「良いデザインの家」とは、見た目も間取りも、省エネ・省コストにつながる住宅性能も、トータルに考えデザインされた家。Replanでは「美しく暮らす 東北のデザイン住宅2021」の発刊に合わせて、そんな家づくりに取り組む東北の住まいのつくり手の声をお届けしていきます。今回は、山形県山形市を拠点に注文住宅を手がける金内勝彦設計工房の金内 勝彦さんです。

“記憶”を引き継ぐことと、“未来”を拓くこと

リノベーションが素晴らしいのは、住まい手が大切にして暮らしてきた“記憶”を引き継ぎながら、新たな“未来”をワクワクしながら拓くことができることです。そこにあるものをそのまま残したり、別のところに異なる使い方をしたり。新築のようにまったく新しくすることもできますが、それでは“記憶”がつながらない。古い部分と新しい部分とが共存することで新たな命が吹き込まれる、そんな嬉しい瞬間があります。

床柱、落とし掛け、障子戸、縁側といったもとの家の“記憶”をあえて残している住まい
床柱、落とし掛け、障子戸、縁側といったもとの家の“記憶”をあえて残している住まい

河川敷を一望し、季節を感じる2階LDKの住まいに

「馬見ヶ崎川の家」は、1978年(昭和53年)に竣工した住まいを買い受け、新たな家族のためにリノベーションした実例です。50.3坪あった建物を35.6坪に減築し、家族構成に適した規模に縮小しました。馬見ヶ崎川の河川敷沿いにあって、季節の移ろいが楽しめる立地を生かし、主な生活の場を2階に計画しました。奥さんの意向を採用して実現した、2階がLDKの住まいです。

リノベーションをして長く快適に住むためには、耐震改修と断熱改修が重要です。耐震診断をもとに耐震設計を行い、床・壁・天井・開口部の断熱性能は新築同等の仕様にしました。

リノベーション前の外観

リノベーション後の南東の外観。1階はスギ板張りで仕上げ、装いも新たに
北東の外観。北側部分を減築し、駐車帯と外部収納を確保した

雨雪対策として、玄関アプローチには雁木を設けた
雨雪対策として、玄関アプローチには雁木を設けた
玄関には壁面収納を造作。正面に既存柱と架け替えた階段が見える
2階LDKを含め、7ヵ所あるカウンターやTV台の天板はすべて異なる材種の天然木にこだわった。窓の外は四季折々に彩られる
2階LDKを含め、7ヵ所あるカウンターやTV台の天板はすべて異なる材種の天然木にこだわった。窓の外は四季折々に彩られる

解体前の建物は宝の山です。これまでの住まい手の記憶が、あちこちに詰まっています。棟梁に相談しながら、使えそうな材料を処分せずに丁寧に保管してもらいます。例えば、障子戸や落とし掛けはそのまま生かしました。また天井板は机の壁に、欄間板は本棚の背面に、記憶を引き継いでいます。

子ども部屋の壁面に、旧宅の和室の天井板を張って仕上げ、“記憶”をつなぐ
子ども部屋の壁面に、旧宅の和室の天井板を張って仕上げ、“記憶”をつなぐ
階段に面して造りつけた本棚の背面には、旧宅の和室の欄間板をはめ込んだ
階段に面して造りつけた本棚の背面には、旧宅の和室の欄間板をはめ込んだ

完成内覧会でのエピソードがあります。以前の住まい手であるご夫妻を招待すると快くお越しになり、ビデオカメラを片手に「こんな風に生かしてもらい、とてもありがたい」と笑顔でお話しくださいました。リノベーションの持つ力を改めて実感した出来事でした。

河川敷の風景を取り込むように設けた出窓。造作カウンターからは、季節の移ろいとステイホームを楽しめる
河川敷の風景を取り込むように設けた出窓。造作カウンターからは、季節の移ろいとステイホームを楽しめる

■建築DATA
山形県山形市・Kさん宅
家族構成/夫婦50代、子ども1人
構造規模/木造・2階建て
延床面積/118.08㎡(約35坪)

設計/(株)金内勝彦設計工房 金内 勝彦
施工/佐藤建築

撮影/長岡 信也

 

\2021/6/16発売!「美しく暮らす 東北のデザイン住宅2021」/

東北で活躍する建築家や建築会社によるデザイン性の高い住宅実例集のほか、東北6県で活躍する建築家6組に、大きく変化しつつある「今とこれからの住まい」についてインタビューした巻頭特集や、古いれんが倉庫をリノベーションして生まれ変わった「弘前れんが倉庫美術館」の取材ルポなど、住宅や建築を多面的に捉えたコンテンツで、家づくりの参考になる住宅のデザインを提案。住宅実例も多数掲載!

東北の書店にて発売中!
〈インターネット購入〉Replan webサイト AmazonFujisanマガジン
※インターネット購入・方法についての詳細はこちらからご確認ください

————————————————

★YouTubeで座談会を視聴できます!★
今回は特別企画として、巻頭特集でインタビューした建築家たちによるオンライン座談会を開催。特集で語ったことや建築家として考えていることなど、普段聞けない話が盛りだくさんです!ぜひ併せてご視聴ください。