に代表される寒色系は「鎮静色」とも呼ばれ、実際に気持ちを落ち着かせる効果があります。明度や彩度などによって印象が変化しますし、木・石・金属・ガラスなどの素材とも相性が良いのでインテリアにとり入れやすく、人気の色です。

知的な雰囲気もあり好感度の高い色の一方、寒色系ならではの注意点もあります。それは「青系でまとめすぎない」こと。青系でまとめた部屋にいると落ち着きすぎて気分が上がらず、気持ちが沈みがちになってしまうといわれます。

また高明度・高彩度の青は、冷涼感を強く感じさせます。1年を通して心地よく過ごすためには「青の占める面積を減らす」「木質系の家具や小物を加えてコーディネートする」など工夫するとよいでしょう。

冷涼感を強く感じさせる高明度・高彩度の青も、使う場所やコーディネート次第で心地よく素敵な空間に

ソファやクッションの彩度の高い青が空間を華やかに演出。赤みのある木の色、ラグやクッションの赤が良いバランス
ソファやクッションの彩度の高い青が空間を華やかに演出。赤みのある木の色、ラグやクッションの赤が良いバランス
紺に近い深い青は、ステンレスや真鍮などの金属との相性も◎。不思議と寒々しさも感じさせない
紺に近い深い青は、ステンレスや真鍮などの金属との相性も◎。不思議と寒々しさも感じさせない

上手に使うと空間が素敵に華やぐ紫・赤紫

紫や赤紫は「高貴」「優雅」といったラグジュアリーなイメージが強い色で、インテリアでの扱いが難しい色です。ただ上手に使うと、上品で個性的なインテリア空間を演出できます。コーディネートのポイントは「配色」と「素材」を吟味すること。彩度を抑えた紫を選び、マットな質感を意識すると、品が良く素敵なアクセントになるでしょう。紫は、今は小学生の女の子にも人気です。こちらはアニメの影響のようですね。

どんな色とも合う無彩色。扱いが難しい紫色も、グレーと組み合わせてマットな質感に仕上げることで、個性的で心地よい空間のアクセントになる
シックなレンガ壁と彩度の低い赤のソファ、天井の赤みがかった木の色が統一感を生んでいる
シックなレンガ壁と彩度の低いエンジ色のソファ、天井の赤みがかった木の色が統一感を生んでいる

「安心」「安全」をイメージさせる緑

「安全」や「安心」の印象がある緑は、ベージュやブラウン、白といったベースカラーとして用いられる色との組み合わせはもちろん、相性の良い色が多いため、アソートカラーとしてもアクセントカラーとしても使いやすい色です。豊かな自然を連想させる緑がまとうイメージは「安心」や「安全」。コーディネートのしやすさに加え、安らぎにつながるこの印象も人気の秘密かもしれません。

緑は森林や草原の色のイメージですが、実際の植物の緑は、私たちが思うほど彩度が高くありません。緑をインテリアにとり入れるときは、観葉植物の緑より彩度を低く抑えると自然の緑と調和しますよ。

ベーシックな緑のアクセントウォール。木のブラウンとの相性は抜群
ベーシックな緑のアクセントウォール。木のブラウンとの相性は抜群
彩度を抑えた若草色のソファが、シンプルな色調でまとめた空間の良いアクセントに。ラグのカーキ色と同系色でコーディネートしているのも効果的
彩度を抑えた若草色のソファが、シンプルな色調でまとめた空間の良いアクセントに。ラグのカーキ色と同系色でコーディネートしているのも効果的

有彩色を引き立てる、無彩色の白・グレー・黒

白・グレー・黒は、住まいの定番色。最近の家づくりでは、あまり鮮やかな色を使わずに、木やタイル、金属、ファブリックなどの素材感で変化をつけながら、ブラウン系とモノトーン系の色味のみでコーディネートした空間を好む人も増えています。

木の造作キッチンに、チャコールグレーのタイル壁を組み合わせたシンプルなキッチンまわり。ドライのリースが効果的なワンポイント
白やベージュがベースカラーのLDKに、チャコールグレーのソファとグレーのクッション、カーテンを効果的に配色
白やベージュがベースカラーのLDKに、チャコールグレーのソファとグレーのクッション、カーテンを効果的に配色

色の世界の専門用語では、赤や黃、青など色味のある色を「有彩色」といい、白、グレー、黒といったモノクロームのことを「無彩色」といいます。家づくりで欠かせないこの無彩色には、有彩色を効果的に引き立てる不思議な力があります。

例えば白い内装の空間に青い絵が掛けられると、青の印象がぐっと強くなります。真紅のソファが置かれれば、そこは赤いソファのための空間のように感じられます。モノクロームである無彩色はどの色とも調和しますが、特に白と高明度色の組み合わせは柔らかく優しい印象を、黒と高彩度色の組み合わせはインパクトのある強い印象を演出します。

白を基調としたLDK空間に、高明度の淡い赤のアクセントウォールが優しく映える
黒い造作キッチンにビビッドな赤いモザイクタイルが、シックでありつつ強いインパクトを感じさせる
黒い造作キッチンにビビッドな赤いモザイクタイルが、シックでありつつ強いインパクトを感じさせる

長く心地よく暮らすための、住まいの色彩

しばらく前のことですが、 毎年大盛り上がりの卒業パーティーが、その年はなんとも気分が乗らず、少し寂しい気分でお開きになったことがありました。学生たちの演出はこれまで以上に派手なのに…です。実はその年だけこれまでとは違う会場で、カーペットは青系でした。それまでの会場は赤系のカーペットだったので、もしかしたら、寒色系の床がハメを外す気分を抑えていたのかもしれません。

ホテルやレストランは、それぞれの目的に合わせた演出の色が必要ですが、住宅は家族の暮らしの悲喜こもごもを包み込む場所。日々変化する人の気持ちをしっかりと受け止める色彩が必要です。長く心地よく暮らしていくために家づくりでは、色を変えにくい床・壁・天井はベーシックな色調で仕上げ、気分や季節でラグや絵、照明などのインテリアを変えて色彩を楽しむのがおすすめです。

ひんやりした空気を感じる季節になりました。ひざ掛けを準備したらソファのクッションも冬仕様にしませんか?季節の先取りは心のゆとりです。冬に向けて、ぜひお家のインテリアも「色」を意識しながら衣替えしてみてくださいね。