「良いデザインの家」とは、見た目も間取りも、省エネ・省コストにつながる住宅性能も、トータルに考えデザインされた家。Replanでは「美しく暮らす 東北のデザイン住宅2021」の発刊に合わせて、そんな家づくりに取り組む東北の住まいのつくり手の声をお届けしていきます。今回は、福島県郡山市を拠点に注文住宅を手がけるエア・コーポレーションの佐久間 宏一さんです。

3つのコンセプトが住宅デザインの柱

「和(ジャパニズム)+モダニズム+ヒュ-マニズムの建築」。これが、私が大事にしている住宅デザインのコンセプトです。

「和(ジャパニズム)」とは、日本の風土に合う、自然素材を使用した和みを感じる家をつくること。要素を削ぎ落とすだけではなく、そこに「和」の風情を足したデザインを大事にしています。「モダニズム」とは実用性を重んじ、無駄を省いた機能的な建築であること。装飾を極力抑え、今とこれからの暮らしに寄り添っていくデザインを意識しています。最後に「ヒュ-マニズム」ですが、住宅は人が暮らす場。ヒュ-マンスケ-ルに基づいた暮らしやすい設計が必要です。

3つのコンセプトを柱に、素材や佇まいは自然なありのままの姿を大切にし、文化性を重んじた建築をデザインしていくことが、住まい手の豊かな暮らしを育んでいくと考えています。

竹林を臨むLDK、落着きと開放感の共存
竹林を望むLDKは、落ち着きと開放感が共存する心地よい住空間

梅の木がつなぐ「場の記憶」

建主の親戚が住んでいた跡地につくったのが、この「梅樹の家」です。竹林を背景に雑草が生い茂る状態でしたが、その中に古い梅の木を見つけました。家の設計は、その梅の木をシンボルツリ-として残す方向で進めました。

低く構えた家の門は、ガレージに組み込んで建物と一体感を持たせた
低く構えた家の門は、ガレージに組み込んで建物と一体感を持たせた
シンボルツリーの梅の木を囲むように建物を配置
シンボルツリーの梅の木を囲むように建物を配置

玄関からは水音が聴こえ、中庭の梅の木を垣間見ることができます。玄関右脇に配した和室の客間は、障子戸を開けると梅の木と枯山水の庭が広がります。和室と対峙するのはゲストリビングです。中庭と一体感を持たせるために床を一段低くして地面に近づけるとともに、テラスと水盤を設けました。玄関で聴こえる水音の正体は、この水盤に落ちる水流です。

間接照明で優しく照らされた和室。中庭とのつながりが心地いい
間接照明で優しく照らされた和室。中庭とのつながりが心地いい
梅の木と竹林、水盤とテラスに囲まれるゲストリビング
梅の木と竹林、水盤とテラスに囲まれるゲストリビング
ゲストリビングから見るテラス。水盤に流れ落ちた水の音が心地よく響く
ゲストリビングから見るテラス。水盤に流れ落ちた水の音が心地よく響く

私は家を設計する際、光や温熱環境はもちろん、水や風の音の存在を考えます。LDKをはじめ、すべての場所で景観、光、風の抜けなどを検討します。

この家はさまざまな居場所からシンボルツリ-が見えるようにつくりましたが、建主の叔母さんから「父も喜んでいると思います」との言葉をいただきました。子どもたちが大人になったときに、梅の木と家族の記憶を思い出してくれたら…と、密かに願っています。

LDKの全景。南面のハイサイドライトからやわらかな光が降り注ぐ
LDKの全景。南面のハイサイドライトからやわらかな光が降り注ぐ
リビングの窓の外にはファミリーガーデンが広がる
リビングの窓の外にはファミリーガーデンが広がる

もともとあった古い梅の木を活かした枯山水の中庭
静謐な玄関の窓の外にも、梅の木が見える

■建築DATA
福島県いわき市・Oさん宅
家族構成/夫婦40代、子ども4人
構造規模/木造・2階建て
延床面積/286.72㎡(約86坪)

設計/エア・コーポレーション 佐久間 宏一
施工/エア・コーポレーション

撮影/NAPS

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